ジョーカー


本当の悪は笑顔の中にある
笑いの仮面をかぶれ
DCコミックのキャラクターに基づく
2019年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞
第92回アカデミー主演男優賞

原題:JOKER
監督・製作・共同脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
製作:ブラッドリー・クーパーエマ、・ティリンジャー・コスコフ
撮影:ローレンス・シャー
美術:マーク・フリードバーグ
編集:ジェフ・グロス
衣装:マーク・ブリッジス
音楽:ヒルドゥル・グーナドッティル


危惧していたとおり過ぎる映画。
ホアキン・フェニックスはチャーミングでうつくしく、ゴッサム・シティは現実で、アンビバレントな想いに心を引き裂かれる映画。

大変に良くできた映画だと思うし、世評の高さにも納得だけど、個人的に好きか嫌いかで言ったら、嫌いがやや勝る。『ジョーカー』の下敷きになっている、『キング・オブ・コメディ』も『タクシー・ドライバー』も名作とは思うけれど、大好きな映画というわけではないので、もう好みの問題だと思う。*1

とはいえ、まずはホアキン・フェニックスがすばらしかった。あの画面支配力。あのダンスの求心力。小児科病棟で拳銃を落としてしまったあとの、一拍おいての「シー」。



そして映画自体も中盤までは乗れたのだけれど……。

*1:しかし、パプキンやトラヴィスには親しみが感じられるのに、アーサーには言語化できない違和感を感じる……。その理由をずっと考えててずっとモヤってます。自己憐憫とか自発的な思考力とかそのへんかな、と思っています。

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アイネクライネナハトムジーク

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あの時、あの場所で
出会ったのが君で
本当に良かった。
”出会いがない”という全ての人へ
10年の時を越えてつながる<恋>と<出会い>の物語

監督:今泉力哉
脚本:鈴木謙一
音楽:斉藤和義
原作:伊坂幸太郎


原作未読ですが、伊坂幸太郎らしい伏線回収群像劇。
お互い気づいていないけれど、見えない糸でつながっている人生への希望を感じられる良作です。奇しくも多部ちゃんが結婚する映画。サンドウィッチマンの使い方!w

この映画、今泉力哉監督の新作と思って打ちに行かないほうが楽しめたような気が……。伊坂幸太郎原作力のせいか、過去作と比べて今泉監督節はやや弱め。
そのぶんオープンで大衆性が高い印象。群像劇大好きだし、良い映画だったし、すごくヒットしてもいいような気もするのですが、正直「今泉作品を観た!」という満足感は薄かったです。言葉では言い表せないような感情の動きを映しとってみせる手腕が、大量の登場人物と伏線に消されてしまっているのが、もったいない。

ただ、原作をうまく活かして、監督お得意の「定義できない関係性」描写が、世代や性別に係らない、より広がりのあるものになっているのは感じられました。

以下雑記。

  • 序盤のミスリードはうまくないなと思いました
  • あの役は肉まんくんだからギリ許せる
  • 今泉監督は夜と女子をきれいに撮る人だな
  • 三浦春馬の激走、運動神経の良さがにじみ出すぎていて、感動が削がれるw

★★★

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド


ラスト13分。タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす。
第92回アカデミー助演男優賞

原題:ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD
監督・脚本・製作:クエンティン・タランティーノ
撮影監督:ロバート・リチャードソン
編集:フレッド・ラスキン
プロダクションデザイナー:バーバラ・リング
コスチュームデザイナー:アリアンヌ・フィリップス


なんというぜいたくな時間……!ほんとうに色々な意味で夢のような映画でした。いつも以上にタランティーノの愛と思い入れを感じて、まるで隣に彼が座っているかのようだった。
タランティーノの墓守歌&バチェラー・パーティー。地元ハリウッドと映画史へのラブレター。筋金入りの映画狂ならではの、愛とやさしい嘘にあふれたおとぎ話。

まず、ディカプリオ&ブラピのバディものとしての、尺の大盤振る舞いに拍手。ディカプリオが姫で、ブラピ(&忠犬!)が騎士(&白馬?)。さすがタランティーノのおとぎ話は一味も二味もちがう。ブラピがやおら脱ぎだした瞬間には、脳内タラちゃんがミサトさんの声色で「サービスサービスゥ♪」って言ってきて死んだ。あの二人の視線の絡ませ方、ブラピの助手席に手を置いての車バック、タラちゃん レオになってブラピに抱かれたいんだな……って思いました。

