花束みたいな恋をした

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何かがはじまる予感がして、心臓が鳴ったー。
いまを生きるすべての人へー
坂元裕二脚本で贈る、終電後に恋に落ちた2人の忘れられない5年間。

監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
助監督:石井純
編集:穗垣順之助
撮影:鎌苅洋一
美術:杉本亮
衣裳:立花文乃
ヘアメイク:豊川京子
音楽:大友良英
イラストレーション:朝野ペコ


好みかどうかはさておき、地獄の釜の蓋が開き、友だちに連絡せざるを得なくなる映画。
カルチャー論や仕事論を持ち出した指摘は、どこか的はずれになってしまう。
これが真っ向からの「恋愛映画」で、しかも大学〜社会人初期という「何者」期を扱っているから。
ゆえに触媒として非常に強固なつくりで、人生経験によって感想が全く変わってくると思う。
使いたくない言葉だけど、コスパ最強……!

とにかくいろんなひとの感想を聞いてまわるのが楽しい。もはや実際に映画を観ていない友だちと話していてすら楽しい。*1「このカルチャーチョイスおかしくない?」(エンジニアおじさん世代)という感想と並行して、「わたしもこの本棚…!この曲カラオケでデュエットするの夢だった」(リアル世代)、「こんなふうにならないか恐怖」(ネクストジェネレーション)という感想が流れ、もう感想の出方も阿鼻叫喚の様相を呈している。


きのこ帝国 - クロノスタシス(MV)


絹は東京っ子で、広告代理店家庭の末娘。カルチャーを好奇心や冒険のトリガーにしているタイプに見える。押井守は「好きか嫌いかは別にして」。
対する麦は新潟出身。ラストまで観ると、カルチャーは自己補償のアイテムで、他のなにかで置き換え可能なタイプだったのかなという気がする。押井守は「神」。

ACCとファミレスを両立しているおねえさんを見ていながら、どてら姿で就活してしまう麦の描写とか、本当に端的で周到だよなーと思う。

2人どちらも悪くないし、そもそも恋愛に「正しさ」の話は全然意味がない。ありていに言ってしまえば、タイミングの問題だと思うのだけれど。ラストなんとなく余裕ができて、色々なことのバランスや距離感が取れるようになったように見える麦。たぶんこの頃つきあっていれば、中身は同じ内容でももっと上手くプロポーズできて、結婚していたと思う。
「我々のこれまでの道のりは美しかった。あと一歩だった」ほんとそれ。

自分史に重ねあわせると、心当たりが多すぎる。
大学生時代は、写真専門学校生*2とつきあっていたし、20代は、初期の麦絹みたいなサブカル仕草が楽しすぎて、「いつまでいけるかわからないけれどいけるところまではいこう…」と散々遊びまわったあげく、33才にしてようやく京王線界隈の(!)カルチャーつながりで(!)結婚したわたしですので…。
終電逃してからの散歩コースとか既視感ありすぎ地獄。本棚/レコード棚チェックはもちろん、靴箱チェックも当たり前だったし*3韓英恵みたいな友だちいたよ……。*4
異論はあるけど、たぶん当時わたしが絹みたいに見えてたんだろうな、と思い当たる恋愛経験*5もあり、その鮮やかすぎる可視化!可視化よ!

結婚して7年。曲がりなりにも良好な関係を築いている身としては、サブカルカップルにエールを送りたい気持ちにもなった。
わたしと夫はそもそも趣味・嗜好はそれほど似ていないけれど、カルチャーに自分なりの情熱とお金と時間をかけることや、そこから得たものの大きさに理解はあるから、仕事や育児とバランスを取りながら、長い目で見てカルチャーを愛するライフスタイルを築いていると思う。
共通の友だちも多いし、お互いをおもしろがれて、楽しいよ!
個人的に教訓めいたものを受け取ったとすれば、「自分がすきなもの/パートナーがすきなもの に敬意を払うことはだいじ」ということ。麦絹がお互いそれをできなくなっていく様子は、見ていて本当にかなしかった。興味なかったミイラや啓発本にも、おもしろいとこ探せたらよかったんだよな。



フレンズ「NIGHT TOWN」


ファミレスのシーン、わたしも、となりに座っていた同い年くらいのおじさんも、嗚咽。ファミレスにおける「菅田分岐」についての思いは、『ブルーバレンタイン』と同じく結婚に対する期待値の高さが出るんだと思う……。

こんな感じで、自分は年齢・年代がはずれているので、一応足場を確保したまま鑑賞できたのですが、致命傷になる人もいるのでは…。あー、早く友だちと感想会ひらきたい。とりあえず、わたしが見て回った中では、Spotify「別冊アフター6ジャンクション」の古川耕さんの感想が一番自分と近かったです。


★★★★

*1:観ずにすごい精度の二次創作あげてくる輩もいる

*2:しかも麦のように自分の希望とちがう就職を経て一旦変節した。その後一念発起してアー写の大御所に弟子入りするもブラックな勤務形態に削られ、最終的にはニッチなジャンルのカメラマンに落ち着いた

*3:いけてるスニーカーをはいてる人を好きになりがちだった

*4:顔も似てる。今は結婚&出産して幸せにくらしている

*5:結婚前提でつきあっていたがフラれた。「俺の地元に住めないだろ?」と言われたことがある。