ウエスト・サイド・ストーリー


ひとつになりたかった。ひとつになれない世界でー
ドリームチームが”伝説のミュージカル”に挑む!
第94回アカデミー助演女優賞

原題:WEST SIDE STORY
製作・監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
編集:マイケル・カーン、サラ・ブロシャー
美術:アダム・ストックハウゼン
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
振付:ジャスティン・ペック
指揮:グスターボ・ドゥダメル


さすが映画の神!風格がちがう!ヤヌス・カミンスキーのキメッキメのリッチな撮影にも圧倒されました。この撮影と演出にかかれば、どんな話だってごちそうになっちまわぁ……。


まずわたしはミュージカル、とくにダンスが大好きなので、もう群舞が楽しくて楽しくて。


計算し尽くされた鮮やかな色彩配置と複雑なフォーメーション、ダンサーたちのキレと躍動感とそろいっぷり。ずっと観てられる~~~!


その喧噪がさっと引き、2人だけの世界がはじまるシーンの演出、映画的に見事すぎて鳥肌でした。個人的にはここがクライマックス。


アニータ役のアリアナ・デボーズさんのパワフルなダンスは最高で、出てくるたび「もっと踊ってくれ!」と思ってしまった。


逆に言うと、そうでない物語の部分は、もともとロミジュリ的な物語が好きじゃない、という身も蓋もない合わなさは残ってしまった。端的に言うと、主人公カップルが出てくるとテンションが下がってしまった。

今回リフ&ヴェルマ、ベルナルド&アニータがものすごくキャラが立ってて、魅力的なカップルに感じられて、「もっと観ていたいな」となったんだけど、本来そこは主人公カップルに担ってほしかった。それでもマリア役のレイチェル・ゼグラーは圧倒的な歌唱力と恋に恋するような乙女感(目に星が飛んでた)で健闘していたと思うんだけど、アンセル・エルゴートがなあ……。レイチェル・ゼグラーとの並びもどこかちぐはぐだし、決して下手ではないんだけど、一人実力がちょっと落ちる気がしてずっと気になってしまった。
もともとWSSについては、ダンス好き・物語苦手の自分にとって、主人公カップルが分が悪いのは重々承知なんだけど、歌・ダンス・演技・魅力・カリスマ性・カップルとしての相乗効果*1ー、どこか一点でも突破してほしかった。*2しかし、これはスピルバーグ自身があまり主人公カップルに興味ないのでは??という気もした。


★★★★

*1:それこそロミジュリのレオ&クレア・デーンズ的な

*2:でも、トニー自体がすごく難しい役だとも思う。備えていなければならない要素が多すぎる上に、大人すぎたり賢すぎたりしてもいけない

ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結

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愛すべきクソやばいヤツら。
14人の特殊部隊が挑む成功率0%のデスミッション!

原題:THE SUICIDE SQUAD
監督・脚本:ジェームズ・ガン
製作総指揮:ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー、ウォルター・ハマダ、シャンタル・ノン・ヴォ、ニコラス・コルダ、リチャード・サックル
撮影:ヘンリー・ブラハム
編集:フレッド・ラスキン、クリスチャン・ワグナー
美術:ベス・ミックル
衣装:ジュディアナ・マコフスキー
音楽:ジョン・マーフィ


うわん!これ劇場で観ればよかったよーーー!IMAXも吹替版も観たいやつじゃん。評判は知ってはいたんだけれど、去年の公開時これを観る元気がなかったんだろうな。

もうみんなが口をそろえて言ったことだろうけど……、とにかくジェームズ・ガンの本領炸裂!実際観たら、身に染みてわかりました。ここのところMCUに感じがちなモヤモヤが一切なくて、めちゃくちゃぐっときてしまった。

不謹慎ギャグやゴア描写がそれほど得意でないわたしですらアガってしまったし*1、まずはジェームズ・ガン監督の笑いと音楽のセンスが大好きなので、そこが本当に楽しかった。

