さよなら、退屈なレオニー

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こんな青春じゃ 終われない
いつもイライラして、どこかフワフワしてた、まぶしくてじれったい何もない毎日。
17歳の夏が過ぎていく―。

原題:La disparition des lucioles
英題:THE FIREFLIES ARE GONE
監督:セバスティアン・ピロット
音楽:フィリップ・ブロー


ノーチェックでしたが、信頼できる友の高評価を見て「あ!これ最優先のやつだ…」と。邦題*1やルックはおしゃれ甘酢成長譚っぽく見えるけれど、監督は「これは青春映画ではない」「つきまとうシニズム、その治癒薬である大きな意味での愛についての映画」と明言しており、なかなか一筋縄ではいかない雰囲気。

sayonara-leonie.com


ピースのひとつひとつも語っていること*2もすっっっごく好きな映画でした。号泣するではないけれど、なんだかよくわからない感情にずっと涙腺が微弱に刺激されていた。
18年後の『ゴーストワールド』行先不明のバスに乗る映画にハズレなし!

Ghost World [DVD]

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ゴーストワールド』との共通点はとても多い。周りみんながバカに見える「ゾンビタウン」。具体的な夢もなく鬱屈したティーンエイジャーの主人公。穏やかで賢い父。うまくいかない義父母。自分の城を築いている中年男性との居心地の良い時間。

しかし、変人だらけの『ゴーストワールド』のヌケの良さに比べ、「世界が新しいファシズムの新しい形へ向かっているのでは」という思いが込められた『蛍はいなくなった』は、コメディ要素はありこそすれやはり閉塞感が濃い。
とくに監督の意図とははずれているかもしれないが、要所要所で挿入される妙に荘厳で甘美でファンタジックな音楽に、わたしは常に「死」の気配を感じてしまった。青春の一瞬のきらめきの裏にはたしかにいつも死の気配がある。ティーンエイジャーのバランスの危うさが改めて胸に迫ってきた。他にも甘酢やまぶしさの裏で、思わぬ角度から打ち込まれるビター&ホラー成分にハッとさせられる場面が何度もあった。

3人の「父」は、「伴侶」「政治的指向」の象徴であると同時に、「ロールモデル」でもあると思った。「世俗の権化のポピュリスト」な義父は論外だが、「理想主義と現実とのギャップに敗れた」実父や「愛と音楽と善意に満ちた受容者」スティーヴも彼女は選べない。でも3人目の父は彼女を変える。
ちいさな野球場で、たったひとりの観客の前で、かき鳴らされるバカテクメタル。母が他界しほんとうに孤独になってしまったときにそばにいた時間。どちらも笑いながら泣いてしまうような、心に残るシーンだった。

この先二度と会わないとしても、たしかにあった友情の話。シニズムとファシズムを脱するために、他人に依らない新しい生き方を選択するために、だいじなものを捨てる話。消失と出現の話。大きな光の下では見えない蛍の微灯の話。それが私たちの視界から離れたのか、私たち自身がそれから離れたのか…。

何が消失し何が出現したのか考えるだけでも感慨深い映画だし、ラストも言葉にできない余韻があってぶっ飛ばされました。


★★★★★

*1:原題は『蛍はいなくなった』 この映画全体のトーンを表すすばらしいタイトルなのに……

*2:公式サイトの監督インタビューで「強制はしませんが…」と語っている通り、監督には明確な意図やメッセージがあり、自分がそれをその通り受け取ったとは言えないけれど