窓辺にて


ぜんぜんパーフェクトじゃない恋愛物語。
稲垣吾郎主演×今泉力哉監督、待望の完全オリジナル脚本。
第35回東京国際映画祭観客賞

監督・脚本:今泉力哉


現実逃避芸人のわたしですが、ここのところ毎日現実にぎゅうぎゅうに詰められており。友だちと会っている時はなるべく楽しい話をしたいたちなんですが、とにかく完全にエネルギーが枯渇していて弱音も吐きがち。「もう無理…つらい…ここで休んだらますますビハインドになるけどうーん……サボろう!」と決めて、せっかくなら余白のある映画で脳をゆるめようと思って観てきました。結果、この映画を選んで大正解だよ!(もちろん鑑賞後はパフェを食べたよ!)


「悩むことはぜいたく」ーまさに全主要人物が悩みを抱える「今泉映画」を味わうぜいたくさを堪能できるような作品だった。ふんだんに光を取り入れた撮影、うっとりするような長回しよ!

今泉印のすれちがう矢印の関係性に、今回「悩み相談」の噛み合わせが重なってくるのがたまらない。自分を見誤っていたり、うっすらお互いを見下しあったり、思わぬ人の正直すぎる感想が芯を食って相手を傷つけたり救ったり。

この映画は人を変えて何度も「あなたの気持ちは?あなたはどうしたいの?」という問いが繰り返されるけれど、みんななかなか即答できない。いっそ他人の気持ちの方がよくわかるし、自分の欲と向き合うのはしんどいことだ、と寄り添ってくれるような描き方が良かった。

その狂言回しとなる稲垣吾郎さんの存在感!まるで村上春樹作品の主人公のような浮遊感がぴったりだった。そもそも彼こそが「ラ・フランス」のモデルのように得たものに執着しない人であるのに、手に入れられない人の側に共感しているのがおもしろかった。彼もまた「書かない」裏に隠された気持ちを直視しないようにしているように見えるけれど、それがわかったとて自然に喪失を受け容れるのが、稲垣さん自身の存在感ともあいまってとても上品だなと思った。
その他の登場人物たちも結局お互いがそれほど影響を与えあうことなく、言語化したら嘘になってしまうような気持ちを抱えたままその後を生きているのがとても良かった。

スカートの主題歌も最高でした。
あと無限レモンの中で別れ話は地獄。


★★★★


以下、ネタバレ

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MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない


また月曜日がやってくる

監督・脚本・編集:竹林亮
脚本:夏生さえり
編集:小林譲
撮影:幸前達之
助監督:徳山武昇
美術:三枝晃子、岡崎アミ
衣装:飯間千裕
劇中漫画:やじまり
音楽:大木嵩雄
主題歌:lyrical school

イムループもの見逃せない病なので……。タイムループ×日本の社畜文化!中盤まで本当にフレッシュで楽しかった。上申制にプレゼン、めちゃくちゃ笑ってしまった。


以下、ネタバレ

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RRR


友情か?使命か?

原題:RRR
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
原案:V・ヴィジャエーンドラ・プラサード

ジャンプで『イングロリアス・バスターズ』!王道の設定に二人のスターのハンパなき魅力と火&水のモチーフががっちりかみあって、物語をぐんぐん回していくので全く飽きない。アクションと歌とダンスが三位一体となって脳にドーピングしてくるし、屈強でラブリーなおじたちを観ることでしか得られない癒しもあった。


ただ、自国の歴史を鑑みると軽々しく消費してはいけないし、いつこういう風に描かれてもおかしくないというこわさは常に感じた。
あと、個人的にはジェニーさん絡みの描写が常にノイズになってしまった。国籍に関わらず善人はいますよ~というエクスキューズのためだけに存在しているかのようで、行動原理がよくわからなかった。あくまで主演2人の、インドの物語だからと言われればそれまでだけど、対立国の協力者の解像度がここまで低いとやっぱり映画の足を引っ張ってしまっているように感じた。


★★★★

All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合


こいつらがいたから、今のストリートがある

原題:ALL THE STREETS ARE SILENT: THE CONVERGENCE OF HIP HOP AND SKATEBOARDING (1987-1997)
監督・製作:ジェレミー・エルキン
ナレーション:イーライ・モーガン・ゲスナー
音楽:ラージ・プロフェッサー


だらーっと観ようと思ってたのに、綺羅星のごとくスター誕生してくるし、「あいつのラップを聴きながら顔を見合わせた」「10年に一度のヤバい曲だと思った」的な煽りを入れてくるので、いちいち「だれ!?なに!?」となり、脳がバッキバキになった。

Jay-ZもBustaもMethod Manもラップうめー!


