工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男

f:id:tally:20190814145022j:plain


誰も知らなかった南と北の裏の裏の裏
北に潜入した工作員の見た祖国の闇には、
驚愕の真実が隠されていた―

英題:THE SPY GONE NORTH
監督・脚本:ユン・ジョンビン
脚本:クォン・ソンフィ
撮影:チェ・チャンミン
編集:キム・サンボム、キム・ジェボム
美術:パク・イルヒョン
衣装:チェ・ギョンファ
音楽:チョ・ヨンウク


『悪いやつら』『群盗』のユン・ジョンビン監督作で、ファン・ジョンミン主演
ということで、ウォッチリストには入れていたのですが、
信頼できる友の激推しで、優先順位トップへ。

めっっっちゃおもしろかった!!!
政治サスペンスとしても、 働きマンドラマとしても、
ブロマンスとしても、熱い「浩然の気」*1が満ち満ちている!
信念を分かち合った 最高の両想い!

北への潜入というだけでも、ハラハラドキドキなのに、
なにせあの将軍様にプレゼンを通す、という
スパイでなくてもちびりそうなミッション。
そのミッションに共に立ち向かい、
ひいてはもっと大きな志のために立ち上がる2人に
拳を握らずにはいられない。


f:id:tally:20190814150112j:plain


ファン・ジョンミン大ファンで、すばらしい演技だったけれど、
今作はとにかくイ・ソンミン a.k.a. リ所長にKOされてしまった。
あの魅力を言葉で表すのは難しいのだけれど、
熱いものを秘めつつも、含羞のひと、といったたたずまいがたまらない。
あのずっと見ていたくなる魅力は何なのか?
なにか激しく琴線に触れるものがある。
「冒険しませんか?」という最高の文句で口説きたくなるのもわかる。

ヘウォンメクことジフニも変にかわいい見せ場が多くて、
思わず笑ってしまった。
いつメンとボックス席に座る姿、謎のダンス、
おだてられてまんざらでもない顔、
将軍様の前でのドボンの際の喉仏。
また軍服の着こなしがすさまじいのよなー。

食事や飲酒のシーンも豊富で最高。
高級ホテルでの会合や金正日への謁見など、
ていねいな描写を積み重ねてきた末に投下される
リ所長宅飲みの破壊力!
熱い涙がほとばしり出ました。


★★★★★

*1:孟子の説いた説。人間の内部より発する気で,正しく養い育てていけば天地の間に満ちるものとされる。また,道義が伴わないとしぼむとされ,道徳的意味を強くもつ概念である。道徳的活力。 らしい

ある女流作家の罪と罰

f:id:tally:20190813145910j:plain


原題:CAN YOU EVER FORGIVE ME?
監督:マリエル・ヘラー
撮影:ブランドン・トゥロスト
編集:アン・マッケイブ
音楽:ネイト・ヘラー
原作:リー・イスラエル
Based on a True Story.


この作品がDVDスルーとは……。
個人的にはしみじみ好きな映画です。

まず、著名人の手紙の捏造、という犯罪。
わたしも犯罪に手を染めるとしたら、
これは楽しそうだと思ってしまった。
そのひとになりきって、ある意味そのひと以上に
個性が出た手紙を書く、というのは
一種の創作行為ではあり、やはり才能が必要だろう。
オリジナルの便箋を発注したり、
紙を焼いて劣化させたりする作業も楽しい。

それゆえ、後半、この行為がどんどんエスカレートし、
最終的にただの精巧な複製に堕ちる時の哀しさには、
自分でもハッとするほど胸が痛くなる。
もともと犯罪なんだけれど、矜持をうしなった瞬間の
自分への裏切りが一番の罰であるように
描かれていたように思う。

偏屈で高慢で不潔。
現実の知り合いなら敬遠してしまうような、
欠点だらけのアウトローをチャーミングに
描いているところも映画らしくて好き。

性的マイノリティ同士の老いらくの友情は
妙にまぶしくさわやかで、
うまくいっているときの無敵感と
それでも必ず終わりがくる夏休み感は、
やはり一種の青春映画だと言えるような気がする。
そのモラトリアムの終わりのあとの余韻にもぐっとくる。

