ツリー・オブ・ライフ

f:id:tally:20181227133150j:plain


父さん、あの頃の僕は あなたが嫌いだった・・・
成功した実業家ショーン・ペンが回想する家族史に寄り添って、描かれるこの世の成り立ち。あたかもアカシックレコードを具現化しようとするかのような意欲作。
2011年カンヌ国際映画祭パルム・ドール

原題:THE TREE OF LIFE
監督・脚本:テレンス・マリック
撮影:エマニュエル・ルベツキ
編集:ハンク・コーウィン / ジェイ・ラビノウィッツ / ダニエル・レゼンデ / ビリー・ウェバー / マーク・ヨシカワ
音楽:アレクサンドル・デスプラ


こころまちにしていました。万全の状態で、腕まくりして打ちにいってきました。鑑賞後の率直な感想は「テレンス・マリック版『エヴァ』」。。。「テレンス・マリック版『2001年宇宙の旅』」という評を見かけて、自分の卑近さを恥じたけど、自分にはこっちのほうがしっくりくる。

まず度肝を抜かれるのは、感性と視点のみずみずしさ。冒頭で描かれる日常の瞬間の切り取りかたには舌を巻くばかりで、こいつには詩を書かせても、写真を撮らせても、みんなをうならせるにちがいない、と思わざるを得ない圧倒的なセンスを感じました。CMでおなじみ「モルダウ」が流れる連続したシーンのうつくしさたるや。それだけで涙がでそうなくらいだし、観る価値があると思う。目玉をじゃぶじゃぶ洗われる感覚だし、自分の記憶をゆり起こされる。

そこに万物創世記パートがさしはさまれ、観客に生と死、神と人間、強者と弱者−あらゆる問いを投げかけ、観客の人生観をゆさぶってくる。このへんは完全にドラッグ・ムービーで、瞳孔ひらきながらも素面じゃちときつい。『コヤニスカッツィ』をはじめとする『カッツィ』シリーズを思わせる描きかた。多くの観客がここで脱落。わたしも人間パートに戻ったときは正直うれしかったです。人間サイコー!みたいな。

祈りと受容と慈愛と赦しと浄化ー。とても高尚な映画のように感じられるけど、個人的にはたいへんおそろしい部分もあって、それはおおむね宗教と母親の描きかたに集約される。宗教観については、わたしが『シークレット・サンシャイン』寄りのファックユー野郎で、かみさまや恩寵や死後についても価値観がちがうから。母親については、家族史がショーン・ペンの目線で進むので、男兄弟の母親が神格化されるのはしかたないにしても、あの母親の血肉がだいじなんじゃないかと思うところ。ブラッド・ピットに象徴されるアメリカ的マッチョ思想が敗北した今、新しい価値観の創造が提示されようとしているけれど、ショーン・ペンが母親の内部に目を向けない限り、先には進めないんじゃないか、ってところが最後までひっかかりました。


★★★