スケートとヒップホップ、白と黒、東と西、コミュニティの趨勢が貴重な映像と共にわかりやすく整理されていて、とても興味深かった。

クラブ・マーズの話がとにかくおもしろくて!立ち上げたユウキ・ワタナベの構想や、ヴィン・ディーゼルベン・スティラーがバウンサーをやっていたというエピソード、「モデルはカネを落としてくれる ジャンキーはおもしろい」と客を「ミックス」していたドアマンの話などー。ただでさえブレイク前夜の現場の話はジャンル問わずおもしろいのに、それがスケートとヒップホップの交差点の話なのだからもう!!!

ただ、四半世紀以上このカルチャーを好きだけど完全に部外者の自分は、愛憎入り混じった複雑な思いを改めて感じた。貧富や人種をミックスして爆発したこのカルチャーは、この時期ジェンダーのミックスには至らず、女性の影は驚くほど薄い。Monnie LoveやQueen Latifahへの言及はあったものの、字幕ではカット。*1
また、スケートもヒップホップも「度胸試し」的な要素が評価されるなど、この時期どうしても不可分な”Toxic Masculinity”的ヤダ味を感じざるを得なかった。(『mid 90s』を思い出したりした。)

カルチャーによる熱気やうねりが、あの頃のNYが、ギャングやジェントリフィケーションや資本主義に呑みこまれていく様子にはもちろん、昔無邪気にこのカルチャーを消費していた自分はもう戻ってこないんだなぁという点でも、郷愁を感じたりした。こんな気持ちをエドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』で昇華したんだろうか。



★★★★

*1:そんな中でも異ジャンルから界隈に絡んでいるMadonnaBjörkのさすがさよ…

NOPE/ノープ


最悪の奇跡が起こる。

監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール
撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
視覚効果スーパーバイザー:ギョーム・ロシェロン
編集:ニコラス・モンスール
プロダクションデザイナー:ルース・デ・ヨンク
衣装デザイン:アレックス・ボーヴェアード
音楽:マイケル・エイブル


『サイン』ガチ勢のわたしとしては、快哉を叫ぶしかない!サイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!前2作で称賛された批評性やアート性を極力抑えて、こんなケレン味たっぷりの超娯楽大作へと飛躍させてくるなんて……!さすがコメディアンだけあって、自らの前作をフリにしている感すらあるし、「スペクタクル依存」を描いたというこの映画にまんまと狂喜乱舞している観客というアイロニーも計算ずくな気がする。


ジョーダン・ピールらしい各地に散りばめられたモチーフはいくらでも読み解き可能だと思うし、画としての強度もすばらしい。(ホイテ・ヴァン・ホイテマーーー!)白馬に乗った黒人→黒馬に乗った黒人→白人が乗ってきたバイクで疾走する黒人、という流れの見事さなど挙げ出したらきりがない。

映画史への視線や、消費される対象(マイノリティ、動物、UAPまで)にまつわる搾取の連鎖、反転あるいは逆襲、という意味合いも強く感じられる。


その中で個人的に一番強く響いたのは「恐怖に立ち向かうにはどうすればいいのか?」というシンプルなテーマだった。そしてそれが「見る/撮る」ことだということ。前2作で被差別の恐怖を描いてきたジョーダン・ピール監督が、3作目にしてそれに「撮る」ことで立ち向かうと決意表明しているようで、胸が熱くなった。

キャラクターの配置も良かった。
冒頭のOJはいわゆる「映画における黒人」像とはかけ離れた寡黙なキャラクターで、他人と目を合わせることがない。その彼が「見る」という行為に一番敏感だし、並はずれた覚悟を持って彼が「見る」時こそがクライマックスになるというのがまた……!
ティーヴン・ユァンの存在感も完璧。克服できそうだった恐怖をずっと引きずっているジュープは、ショーに貶めることで恐怖を飼い馴らそうとしているように見える。ジュープ(イエロー)とゴーディ(モンキー)は見世物としての侮蔑やフラストレーションを心の奥底では共有していたようにも見えるし、「ある時を境に空っぽになってしまった」感が『バーニング』を踏まえているようで最高。


少し薄味だけど、父親やカウボーイ的な価値観から疎外されてきた娘が偉業をカマす(そしてまたその偉業が盗まれそうになるかもしれないが、彼女ならそれに立ち向かうであろう)ラストで〆ているところもぬかりない。

あと、地球を救うような大きな話がとても個人的な選択の話に集束する物語が大好きなので、兄ちゃんが妹の目を見ながら"JEAN JACKET"*1命名する瞬間、ブチ上がった!!!そうこなくっちゃな!

★★★★

*1:またヤツの造形が使徒だしアート性ここに振ったのかよ!と思ったしやたらもったいぶって開口していくので、めちゃくちゃ笑ってしまった

わたしは最悪。


人生は選択ー時々、運命。
"最悪"な本音が"最高"の共感を呼び世界が絶賛!
新時代を生きるすべての人に贈る、恋と成長の物語。

原題:THE WORST PERSON IN THE WORLD
監督・脚本:ヨアキム・トリアー
脚本:エスキル・フォクト
撮影:キャスパー・タクセン
編集:オリビエ・ブッゲ・クエット
美術:ローゲル・ローセンベリ
衣装:エレン・ダーリ・イステヘーデ
音楽:オーラ・フロッタム


つまり最高。タイトルが示すとおりに一面では語れない人間讃歌。自分/誰かが最悪だと思った人間も、自分/他の誰かにとって最高たり得る。ほぼ前情報なく観たのだけれど、監督はLvTの甥なのかー!