NYのたくさんの本屋/図書館/バーが、
入れ替わり立ち替わりでてくるだけで、
本当にわくわくするので、
DVDで持っておきたい作品。

原題『Can you ever forgive me?』の
ウィットが示す通りの映画なので、
邦題もその雰囲気を汲んでほしかったな。


★★★★

トイ・ストーリー4

f:id:tally:20190802085713j:plain


あなたはまだ―
本当の『トイ・ストーリー』を知らない。

原題:TOY STORY 4
監督:ジョシュ・クーリー
脚本:ステファニー・フォルソム
脚本・製作総指揮:アンドリュー・スタントン
撮影監督:パトリック・リン、ジャン=クロード・カラーチェ
編集:アクセル・ゲッデス
プロダクションデザイナー:ボブ・ポーリー
音楽:ランディ・ニューマン


だいすきないつメンとクリスチアノ前に。

わたしは、1996年公開の『トイ・ストーリー』が全くハマらず、
以来2も、大傑作の呼び声高い3も、スルーしてきました。

まず1でハマらなかったのは、ひとえにシドの扱いについて。
改造が悪として描かれているのを観て、
「おもちゃってそんな了見の狭いモノだっけ?」と。
のちに、実際に玩具業界に身を置くこととなり、
創造主はやはり完全にシド側の人間だと確信するのですが…
(それはまた別の話)。

今回みんなで4を観に行くことになって、
「よし!いい機会だから敬遠してきた2・3も観よう!」と一気観しました。
しかし、2ではコレクショントイが悪として描かれており、
3はさすがに評判通りの出来で、シリーズ中最も楽しめたものの、
やはり低年齢の遊び方が苦行として描かれており……。

つまり、1~3を通して、おもちゃの楽しみ方を大幅に制限しており、
玩具業界にいた身としては、なんて偏狭な遊び方の提示だろう…、と
すっかり悲しくなってしまったのです。


それでも、定例映画会のチョイスに「待った!」をかけなかったのは、
なんとなく、「1~3がひっくり返る」「アンチほど納得がいく」という評が
かすかに漏れ聞こえてきたから。


cinema.ne.jp


結果!4にしてはじめてハマれました!
わーいわーい!

今回やっと持ち主側にも寄り添ってくれたというか。
「失くしてしまったり手放してしまったりしたおもちゃたちも
こんな風にいきいきと暮らしているかも…」という
夢を見させてくれて、感無量です。

ただ、新キャラたち*1が異様に良かったりと、
今回楽しかった部分はほぼ1~3に無い部分だったので、
これはたしかに…、これまでのシリーズファンはどんなきもちなのか…と
若干心配にはなりました。
クレジットにもピート・ドクターにジョシュ・クーリー、と
だいすきな『インサイド・ヘッド』組が名を連ねているので
俺得ではあるものの、端的にジョン・ラセター派はどうなのかな…と。

とにもかくにも、自分的にはうれしい完結となりました。


★★★

*1:バニー&ダッキー a.k.a. ジョーダン・ピールキーガン=マイケル・キー!

ハッピー・デス・デイ 2U

f:id:tally:20190719115017j:plain


やっと抜けたと思ったのに、またハマっちゃったループ地獄。
今度は次元?!バック・トゥ・ザ・デス・デイ!
時を駆けるビッチがまた走るぅぅぅ!
ゲット・アウト』『パージ』のブラムハウスからまたプレゼント!
こんな続編観たことない!パラレルワールドでまさかの泣けるホラー降臨!

原題:HAPPY DEATH DAY 2U
監督:クリストファー・ランドン
製作:ジェイソン・ブラム


1が好きすぎて、おかわりがてら1・2通しで鑑賞してきました。
1が入ってくるのが2年も遅れたのは由々しき事態ではあるものの、
おかげで劇場で一気観できるのは、正直最高……!

