ベルファスト


明日に向かって笑え!
1969年、激動の時代に揺れる北アイルランド ベルファスト
故郷を想う、家族を想うー大切な想いを持つすべてのあなたに贈る人生讃歌
第94回アカデミー脚本賞

原題:BELFAST
製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー
撮影監督:ハリス・ザンバーラウコス
編集:ウナ・ニ・ドンガイル
美術:ジム・クレイ
衣装:シャーロット・ウォルター
ヘアメイク:吉原若菜
音楽:ヴァン・モリソン


徹底的な子ども目線の 狭い範囲で描かれる世界、にぎゅっと詰まっているもの。世の中の不条理や分断や暴力。でもたしかにある日々のかけがえなさや生きる喜び。そして故郷への愛。半自伝的な作品だけあって、とてもちいさくごくごく個人的な物語に神が宿る典型の映画だと思ったし、わたしはオスカーが似合う映画だな、と思った。(個人的に町の話に弱いってのもありますが……。)

『ジョジョ・ラビット』にとても近い手法だと思ったけれど、起伏やドラマ性は極端に少ない。起こっている事態の深刻さに対して、『ジョジョ・ラビット』は「リアル」と「ファンタジー」でバランスを取っていたように思うが、『ベルファスト』は「現実」と「日常」ー本来同じものを目線や緩急の違いで描き切っていたように感じる。だからこそ子どもの感性のみずみずしさと、その目の端にうつる不穏分子が強調される。

何よりこのカトリーナ・バルフはものすごい名演だと思う。親の苦悩や葛藤、それを子どもに隠している、という前提で演じるだけでも難しいのに、さらにそれを「子どもから見える母」として演じている。

バディの記憶の中で輝きつづけるであろう"Everlasting Love"には思わず涙してしまった。

あとは、ラストのジュディ・デンチ。ラストの"Go. Go now. Don't look back."の強さには本当にしびれるし、この映画の後味を決定づける最高の仕事だったと思います。


★★★★

ガンパウダー・ミルクシェイク

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甘さひかえめ。
新世代をブチ抜く、シスター・ハード・ボイルド・アクション!

原題:GUNPOWDER MILKSHAKE
監督・脚本:ナヴォット・パプシャド
脚本:エフード・ラフスキ
撮影監督:マイケル・セレシン
編集:ニコラス・デ・トス
美術デザイン:デヴィッド・ショイネマン
衣装デザイン:ルイーズ・フログリー
音楽:フランク・イルフマン
スタント&ファイトコーディネーター:ローラン・デミアノフ


シンプルすぎる物語で、ストーリー運びもちょっとちぐはぐだったりするんだけど、それでも最高ポイントだらけで加点してもしきれないくらいだった。正直、ド頭の母娘が向かい合ってミルクシェイクを飲むシーンからもう感極まってしまった。

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fnmnl.tv


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父子だと殺したり乗り越えたりしなければいけないのが「物語」だけど、この映画は母娘を相棒にしてしまう。

180cmの女殺し屋、中年女性主体のキャスト、ゆとりあるパンツルックでもかっこいい衣装(スカートや制服は偽装!)、民主主義による動議可決、家父長制や復讐の連鎖を次の世代に残さない、力技でも男に勝つ、そしてミシェル・ヨーのうつくしい斜め後ろ顔ーーー!

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図書館でのアクションがピークで、ダイナーでの決闘は蛇足という感想もちらほら見かけたんだけど、絶対に要ると思います!今までパンツルックだった女たちが「見くびられ」の象徴であるウェイトレスの衣装や男たちが決めたルールを逆手に取って勝つ、男たちの後始末に送り込まれてきた女たちが女の後始末を引き受ける、という意味がある。なおかつ自分のケツを拭こうとして力が及ばない若者を助ける(おそらく彼女たちの時代には与えられなかったであろう救いの手。f**k自助!)という描写で、レジェンドたちへのリスペクトも示していると思う。