『僕の狂ったフェミ彼女』という小説に、彼氏が「正直さ、考えると怖くならない?将来、旦那も子どももいなかったら寂しいんじゃないの?」と問い、彼女が「その代わり、私がいるはず。」と答えるシーンがあるのだけれど、"That's it!"な映画だった。


「私の人生なのに傍観者で脇役しか演じられない」わたしがやらかしながらも人生をつかんでいく様子は、『フランシス・ハ』や『セレステ∞ジェシー』を思い出したりも。


こういう映画は主人公の魅力、主人公を好きになれるかが作品のそれに直結すると思うのだけれど、ユリヤ…好きになっちゃったのよね……。「わたしはあなたの魅力わかってるよーーー!」とスクリーンの外から何度も声をかけてあげたくなってしまった。結婚も出産もしてしまったわたしだけれど、メンタルはおそろしいほど変わらない。書店で働いていたこともあるし、家に帰りたくない時もあるし、いまだに人生の迷子。そんなわけで、ユリヤの身勝手さの描かれ方の豊かさに本当にぐっときてしまったし、自分もがんばろうという気持ちになりました。

あと、その服どこで買ったのか教えてくれんか?ってなるほどファッションがツボでした。


だいじなできごとは準備も心構えも間に合わずに過ぎてしまうもの、という事象も各登場人物を通してくり返し描かれていた。観終わった後、その時!ジャスト欲しいもの!が来る、という幻想と折り合いをつけて、でも自分をあきらめず現実をやっていく、という話を最初からずっとしていたんだな、と思いました。

ヨアキム・トリアー監督はインタビューでも「個人としての意識を、自分がいる集団とどう擦り合わせていくか」「夢と現実に折り合いをつける」「“時間と存在”は、まったく別のもの」など心をぶっ刺すパンチラインを量産。「プレッシャーで行き詰まった都会っ子たちの物語」を描きつづけている監督のようなので、過去作も観てみたいし、次作も楽しみです。

ginzamag.com

soen.tokyo


★★★★

リコリス・ピザ


この出会いは運命

原題:LICORICE PIZZA
監督・脚本・撮影:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:マイケル・バウマン
編集:アンディ・ユルゲンセン
衣装デザイナー:マーク・ブリッジス
美術:フローレンシア・マーティン
音楽:ジョニー・グリーンウッド


PTA新作を観られる喜び~~~!しかもタイトルはレコード・ショップ・チェーンの名前(アナログ・レコードのスラング)!腕まくりで初日に行ってきました。

PTAってふしぎな監督だ。『TWBB』や『ザ・マスター』『ファントム・スレッド』など息苦しいほど濃密な空気の映画を撮るかと思えば、こんなに軽やかでスカスカな(よく言えば風通しの良い)、多幸感にあふれた作品も見せてくれる。『パンチドランク・ラブ』、『インヒアレント・ヴァイス』の系譜に『ブギーナイツ』のエッセンスがかかった感じ。『OUATIH』や『あの頃ペニー・レインと』を思い出したりも。
しかも今作は恩師の娘(しかも一家総出)と盟友の息子主演で、舞台・地元(サンフェルナンド・バレー)、友だち(ゲイリー・ゴーツマン)の話……とかつてないほどのプライベート感!いったい何を見せられてるんだ?と微苦笑してしまうような愛らしさが詰まっていて、終始ホンワカパッパしてしまった。とにかく主演二人の顔~~~良い~~~。

とくにずっと見ていられるアラナ・ハイムすごい。PTAが「ウォーキングの天才」と称するように要所要所でかましているウォーキングが最高。姿勢悪いのにこの魅力はなんなんだろ?と鑑賞中にぼんやり考え込んでしまうくらいだった。そういう観方ができてしまうくらいすき間が豊かな映画だなと思った。

しかし、こうして並べてみると、実はPTA作品ってしょうもないひとたちのちょっとメロドラマ的ですらある益体もない話ばかりなんだけど、どうしてそれがこんなにも胸を打つんでしょうね?この作品も「目をそらしたり、回り道やすれ違い(携帯がない世界!)もしたけれど……やっぱり彼/彼女がすきーーーッ!」というやれやれ着地にも関わらず、ものすごい清涼感と多幸感があった。全編にわたって目から伝わってくるLAの気候もあいまって、脳内がサーッと除湿されたようでした。サントラ絶対に買う!


www.banger.jp

小ネタおもしろい~


★★★★