そして、もう一人の姫。マーゴット・ロビーが演じるシャロン・テートもすばらしい。劇場で観客の反応を満喫しながら、自身の出演作を楽しむシャロン!そのコロンブスの卵的アイデア自体に感動したし、シーンそのものもあたたかな多幸感にあふれている。その後の彼女の現実の運命を思うとなおさら胸がつまって、号泣してしまった。このシーンにはまちがいなく魔法がかかっているし、この映画全体のトーンを決定づけていると思う。出色の出来。パンフレットには、マーゴットの「ずっとタランティーノの映画に出たかったけれど、力不足で連絡できなかった。『アイ,トーニャ』でようやく自信が持てて、手紙を書いた」というインタビューが載っており、これも激エモ。

あとは、今までになかった、タランティーノの目線が感じられたのも、感慨深くてぐっときました。たぶん、まちがいなく、親になるひとの目線。これまで女性への目線がことごとく「強い女性への憧憬」で、それが最高だったタラちゃん。今作はシャロンや子役のトルディはもちろん、マンソン・ファミリー*1へすら、庇護対象を心配に見守るような「親心」が感じられる。女の子生まれる気満々じゃないの?*2

ラストの乱痴気騒ぎは、タランティーノホモソーシャルな仲間への愛を込めて、バチェラー・パーティーを繰り広げているようで、とたんにブラピがイーライ・ロスエドガー・ライトに見えてきて、また泣ける。そりゃ最高の男(たち)との別れには、2~3人殺さないと格好がつかないよな。
ラストの甘い幻のような展開は、もはや三途の川描写に近く、タランティーノの願望がほのかに表れているようで…、醒めない余韻。


★★★★★

*1:プッシーキャット

*2:ジュリア・バターズちゃんみたいな娘 ほしいんだろうなー!

サスペリア


その踊りは、死を招く。
1977年、ベルリン。
アメリカからやってきた少女が、名門バレエ・カンパニーの門戸を叩いた。
そこには―。

監督:ルカ・グァダニーノ
撮影監督:サヨムプー・ムックディプローム
衣装:デザインジュリア・ピエルサンティ
コレオグラファー:ダミアン・ジャレ
音楽:トム・ヨーク


ダンス大好きなわたしとホラー大好きな夫の折衷案で、結婚記念日に観ました。わたしのみオリジナル未見。


以下ネタバレ。

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工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男

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誰も知らなかった南と北の裏の裏の裏
北に潜入した工作員の見た祖国の闇には、
驚愕の真実が隠されていた―

英題:THE SPY GONE NORTH
監督・脚本:ユン・ジョンビン
脚本:クォン・ソンフィ
撮影:チェ・チャンミン
編集:キム・サンボム、キム・ジェボム
美術:パク・イルヒョン
衣装:チェ・ギョンファ
音楽:チョ・ヨンウク


『悪いやつら』『群盗』のユン・ジョンビン監督作で、『新しき世界』『哭声』「アシュラ』のファン・ジョンミン主演ということで、ウォッチリストには入れていたのですが、信頼できる友の激推しで、優先順位トップへ。

めっっっちゃおもしろかった!!!政治サスペンスとしても、 働きマンドラマとしても、ブロマンスとしても、熱い「浩然の気」*1が満ち満ちている!信念を分かち合った 最高の両想い!

北への潜入というだけでも、ハラハラドキドキなのに、なにせあの将軍様にプレゼンを通す、というスパイでなくてもちびりそうなミッション。そのミッションに共に立ち向かい、ひいてはもっと大きな志のために立ち上がる2人に拳を握らずにはいられない。

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ファン・ジョンミン大ファンで、すばらしい演技だったけれど、今作はとにかくイ・ソンミン a.k.a. リ所長にKOされてしまった。あの魅力を言葉で表すのは難しいのだけれど、熱いものを秘めつつも、含羞のひと、といったたたずまいがたまらない。あのずっと見ていたくなる魅力は何なのか?なにか激しく琴線に触れるものがある。「冒険しませんか?」という最高の文句で口説きたくなるのもわかる。

ヘウォンメクことジフニも変にかわいい見せ場が多くて、思わず笑ってしまった。いつメンとボックス席に座る姿、謎のダンス、おだてられてまんざらでもない顔、将軍様の前でのドボンの際の喉仏。また軍服の着こなしがすさまじいのよなー。

食事や飲酒のシーンも豊富で最高。高級ホテルでの会合や金正日への謁見など、ていねいな描写を積み重ねてきた末に投下されるリ所長宅飲みの破壊力!熱い涙がほとばしり出ました。


★★★★★

*1:孟子の説いた説。人間の内部より発する気で,正しく養い育てていけば天地の間に満ちるものとされる。また,道義が伴わないとしぼむとされ,道徳的意味を強くもつ概念である。道徳的活力。 らしい

ある女流作家の罪と罰

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原題:CAN YOU EVER FORGIVE ME?
監督:マリエル・ヘラー
撮影:ブランドン・トゥロスト
編集:アン・マッケイブ
音楽:ネイト・ヘラー
原作:リー・イスラエル
Based on a True Story.