「女こども」で括られなめられてきた「子ども」をめちゃくちゃ対等に扱っているのも良かった。働いている女にとって子どもはあたりまえに戦闘要員だ。子どもを助手席に乗せない。2人でポルシェの運転席に座る。メタファーつよ!
それでいて見せたくない/聞かせたくないものから子どもを守る描写も効いている。エミリーにヘッドホンをつけるよう促すカーラ・グギーノの"Can you do that for me?"という頼み方には思わず泣いてしまった。命令調でも「for you」でもない。最大限子どもの意思を尊重しようとする姿勢。


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なにしろ図書館が女たちのセーフスペースかつ武器庫で、ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』に銃が隠されているなんて!実際にスクリーンに映し出されているのを観たら、その何重もの意味にぶん殴られて泣いた。
なんと監督は「脚本に特定のメッセージを込めたつもりはない」と言っているんだけど、そんなことある!?汲まざるを得ないでしょ!

今までアクション映画での「女こども」の描かれ方のどこにストレスを感じていたかがよくわかる映画なので、逆に男性が観たらストレスを感じるのでは…という気もしたけど。鑑賞中ずっと頭の片隅で「なぜこんなにストレスなく観られるのか」ということを考えてはまた泣いた。

というか、わたしが感じたこと、ここ↓にほぼ書いてあった…。すばらしい批評です!

www.cinra.net


★★★★★

THE BATMAN-ザ・バットマン-

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マスクに隠された「嘘」を暴け。
『ジョーカー』の衝撃を超える、最高危険度の謎解きサスペンスアクション

原題:THE BATMAN
監督・脚本:マット・リーブス
脚本:ピーター・クレイグ
撮影:グレイグ・フレイザー
編集:ウィリアム・ホイ、タイラー・ネルソン
美術:ジェームズ・チンランド
衣装:ジャクリーン・デュラン
バットスーツ衣装デザイン:グリン・ディロン、デビッド・クロスマン
音楽:マイケル・ジアッキノ


ずっと暗い!最高!ゴッサムシティのエルロイみ!
そしてこんなにかわいいバットマンいる!?2年目設定とキャスティングは絶対にオタクの所業!ポール・ダノバリー・コーガンがマブとか!?*1

以下、バットマンかわいかったポイント

  • だるだるスウェットで新鮮なベリーをつまむ
  • 観客に考えさせる前にクイズ全部答えちゃう
  • ルフレッドとのカフスのくだり(信頼関係の途中…)
  • ルフレッドの家族はおれだけ…ってエモくなってるとこ
  • マスクの耳、コウモリのやつ胸にカチッ(それを自分で考案…)
  • (おれの)バットモービルのエンジン…ドヤ!
  • 飛ぶの一瞬びびっちゃう(→そして盛大に着地失敗)


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白人大富豪としての特権を責められ、ペンギンに「くたばれサイコ野郎」と罵られ、リドラーに恐怖/暴力装置として評価され、一般市民にドン引かれ、実際ぶっちぎりの狂気を発揮しながらも、生身でなんとか善をなそうとする人間味にぐっときました。歴代バットマンの中で一番愛おしい……。
キャットウーマンがキスするの意味わかんない、という評よく見かけたけど、いやするだろ!?いわゆる男女の愛情でなくとも。なんか思わずしたくなっちゃう隙といとおしさがあるだろ!?わたしの周りには今までロバート・パティンソンなんとも思ってなかったけど死ぬほど愛した、という女子けっこういましたよ。
あとあのテーマ、ピアノで弾きたすぎるよね。


★★★★

*1:そもそもリドラーもジョーカーも誰が演じているか知らなかったので、ポール・ダノの顔出た瞬間ふいた

ウエスト・サイド・ストーリー


ひとつになりたかった。ひとつになれない世界でー
ドリームチームが”伝説のミュージカル”に挑む!
第94回アカデミー助演女優賞

原題:WEST SIDE STORY
製作・監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
編集:マイケル・カーン、サラ・ブロシャー
美術:アダム・ストックハウゼン
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
振付:ジャスティン・ペック
指揮:グスターボ・ドゥダメル


さすが映画の神!風格がちがう!ヤヌス・カミンスキーのキメッキメのリッチな撮影にも圧倒されました。この撮影と演出にかかれば、どんな話だってごちそうになっちまわぁ……。


まずわたしはミュージカル、とくにダンスが大好きなので、もう群舞が楽しくて楽しくて。


計算し尽くされた鮮やかな色彩配置と複雑なフォーメーション、ダンサーたちのキレと躍動感とそろいっぷり。ずっと観てられる~~~!


