メランコリック

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風呂屋さんの仕事も、結構あぶないんですね。
バイトを始めた銭湯は、深夜に風呂場で人を殺していたー。
日々を憂鬱と感じる全ての人に送る、巻き込まれ型サスペンス・コメディー。
和彦役の皆川暢二、松本役の磯崎義知、田中監督による映画製作ユニット「One Goose」の映画製作第1弾作品。

監督・脚本・編集:田中征爾
助監督:蒲池貴範
撮影:高橋亮


予想を超えてしみじみ好きな映画だった。
メインビジュアルはミスリードなのか、連想されるようなダークさよりも、癖になるオフビートさが先に立つ。
シュールコントのような設定と、妙にほっこりする世界観は、日本の漫画ではわりと味わえるけれど、映画では意外となかったかもしれない。

とにかくキャラクターの実在感が全てを補強している。主人公の和彦の東大いるいる感。どんどん魅力が加速していくのが心地良すぎる松本。彼女の百合ちゃん、なんか好感持ってしまう後輩でいたわ、こういう子!もしかしたら、世界の片隅では本当にこんなことが行われているのかもしれない、と思わせてくれる。あの本棚と食卓!

物語は予想とちがう方向に転がっていくように見えるが、終わってみると、最初からずっとこの話をしていた、と思える展開も秀逸。銭湯という舞台を活かしきった設定とテーマがどんどん効いてくる。
見た目や学歴からくる偏見(東大行ったらいい会社入ってしあわせにならなきゃいけないんですか!?)。仕事論や世代格差(夢や希望を持てない若者から信頼すら搾取する既得権益老害)。「絶対やばいやつだろ…」と思っていた両親の斜め上ゆくズレ方(ここまで到達できたらもう黙って拍手するしかない)。
そして、思わぬ方向からツボをぐいぐい押された後に着地する、刹那のきらめきを信じたラスト…。長くは続かないとわかっているからの、この瞬間のかけがえなさ。モラトリアム映画の真骨頂に完全にぐっときてしまった。


★★★★