今回は強くてニューゲームで、パラレルワールドで、BTTF!
のっけからユニバーサルロゴがスプリットし、ニヤニヤさせてくれます。
ジャンルはもはやSF青春コメディになっており、
「監督!あなた絶対に!ジョン・ヒューズ
大好きですね!(わたしもです!)」といった仕上がり。

以下ネタバレ

続きを読む

ハッピー・デス・デイ

f:id:tally:20190718110618j:plain


誕生日に殺されるなんて… え?しかも何回も?!
プレゼントは永遠に繰り返す<殺される誕生日>
時を駆けるビッチに明日は来るのぉぉぉ?
ゲット・アウト』『パージ』『ヴィジット』のブラムハウスからのプレゼント!
全米で予想外のNo.1大ヒット 
イムループでまさかの笑えるホラー降臨!

原題:HAPPY DEATH DAY
監督:クリストファー・ランドン
脚本:スコット・ロブデル
製作:ジェイソン・ブラム


最高かよ~!!!
ホラー版『恋はデジャ・ブ』!
時をかけるビッチ!

なにしろ『恋はデジャ・ブ』が人生ベスト級に好きなので、
完全にわたし向き。
かつ1975年生まれの監督とはおそらくぐっとくるものが似ているんだろう。
のっけから、ユニバーサルロゴのループ、
バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ゼイリブ』のポスター、
Dumpstaphunkのラグラン、
"Busy Day Birthday"の着メロ、ときて、大当たりを確信。
そこからはずっと「やばい…すき…すき…」と目を輝かせ
ふるえながら観ていました。

以下がっつりネタバレ

続きを読む

Girl / ガール

f:id:tally:20190710100519j:plain


バレリーナになる。
この夢は、何があっても諦めない。
美しきトランスジェンダーの少女ララ。
イノセントな彼女がたどり着く、映画史上最も鮮烈で
エモーショナルなクライマックスに心震える感動作

英題:GIRL
監督・脚本:ルーカス・ドン
脚本:アンゲロ・タイセンス
撮影監督:フランク・ヴァン・デン・エーデン
編集:アラン・デソヴァージュ
振付師:シディ・ラルビ・シェルカウイ
美術監督フィリップ・ベルタン
衣装デザイン:カトリーヌ・ファン・ブリー
ヘアメイク:ミシェル・ベークマン
音楽:ヴァレンティン・ハジャド
Based on a True Story.


しずかに燃えるような すさまじい衝撃
「もう観ていられない」と思うようなつらい描写も多く*1
決して万人にはおすすめできないけれど、
わたしにはぐっさり刺さりました。
涙が止まらなかった。

たしかにストーリーはなかなかにショッキングだけれども、
描いていることはとても普遍的なことだと思う。
思春期の醜形恐怖と焦り、理想と現実のギャップ、
家族に対する感謝と疎ましさ、
すきなことや憧れへの情熱と、
それに一瞬手が届きかけた時の多幸感。

とにかくこの題材を描くのにバレエというモチーフが合いすぎている。
「女の子」という型にはまること。
1日レッスンを休むと取り戻すのに3日かかるという過酷さ。
第二次性徴による変化でただでさえ効かなくなる身体。*2
足をボロボロにするが、限りなく美しく優美なポワント(トゥ・シューズ)。

主人公のララを演じているのは、シスジェンダーのダンサー
ヴィクトール・ポルスターだが、この事実だけでも
どれほど大変なことかは想像を絶する。
劇中で説明されている通り、本来ポワントは幼少期からじっくり慣らして
履くものだが、この演者はララと同じ条件でポワントに取り組んだわけで、
なおかつ今まで長年踊ってきた男性の踊りを封印して、
全く異なる女性の踊りに挑戦しているのだ。
劇中で、ララは「自分を解放して」と教師に叱咤されるが、
リミットははずしつつも、自分の中の男性性を抑えこみ、
優美な女性性を表現するなんて、どれほど難しいことだろう。
その困難な状況に、ララはしずかな微笑みをたたえたまま、
ただひたすらにルーティンをくり返す。
「今のままではだめ もっと努力しないと」と叱咤をくり返しつつも
ララを抱きしめてしまう教師の姿には、涙がこぼれてしまった。
ララはトランスジェンダーの役者が演じるべきという批判があったらしいが、
それは盲目的な逆差別のように感じられる。
このヴィクトール・ポルスターの演技を観てもなお同じことが言えるだろうか。
それくらいヴィクトール・ポルスターの表情やたたずまいだけで
胸に迫ってくるものがある。

