マンチェスター・バイ・ザ・シー


心も涙も、美しかった思い出も、
すべてを置いてきたこの街で、
また歩きはじめる―。
第89回アカデミー脚本賞/主演男優賞

原題:MANCHESTER BY THE SEA
監督・脚本:ケネス・ロナーガン
撮影:ジョディ・リー・ライプス
編集:ジェニファー・レイム
美術:フローレンシア・マーティン
衣装:メリッサ・トス
音楽:レスリー・バーバー


信頼するドラちゃん(妹)の2017年度ベストであり、まったく異論がない、すばらしい映画。"That's not true." "I can't beat it."といったシンプルでしずかな、訳しきれない味わい深さのあることばたち。いま思い出しても深い余韻が押し寄せてくる。

にもかかわらず、わたしがこの映画を2017年度ベスト10にどうしても選べなかったのは、同時にこの映画がトラウマでもあるから。いまわたしが一番恐れていることがとてつもなく起こりそうなかたちで、ていねいに描かれてしまっているから。

よっぱらって上機嫌の自分。とりかえしのつかない過失。同じ経験をしても決して分かち合えない傷。ランディとの再会で「赦し」を感じて救われた、という感想を見かけてビックリしたのですが、わたしが感じたのはただただステージの差で。「このひとはもう過去のこととして気持ちの整理がついてあたらしい人生を歩んでいるんだなぁ」というさみしさ、いらだち、羨望、失望であり。愛する人の幸せを誰よりも願っていても、自分と同じくらい過去に囚われていてほしいと思ってしまうエゴ、を自分の中に見てしまった。

リー・チャンドラーは平行世界のわたしであり、リー・チャンドラーといっしょにわたしも消えない傷を負ってしまった。だからつらすぎてベストには選べない。