その喧噪がさっと引き、2人だけの世界がはじまるシーンの演出、映画的に見事すぎて鳥肌でした。個人的にはここがクライマックス。


アニータ役のアリアナ・デボーズさんのパワフルなダンスは最高で、出てくるたび「もっと踊ってくれ!」と思ってしまった。


逆に言うと、そうでない物語の部分は、もともとロミジュリ的な物語が好きじゃない、という身も蓋もない合わなさは残ってしまった。端的に言うと、主人公カップルが出てくるとテンションが下がってしまった。

今回リフ&ヴェルマ、ベルナルド&アニータがものすごくキャラが立ってて、魅力的なカップルに感じられて、「もっと観ていたいな」となったんだけど、本来そこは主人公カップルに担ってほしかった。それでもマリア役のレイチェル・ゼグラーは圧倒的な歌唱力と恋に恋するような乙女感(目に星が飛んでた)で健闘していたと思うんだけど、アンセル・エルゴートがなあ……。レイチェル・ゼグラーとの並びもどこかちぐはぐだし、決して下手ではないんだけど、一人実力がちょっと落ちる気がしてずっと気になってしまった。
もともとWSSについては、ダンス好き・物語苦手の自分にとって、主人公カップルが分が悪いのは重々承知なんだけど、歌・ダンス・演技・魅力・カリスマ性・カップルとしての相乗効果*1ー、どこか一点でも突破してほしかった。*2しかし、これはスピルバーグ自身があまり主人公カップルに興味ないのでは??という気もした。


★★★★

*1:それこそロミジュリのレオ&クレア・デーンズ的な

*2:でも、トニー自体がすごく難しい役だとも思う。備えていなければならない要素が多すぎる上に、大人すぎたり賢すぎたりしてもいけない

ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結


愛すべきクソやばいヤツら。
14人の特殊部隊が挑む成功率0%のデスミッション!

原題:THE SUICIDE SQUAD
監督・脚本:ジェームズ・ガン
製作総指揮:ザック・スナイダー、デボラ・スナイダー、ウォルター・ハマダ、シャンタル・ノン・ヴォ、ニコラス・コルダ、リチャード・サックル
撮影:ヘンリー・ブラハム
編集:フレッド・ラスキン、クリスチャン・ワグナー
美術:ベス・ミックル
衣装:ジュディアナ・マコフスキー
音楽:ジョン・マーフィ


うわん!これ劇場で観ればよかったよーーー!IMAXも吹替版も観たいやつじゃん。評判は知ってはいたんだけれど、去年の公開時これを観る元気がなかったんだろうな。

もうみんなが口をそろえて言ったことだろうけど……、とにかくジェームズ・ガンの本領炸裂!実際観たら、身に染みてわかりました。ここのところMCUに感じがちなモヤモヤが一切なくて、めちゃくちゃぐっときてしまった。

不謹慎ギャグやゴア描写がそれほど得意でないわたしですらアガってしまったし*1、まずはジェームズ・ガン監督の笑いと音楽のセンスが大好きなので、そこが本当に楽しかった。

あとはとにかく悪党たちのキャラ描写がすばらしかった。こんなノリでもみんなちゃんと「悲哀」がある。協調性0。いなたいコスチューム。美学/行動原理/抱える傷も違うはぐれ者たちだけど、子どもや小動物など「弱者」に対するルールはそれぞれ一貫している。距離を縮めるキャラにはきちんと必然性があるし、馴れ合いすぎない関係性やそれが永続的でない感じもよかった。
ポルカドットマンがクラブで踊るシーンは、彼に見える世界のグロテスクさと、画のこっけいさがないまぜになりつつも、シーン全体としてはものすごい多幸感があって、よくわからない感情で泣きそうになってしまった。


個人的には娘のキャラがラットキャッチャー2に、息子のキャラがナナウエ(知能レベル、体型、くいしんぼ!)に似ていて、とてもかわいかったです。
ツボを押さえたハーレイクイン使いと強くてうつくしいアクションや、ピースメイカーの複雑な魅力、ポップ&キッチュなスターロのデザイン、ウォラーの暴走を止める女性のブチギレ、アメリカ&自己批判など、良かったところを挙げ出したらきりがない。
欲を言えば、もうちょっと短くできたとは思うけど。最高最高最高でした!