あとはとにかく悪党たちのキャラ描写がすばらしかった。こんなノリでもみんなちゃんと「悲哀」がある。協調性0。いなたいコスチューム。美学/行動原理/抱える傷も違うはぐれ者たちだけど、子どもや小動物など「弱者」に対するルールはそれぞれ一貫している。距離を縮めるキャラにはきちんと必然性があるし、馴れ合いすぎない関係性やそれが永続的でない感じもよかった。
ポルカドットマンがクラブで踊るシーンは、彼に見える世界のグロテスクさと、画のこっけいさがないまぜになりつつも、シーン全体としてはものすごい多幸感があって、よくわからない感情で泣きそうになってしまった。


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個人的には娘のキャラがラットキャッチャー2に、息子のキャラがナナウエ(知能レベル、体型、くいしんぼ!)に似ていて、とてもかわいかったです。
ツボを押さえたハーレイクイン使いと強くてうつくしいアクションや、ピースメイカーの複雑な魅力、ポップ&キッチュなスターロのデザイン、ウォラーの暴走を止める女性のブチギレ、アメリカ&自己批判など、良かったところを挙げ出したらきりがない。
欲を言えば、もうちょっと短くできたとは思うけど。最高最高最高でした!



★★★★★

*1:脇役の女性が無駄におっぱいでかかったりするのも良かった

ちょっと思い出しただけ

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"ある1日"だけで遡る、ふたりの6年間ー


監督・脚本:松居大悟
撮影:塩谷大樹
編集:瀧田隆一
照明:藤井勇
録音:竹内久史
美術:相馬直樹
装飾:中村三五
ヘアメイク:酒井夢月
スタイリスト:神田百実
振付:皆川まゆむ
劇伴:森優太
タイトル・宣伝デザイン:大島依提亜
助監督:相良健一
主題歌:クリープハイプ「Night on the Planet」


定点観測だいすき…。まちがいさがしのような前半の繊細な描写が一番どきどきしたかもしれない。

一番ぐっとくるのは、二人の言葉が通じないのは最初から存在した要因で、どちらかが変質したからではないこと。「感性/非言語/自己」のひとと「理性/言語/他者」のひと。それでも二人のはじまりはそれが逆転するのがまぶしい。照生が言葉を尽くし、葉が唇をふさぐ。

個人的には『愛なのに』と連続で観て、結婚に至る/至らない組み合わせが「わかる」やつだったのもおもしろかった。『花恋』の2人がタイミングさえ合えば「あり得た」感じがあるのに対して、『愛なのに』の瀬戸&ほないこか、この池松&伊藤は絶対に「ない」のよ~。たとえ「群を抜いてヘタ」でも中島歩と「夏、はじまりましたわ」屋敷なんだよね~~~。
主演の二人はどちらも好きなんだけど、演技巧者すぎるのか逆に浸れなかったりもして、このカップルに最後まで現実感が持てなかった。*1写真で見る二人はもれなく最高なんだけどな。

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いろんな角度から観れる映画だと思うけど、年齢のせいもあるのか自分には苦味成分が刺さった。ちょっと思い出しただけ、っていうレベルじゃないじゃん……?今まで甘酢を打ちにいってたけど、苦みを打ちにいくのもやぶさかではない……(?)


★★★★

*1:個人的には池松&河合優実の方がリアリティあった

愛なのに

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真っ直ぐで厄介で、否定できないこの想い。

監督・脚本・編集:城定秀夫
脚本:今泉力哉
撮影:渡邊雅紀
照明:小川大介
録音:松島匡
美術:禪洲幸久
スタイリスト:小宮山芽以
ヘアメイク:唐澤知子
助監督:山口雄也


今泉監督に関しては、『あの頃。』『his』が決定的に合わなくてちょっと不安だったんだけど、やはり全員片想い的な男女の関係性を描かせたらあいかわらずの手腕!
程度の差はあれ、みんなちょっとずつ欲や打算やずるさがあるのが秀逸で、それを「愛なのに」と言ってのけるタイトルにうならされた。

