君と出会って、僕は僕になったー
A24が贈る 90年代への愛と夢が詰まった
青春映画のマスターピース!
原題:MID90S
監督・脚本:ジョナ・ヒル
撮影:クリストファー・ブローヴェルト
編集:ニック・ホウイ
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
予想以上に端正で王道の青春映画!
家族への鬱屈した愛憎、所在なさと無力感、はやく大人になりたいという痛いくらいの思い。
〜からの居場所を見つけ、存在を認めてもらった時の爆発するような歓喜。憧れ、背伸び、嫉妬、焦燥、イノセンス。ホモソーシャルの長短。そして、長くは続かないモラトリアムとわかっているからこその、鮮烈なきらめきとうつくしさ。
青春映画に必要なものすべてが完璧に詰まっているんじゃないだろうか。
しかもその演出がいちいち粋でさりげなくて、びっくりした。
クルー内のしょうもない会話には余分な間と尺を取っているのに、兄へのプレゼント選びや、病室でのオレンジジュースのくだりのキレといったら!
レイとのマジックアワーという白眉のシーンにもモノローグなど一切入れずに、画のうつくしさだけで勝負する、腕の確かさ!
登場人物もみんな魅力的。
まず、主人公役のサニー・スリッチの可愛さが異常で、「こんな末っ子キャラが入ってきたら、そら可愛がられるわ!」という説得力がすごい。クルー全体の人間関係を冷静に観察しつつも、彼らのバックボーンを見抜くまでの眼力はまだない、という未熟さ描写もほろ苦くてリアル。
クルー各々が抱える感情や問題をあぶり出していく描写もとても自然で手際がいい。
自分はどうしても母親目線でも見てしまうけれど、このバランスも絶妙。ドラッグにアルコールにセックスー、自分で冒険して学んでいってほしいという信頼とこの危うさをどこまで放任していいのかという不安。スケートショップ怒鳴り込みという地獄描写からの最悪の事態になりかねなかった事故。最後には、悪ガキな彼ら全員が、どうしようもなく愛おしくなってしまう。
きっと今後バラバラの道に滑り出していくであろうクルーが一堂に会した画の尊さよ。
監督ジョナ・ヒルとは同世代なので、カルチャー描写も刺さらずにはいられない。
部屋のポスター、Tシャツなどいちいち目が追ってしまうし、ラストのThe Pharcyde "Passin' Me By"に至ってはむせび泣き。*1
しかもA24製作で、スパイク・ジョーンズにアドバイスもらってて、パンフレットには野村訓市が寄稿してて……ってどこまで盤石なんだよ!
それにしても、今年、青春映画 当たり年すぎる。
『ブックスマート』と併せて、ジョナ・ヒル兄妹での猛打すごい……。
★★★★★
*1:選曲もさることながら、ずっと見くびられていたアイツが落とすボム…あのスケビはもしかしたらフォース・グレードの最初で最後の最高傑作なのかもしれない、と思うと…