WAVES/ウェイブス

f:id:tally:20200730092617j:plain


愛が、再び押し寄せる
傷ついた若者たちが、新たな一歩を踏み出すまでを鮮烈に描く希望の物語。
超豪華アーティストによる31曲が全編を彩る。
ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”

原題:WAVES
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
撮影:ドリュー・ダニエルズ
美術:エリオット・ホステッター
衣装:レイチェル・デイナー=ベスト
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス


予告観た瞬間、「一生の一度の傑作」の予感はバチバチにあったんですよ。なにしろ、「プレイリスト」の豪華さよ!ふだん映画を観ない界隈でも話題になるほどでした。

基本的には看板にまったく偽りはないです…とくに、「プレイリスト」はさることながら、それ以外の劇伴もすさまじかった。音楽も、色彩も、弱さを抱きしめる世界もうつくしい。けれど、わたしはこんなにやさしくなれない……と思ってしまった。波に乗れなかった。


以下、ネタバレ。




悲劇というには酷すぎる事件も、父親たちも、ねにもつタイプの自分には赦すことが難しかった。
とにかく、登場人物の心の動きや行動「???」となってしまうことが多かった。実は最もわかりやすかったのはタイラーで、他の登場人物に関しては「え?そういう思考回路なんですね???」と面食らってしまった。*1

とくに「ハーーー!?」となったのは、父とエミリーの抱擁シーン。おそらく二人がはじめて歩みよることで、強権的な父親が弱さをさらけ出し、娘がそれを受け止めるのに感動するのが正解なんでしょうね。しかしわたしはドン引きですよ……。
そもそも前半そんなに悪い父親だとも思っていなかったけれど、後半今までアウトオブ眼中だった娘と向き合い、一足飛びに距離を詰めてこようとするところに「おまえ!そういうとこな!」と思った瞬間、娘は一切を赦し、あまつさえ父の弱さを包みこむしまつ。あっという間に関係再構築。和解のスピードについていけない。そもそもタイラーが肩壊した時あんな眼で見てた親父がそんな簡単に変わるとか思ってないからな!口では耳ざわりの良いこと言っているけれど、このひとがやっているのは結局釣りだけで、タイラーの面会には行くのはエミリーですらなく、継母なのである。

ことほど左様に、全員本当に向き合うべき相手が少しずつずれている気がした。
ルークの父もクソだから縁を切っていたはずなのに、余命わずかだと知れるや否や、即確執氷解&ハードな看病も辞さず。同じ苦難を共にしてきたルークの母は面会すら明かされていない。いわんや、愛する娘と共に孫を育てる決心をしていたアレクシスの両親をや!
マチズモは崩壊したけれど、女性たちは母性を担わされ続けているようにも見えてしまった。

まぁ監督自身の私小説で、事実なのだから、当人が満足なら文句の言いようがない。
自分にとっては、やさしいひとたちが幸せになれるならよかったな、という温度と距離感の映画でした。


★★★

*1:そもそも事件が最悪すぎて、最も感情移入してしまったのは、アレクシスの両親だった