ビール・ストリートの恋人たち


愛があなたをここに連れてきた
第91回アカデミー助演女優賞

原題:IF BEALE STREET COULD TALK
監督・脚本・製作:バリー・ジェンキンス
撮影監督:ジェームズ・ラクストン
編集:ジョイ・マクミロン、ナット・サンダーズ
美術:マーク・フリードバーグ
衣装:キャロライン・エスリン=シェイファー
音楽:ニコラス・ブリテル
音楽監修:ゲイブ・ヒルファー
原作:ジェイムズ・ボールドウィン


『ビール・ストリートに口あらば』って最高の邦題だと思うし、今作の雰囲気にも合っていると思うんだけどな。

前作『ムーンライト』で胸打たれた、この世知辛い世界を限りなくうつくしく描く力は健在でした。この監督の、恋人の、とくに恋の始まる瞬間の、胸をしめつけるような、ときめきややさしさの描写は、ほんとうにすばらしいと思う。
倉庫でのおままごとのようなやりとりからの「The World is ours!」感!はじめてのセックスのいたわりとロマンテッィクさたるや! 村上春樹でいうところの「それを熱源にして、自らを温めていくことができる 滋養あふれた」記憶のかけらたち。

「夢の続き」の田我流のリリックを思い出したりしました。

傷跡の数だけ気の利いたジョークと
溜め込んだ優しさで変えていく Bad days
神様ありがとう 笑いがないと
物語は残酷で退屈な内容
天国に持っていけるのは思い出くらい

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2人が世界のうつくしさを共有するところと、1人の世界をだいじに守っているところが両面描かれているのもすきだ。

ただ、今の自分にはちょっとだけ苦しかった。
わたしは、昨年末あたりからずっとつらさ(個人比)を感じることが多く、それはもういろんなブツを大量投下して、なんとか日々のきもちをあげているのだけれど。もちろんそれはこの2人が置かれた理不尽な状況とは比べるまでもないようなちっぽけなつらさで。そんな過酷な世界で、2人はお互いを思いやり、信頼できる人々と肩を寄せ合い、思い出というささやかな灯し火で闇を照らしながら、強く生きている。
こんなのを観せられちゃあ、うかつに不平や弱音を吐けないよ……。

いまのわたしには、その高潔さよりも、「あんたはレイプされたことないだろ」や「ありがたいがお前は地獄を知らない」という、完全に間違っているのに味方であるはずのひとになぜか突きつけてしまう、ゆがんだ怒りの切っ先のほうが妙にリアルに感じられたのでした。


★★★★