基本的にはぐちゃぐちゃの人間模様に笑ってしまうんだけど、常識とか倫理とか家族とかとっぱらって、みんなが一個人として「御心」のままに行動したら、それは「きもちわるい」ことになってしまうのかも?と、笑いながらもちょっと考えさせられてしまった。それでもその身も蓋もないしょうもなさを糾弾せず、ぎりぎり「愛を否定するな!」と言ってくれる映画。


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中島歩さんが好きなんですが、清々しすぎるほどのクズ役で「全員から捨てられろ!」と声援を送って(?)いたら、斜め上の地獄を見せられていて笑い死にした(しかもわたしと同じ名前の女に)。


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あと、瀬戸康史さん。「グレーテルのかまど」のイメージが強かったのですが、くり返される「そうね」の言い方が本っっっ当に良くて、これだけでも観る価値あるなぁと思いました。

そんな二人のどちらを!ほないこかが選ぶのか!?という顛末にものすごく説得力があるのが、なにげに胸をえぐってくる映画でもありました。


★★★★

SKIN スキン

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人は、生まれ変わることができるのか。

原題:SKIN
監督・脚本・製作:ガイ・ナティー
撮影:アルノー・ポーティエ
編集:リー・パーシー、マイケル・テイラー
音楽:ダン・ローマー


ずっとウォッチリストには入っていたものの、しんどそうすぎて放置してしまっていた。

しかし、本作の出資を募るために撮られた同名短編を観たらもうこれがすさまじかった。そら資金もオスカーも獲るわ…というキレッキレの内容。ヘイトの連鎖と因果応報の極みが限りなく端的に描かれていて、うなってしまった。また、道徳的にどんなに最低な親でも子にとっては…というバランスが周到で、レイシズムの根深さが痛烈に伝わってきた。鑑賞後即、長編へとなだれこむしかなかった。

短編でヘイトの連鎖とレイシズムの根深さを鮮烈に描き出した先に、長編ではヘイトをどう克服するのかということが描かれる。

まさに皮膚を剥ぐような痛みや犠牲と共にもがく主人公の転向を助ける、ダリルの存在に胸を衝かれた。

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本作のコピーである「人は、生まれ変わることができるのか。」ということは、イコール「生まれ変わろうとしている人を受け容れるのか」という問いかけでもある。父が薬物依存カウンセラーだったということもあって、ダリルのアプローチはとても理性的だ。ヘイトを返さない、レイシストに寄り添う、というあまりにも難しい行為が、実はレイシズムを駆逐する最大効率の方法なのかもしれない、と思わされる。

個人的には周りに左寄りの人間が多く、中には「〇〇死ね」「ネトウヨ〇〇」といった言葉で悪しざまに罵る人もいるのだけれど、一体それが左が目指す世界へ近づく道なのだろうか?と感じることはよくある。もちろん権力勾配があるから、持たざる者が声を上げそれを大きなムーブメントに変えることが大事なのだろうけど、個人的には半径は狭くとも自分の周りから辛抱強く変えていく人に尊さを感じる。デモと同じように、もしかしたらそれ以上に町内会も大事。

短編では夫に流されがちで子を守りきれない母を演じたダニエル・マクドナルドが、長編では強い母を演じているのも味わい深い。
タトゥーが強制的に刻まれる短編とタトゥーを除去することを選ぶ長編という関係性もすばらしかった。


★★★★

サイダーのように言葉が湧き上がる

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サイダーのように、甘く弾ける、少年少女たちの青春ラブグラフィティ!
コミュニケーションが苦手な少年
マスクで素顔を隠す少女
十七回目の夏に君と会う

監督:イシグロキョウヘイ
脚本:佐藤大
キャラクターデザイン:愛敬由紀子
音楽:牛尾憲輔
原作:フライングドッグ


監督と同い年だからか、本作に散りばめられた「カワイイ」「スキ」に「わかる……」ってなりました。登場人物の心情に合わせてサイダーがはじけるように変化する風景…かわええ~~~!
ストーリーはちょっと弱いとは思うのだけれど、打ちあがる花火のなか俳句を詠むクライマックスは、青春と甘酢が炸裂していて、ベタだけどぐっときてしまった。