「なぜバレエなのか?」という点を説明しないのも良い。
ララの踊りが一皮剥けた瞬間の、
ララや団員の表情、教師の賞賛の言葉だけで、
バレエの楽しさや中毒性を雄弁に語っていると思う。*3

そして監督の出身地でもある、「世界一、トランスジェンダーへのケアが行き届いた街」と言われる、
ベルギーのヘントのすばらしさ。
家族や医師の受容度はもちろんのこと、
嫌がらせをしてくる団員すら
トランスジェンダー」ではなく「頭角を現したこと」が動機として
描かれていることに感動してしまった。
ここのところ「カビくさい…
おっさんの発案みたいだ…」とモヤモヤしていたディズニーのポリコレを吹き払うような、社会の提示。
1991年生まれでニュー・ドランと目されるルーカス・ドン。
これが長編デビュー作で、短編も一貫して「ダンス」「変革」「アイデンティティ」について描いてきたという。これは追うしかない!

鮮烈なラストに賛否両論があるらしいが、
監督がパンフレットで語っている通り、
これは「間違った選択」として描かれていると思う。
ただ、その選択も含め、モデルとなったノラ・モンセクールを
否定しないという着地なのだと。
どんなに本人の努力と周囲の理解があっても、
誤った道を選んでしまうかもしれない思春期の危うさとその選択の哀しさ。
それでも生きていさえすれば浮かぶ瀬もあるかもしれないほのかな希望。

鑑賞後、「彼女が踊り続けてくれているといいな」と思い、
調べてみるとコンテンポラリーに転向はしたものの、
プロのダンサーとして活躍されているということで、
ホッとしました。ほんとうによかった。


★★★★

*1:同じ列の女性は頻繁に手で顔を覆ってしまっていた

*2:急激に硬くなったり、踊りが崩れたりする。

*3:ただ、それは経験者だから感じることで、ダンスに全く興味がない人にはもうちょっとガイドを増やした方が観やすくなったとは思う。

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

f:id:tally:20190710090957j:plain


夏休みがニック・フューリーに支配される。

原題:SPIDER-MAN:FAR FROM HOME
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ,エリック・ソマーズ
原作スタン・リー,スティーヴ・ディッコ


トムホは人類の孫
ゼンデイヤMJとジェイク・ギレンホールも最高
監督&脚本コンビも好きなのですが…
やはり『エンドゲーム』と同じく
世間の熱狂から取り残される形になってしまいました。


fusetter.com

(1)↑ほんとこれなー。前作『ホームカミング』
青春モノとしてもものすごくよくできていたのに比べ、
今作はラストの最高の甘酢*1で巻き返すものの、
どこかチグハグな印象。
『エンドゲーム』後のMCUという荷物が重すぎるんでしょうね。
作品としてはわたしは断然ホムカミの方が好きでした。


fusetter.com

izakaya-arashi.www2.jp

(2)↑そして評価が分かれるポイントになるかと思う今作のメタ構造
ストーリーはちゃぶ台返しというか…、
一回しか使えない禁手をやってしまったなと。
かなり危険な領域に踏み込んでいる気がするな……と
鑑賞中からハラハラしていました。
ミステリオの仕掛けもポストクレジットも
「超人ヒーローの実在を楽しむ映画」っていうMCUの根底が
ゆらぎかねない、もっと言えばそういう観客をもてあそんでいるとも
捉えられかねない、ギリギリの線だな、と思いました。


あと、(3)スパイダーマンであまりヴィランを死なせてほしくないんスよ……。
少なくとも、死なせないための努力は描いてほしいんですよ。*2


とりあえず、わたしが一番危惧していたのは、スパイディが
アイアンマンの後継者として、「親愛なる隣人」を逸脱するところまで
引っぱり出されてしまうのでは……という点だったので、
その点についてはホッとしました。


しかし、わたしがマーベル・ヒーローに求めているのは「楽しさ」や「ワクワク感」が第一義なので、
「もうそんなキャンディを求めちゃいけない時代なのかな?」
などと、老害みたいなことを考えているところです。
『アイアンマン』ぐらいの味わいが心底なつかしい。



★★★

*1:「見てたから気づいた」って最高に愛だよ!

*2:これもホムカミではやってたじゃん……