★★★★★

*1:脇役の女性が無駄におっぱいでかかったりするのも良かった

ちょっと思い出しただけ

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"ある1日"だけで遡る、ふたりの6年間ー


監督・脚本:松居大悟
撮影:塩谷大樹
編集:瀧田隆一
照明:藤井勇
録音:竹内久史
美術:相馬直樹
装飾:中村三五
ヘアメイク:酒井夢月
スタイリスト:神田百実
振付:皆川まゆむ
劇伴:森優太
タイトル・宣伝デザイン:大島依提亜
助監督:相良健一
主題歌:クリープハイプ「Night on the Planet」


定点観測だいすき…。まちがいさがしのような前半の繊細な描写が一番どきどきしたかもしれない。

一番ぐっとくるのは、二人の言葉が通じないのは最初から存在した要因で、どちらかが変質したからではないこと。「感性/非言語/自己」のひとと「理性/言語/他者」のひと。それでも二人のはじまりはそれが逆転するのがまぶしい。照生が言葉を尽くし、葉が唇をふさぐ。

個人的には『愛なのに』と連続で観て、結婚に至る/至らない組み合わせが「わかる」やつだったのもおもしろかった。『花恋』の2人がタイミングさえ合えば「あり得た」感じがあるのに対して、『愛なのに』の瀬戸&ほないこか、この池松&伊藤は絶対に「ない」のよ~。たとえ「群を抜いてヘタ」でも中島歩と「夏、はじまりましたわ」屋敷なんだよね~~~。
主演の二人はどちらも好きなんだけど、演技巧者すぎるのか逆に浸れなかったりもして、このカップルに最後まで現実感が持てなかった。*1写真で見る二人はもれなく最高なんだけどな。

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いろんな角度から観れる映画だと思うけど、年齢のせいもあるのか自分には苦味成分が刺さった。ちょっと思い出しただけ、っていうレベルじゃないじゃん……?今まで甘酢を打ちにいってたけど、苦みを打ちにいくのもやぶさかではない……(?)


★★★★

*1:個人的には池松&河合優実の方がリアリティあった

愛なのに

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真っ直ぐで厄介で、否定できないこの想い。

監督・脚本・編集:城定秀夫
脚本:今泉力哉
撮影:渡邊雅紀
照明:小川大介
録音:松島匡
美術:禪洲幸久
スタイリスト:小宮山芽以
ヘアメイク:唐澤知子
助監督:山口雄也


今泉監督に関しては、『あの頃。』『his』が決定的に合わなくてちょっと不安だったんだけど、やはり全員片想い的な男女の関係性を描かせたらあいかわらずの手腕!
程度の差はあれ、みんなちょっとずつ欲や打算やずるさがあるのが秀逸で、それを「愛なのに」と言ってのけるタイトルにうならされた。

基本的にはぐちゃぐちゃの人間模様に笑ってしまうんだけど、常識とか倫理とか家族とかとっぱらって、みんなが一個人として「御心」のままに行動したら、それは「きもちわるい」ことになってしまうのかも?と、笑いながらもちょっと考えさせられてしまった。それでもその身も蓋もないしょうもなさを糾弾せず、ぎりぎり「愛を否定するな!」と言ってくれる映画。


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中島歩さんが好きなんですが、清々しすぎるほどのクズ役で「全員から捨てられろ!」と声援を送って(?)いたら、斜め上の地獄を見せられていて笑い死にした(しかもわたしと同じ名前の女に)。


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あと、瀬戸康史さん。「グレーテルのかまど」のイメージが強かったのですが、くり返される「そうね」の言い方が本っっっ当に良くて、これだけでも観る価値あるなぁと思いました。

そんな二人のどちらを!ほないこかが選ぶのか!?という顛末にものすごく説得力があるのが、なにげに胸をえぐってくる映画でもありました。


★★★★