この作品がDVDスルーとは……。
個人的にはしみじみ好きな映画です。

まず、著名人の手紙の捏造、という犯罪。わたしも犯罪に手を染めるとしたら、これは楽しそうだと思ってしまった。そのひとになりきって、ある意味そのひと以上に個性が出た手紙を書く、というのは一種の創作行為ではあり、やはり才能が必要だろう。オリジナルの便箋を発注したり、紙を焼いて劣化させたりする作業も楽しい。

それゆえ、後半、この行為がどんどんエスカレートし、最終的にただの精巧な複製に堕ちる時の哀しさには、自分でもハッとするほど胸が痛くなる。もともと犯罪なんだけれど、矜持をうしなった瞬間の自分への裏切りが一番の罰であるように描かれていたように思う。

偏屈で高慢で不潔。現実の知り合いなら敬遠してしまうような、欠点だらけのアウトローをチャーミングに描いているところも映画らしくて好き。

性的マイノリティ同士の老いらくの友情は妙にまぶしくさわやかで、うまくいっているときの無敵感とそれでも必ず終わりがくる夏休み感は、やはり一種の青春映画だと言えるような気がする。そのモラトリアムの終わりのあとの余韻にもぐっとくる。

NYのたくさんの本屋/図書館/バーが、入れ替わり立ち替わりでてくるだけで、本当にわくわくするので、DVDで持っておきたい作品。

原題『Can you ever forgive me?』のウィットが示す通りの映画なので、邦題もその雰囲気を汲んでほしかったな。


★★★★

トイ・ストーリー4


あなたはまだ―
本当の『トイ・ストーリー』を知らない。
第92回アカデミー長編アニメーション映画賞

原題:TOY STORY 4
監督:ジョシュ・クーリー
脚本:ステファニー・フォルソム
脚本・製作総指揮:アンドリュー・スタントン
撮影監督:パトリック・リン、ジャン=クロード・カラーチェ
編集:アクセル・ゲッデス
プロダクションデザイナー:ボブ・ポーリー
音楽:ランディ・ニューマン


だいすきないつメンとクリスチアノ前に。
わたしは、1996年公開の『トイ・ストーリー』が全くハマらず、以来2も、大傑作の呼び声高い3も、スルーしてきました。

まず1でハマらなかったのは、ひとえにシドの扱いについて。改造が悪として描かれているのを観て、「おもちゃってそんな了見の狭いモノだっけ?」と。のちに、実際に玩具業界に身を置くこととなり、創造主はやはり完全にシド側の人間だと確信するのですが…(それはまた別の話)。

今回みんなで4を観に行くことになって、「よし!いい機会だから敬遠してきた2・3も観よう!」と一気観しました。
しかし、2ではコレクショントイが悪として描かれており、3はさすがに評判通りの出来で、シリーズ中最も楽しめたものの、やはり低年齢の遊び方が苦行として描かれており……。

つまり、1~3を通して、おもちゃの楽しみ方を大幅に制限しており、玩具業界にいた身としては、なんて偏狭な遊び方の提示だろう…、とすっかり悲しくなってしまったのです。


それでも、定例映画会のチョイスに「待った!」をかけなかったのは、なんとなく、「1~3がひっくり返る」「アンチほど納得がいく」という評がかすかに漏れ聞こえてきたから。


cinema.ne.jp


結果!4にしてはじめてハマれました!わーいわーい!

今回やっと持ち主側にも寄り添ってくれたというか。「失くしてしまったり手放してしまったりしたおもちゃたちもこんな風にいきいきと暮らしているかも…」という夢を見させてくれて、感無量です。

ただ、新キャラたち*1が異様に良かったりと、今回楽しかった部分はほぼ1~3に無い部分だったので、これはたしかに…、これまでのシリーズファンはどんなきもちなのか…と若干心配にはなりました。
クレジットにもピート・ドクターにジョシュ・クーリー、とだいすきな『インサイド・ヘッド』組が名を連ねているので、俺得ではあるものの、端的にジョン・ラセター派はどうなのかな…と。

とにもかくにも、自分的にはうれしい完結となりました。


★★★

*1:バニー&ダッキー a.k.a. ジョーダン・ピールキーガン=マイケル・キー!