心臓を貫かれて


自ら銃殺刑を求めた殺人犯の実弟マイケル・ギルモア―ローリング・ストーン誌で活躍した音楽ライター―が、描くノンフィクション。家族・宗教・暴力・絶望の呪縛と連鎖が描かれる。


筆者の目的は、兄の人生がどこでボタンをかけちがえたのかを特定すること。暴力と破滅、これ以上の喪失を防ぎたいと、切実に願う様子が伺える。マイケル・ギルモアは一家の歴史に分け入り、訳者・村上春樹が言うところの「トラウマのクロニクル」を語り明かす。語り口は話が前後したり、筆がよどんだりと、とてもリアル。


内容は凄絶。「心臓を貫かれて」というのは非常に秀逸なタイトルで、2重3重の意味があるのだけど、私自身もほんとうに「心臓を貫かれる」思いがした。特に胸がつぶれたエピソードはクリスマスかなんかにすごく美味しそうな七面鳥が出て、久しぶりに和やかなムードの中、やっぱり喧嘩が勃発して、ごちそうが床の上にぺしゃっと投げ捨てられてしまうというもの。このエピソードに象徴されるように、希望をあっさりと打ち砕かれる瞬間が何回も描かれていて、私には人生が間違った方向に流れ始める瞬間はつかめなかった。

殺人や処刑によって、他人に死を宣告し、至らすことはできる。けれども、どんな方法を持ったとしても、他人を生きさせることだけはできないのだ


そのギルモア家の中にあって、唯一意志を持って、暴力を忌避し続け、家族を気遣い続けたフランクという兄の存在がとても尊い