もともと「俳句」という文化にかなりエモを感じるのですよね……。青春映画に「俳句」というモチーフとても合っていたし、なにしろ劇中の俳句の出来そのものがよかった。音楽映画の演奏シーンがへぼいと映画全体がだいなしになるのと同じで、劇中のこの肝心の俳句がダサいと話にならないと思うのですが、「夕暮れの フライングめく 夏灯」がキマった瞬間勝ち確。この作品の雰囲気をぎゅっとパッキングすると同時に、この作品自体をも底上げするすばらしい句だと思います。

劇中歌の大貫妙子の起用にはニヤリとしたけれど、郊外のショッピングモールを舞台にシティ・ポップ的センスでボーイ・ミーツ・ガールを描く、というのはわたしにとっては完全にtofubeatsなので主題歌オファーしてほしかったなぁぁぁというきもち(『寝ても覚めても』の「RIVER」もびっくりするくらい良かったので)。


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あと、市川染五郎の声とても合っていたんだけど、クライマックスのシャウトは脳内で神木くんに変換されてしまったので、「神木くん…おそろしい子…!」ってなりました。


★★★★

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊


原題:THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN
監督・脚本・ストーリー・製作:ウェス・アンダーソン
ストーリー:ロマン・コッポラ、ヒューゴ・ギネス、ジェイソン・シュワルツマン
撮影監督:ロバート・イェーマン
編集:アンドリュー・ワイスブラム
美術:アダム・ストックハウゼン
衣裳:ミレーナ・カノネロ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
音楽監修:ランドール・ポスター


映画…なの……?鑑賞後の体感は、映画館というより美術館や資料館の方が近い。とても豊かでぜいたくな展示を観たあとのような。情報が詰まっているからかとても長く感じる108分だった。絵本と親和性が高いウェス・アンダーソンの作品だが、今回は「雑誌」(しかもニューヨーカー)がモチーフということで、ぐっとおとなっぽく、格調高く、対象との距離が遠く温度が低い印象で、消えゆく雑誌文化への郷愁が感じられた。


とくに新鮮に感じたのは、STORY 1「確固たる名作」で、ウェス・アンダーソンにしてはめずらしく「こども」的な要素が排除されていて、一番好きなパートだった。レア・セドゥのポーズを付けるのにフィリップ・ドゥクフレを起用したりと、くらくらするようなぜいたくさ。


逆に一番今までのウェス・アンダーソンの作風に近いと思ったのは、STORY 3「警察署長の食事室」。アニメーションも効果的に使われいて、楽しく奇想天外な冒険活劇になっている。シェフ役のスティーヴン・パークがいい味出しててすき。ここでも、シアーシャ・ローナンの瞳使いのぜいたくさよ。


シャラメは…シャラメだよ。無双…人類の彼氏……。

全編を通して曲者記者たちの取材はギリギリだが、STORY 2「宣言書の改訂」にいたっては、記者が取材対象に完全にコミットしてしまう。ウェス・アンダーソンはこの「記者」という危ういバランスの職業を「映画監督」と重ね合わせて見ているような気がした。

しかし、映画全体として見ると、この形式が成功しているのかはよくわからない。ウェス・アンダーソンとして新境地を見せてくれた気はするし、体験としては楽しかったけれど、この形式が効果的に機能し映画を高めてくれているという気は正直しなかった。
以前は「父性との確執」「ピーターパン・シンドロームからの脱却」「家族の再生」という物語を描きたい監督だと思っていたけれど、ここのところの近作は、自分の好きなカルチャーへのラブレター的な作品が多くて、撮りたい画はあるけれど、撮りたい物語はもうそんなにないのかな?という印象を受けた。


★★★★