監督失格

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しあわせなバカタレ。
2005年に34歳で急逝した女優・林由美香のドキュメンタリー。林の元恋人でロードムービー「由美香」を手がけた平野勝之監督が、膨大な量の映像記録と、林の死後に新たに撮影した映像で構成。

監督・撮影・原案:平野勝之
プロデュース:庵野秀明
編集:李英美
音楽・主題歌:矢野顕子『しあわせなバカタレ』


立ち直れなくなりそうでこわくて敬遠していましたが、こわいものみたさには勝てず。まったくひとの人生のぞきみしたがりの助平っつーのは、困ったもんです。

前半はロードムービー「由美香」のダイジェスト版で、林由美香と平野監督の関係性が描かれ、後半は林由美香のショッキングな死に直面する瞬間(ペヤングマキすげー!)から由美香の死を乗り越えようとするひとたち(主に平野監督と由美香ママ)の姿が描かれます。

まず前半ですが、とにかく林由美香が卑怯なくらいかわいい。目線の強さとか黙って涙を流すかんじ、幼児体型なからだ、「ゆうやけこやけ」を歌うあの声。疲れててもお化粧サボらないし、電話の最後には「ありがとね」。さすがミューズと謳われるだけあるなあ、と。劇中何度か使われる「しあわせです」と言って目を閉じる瞬間の林由美香ー、誰が観てもすきにならざるを得なくて、この感覚と目線は藤代冥砂の「もう、家に帰ろう」にすごく近いと思う。

もう、家に帰ろう

もう、家に帰ろう


というか誰しも恋人をこういう目線で観ているし、こういう瞬間の断片が頭に残って離れないのだろうなあ、と思う。平野監督もロマンチストでいかにも男性!なひとながらも、一生懸命話を聞こうとする様子がほほえましかったりで、「由美香」観たくなりました。

さて、ここで年月が経過して、久々に由美香と平野監督が会うシーンがあるのですが、わたしは何よりこのシーンが一番ショックでした。あんなに可愛かった林由美香がやせさらばえて、頬がこけてる。メイクも髪型も着てる服も全然かわいくない。「結婚してささやかな家庭を築く」という夢を賭けた年下の彼氏は、風俗嬢にいれあげてる。平野監督に送るメールには「また体重落ちちゃった」「わたしいい女だよね?」。勝ち気ないい女がどうしようもなくなにかに負けてしまうことのかなしさたるや。わたしは「由美香」と死去のだいたいまんなかくらいの年齢なので余計に身につまされました。だからカンパニー松尾他かつての男たちに抱えられて出棺するシーンには、半ばうらやましさすらある。これで林由美香は伝説になるー。でもあと半分は「それでも負けちゃだめだ」と思うきもち。

由美香の死に閉じこめられて5年。後半の描写はショッキングなことやドロドロの諍いがとても淡々と描かれていて、監督の途方に暮れたかんじが立ちこめている。その5年を通過しての平野監督の慟哭は年月の長さを感じさせないほど、生々しくてびっくりする。と同時に平野監督のなかに寒天状に沈滞していた林由美香もなんとなくほどけていくようなかんじがして、すごい成仏映画だなあ、と思いながら観ていました。

天国の林由美香さんは昔のオトコが撮った映画をどう思っているかしら?この映画、男女で観るところは全然ちがうと思うんだ。ラストに流れるのは、映画を観た矢野顕子が書き下ろした曲で、『しあわせなバカタレ』。やっぱり矢野顕子のキレこわいなー、と思うことしきり。


★★★