サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

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原題:SOUND OF METAL
監督:ダリウス・マーダー
脚本:ダリウス・マーダー、エイブラハム・マーダー
撮影:ダニエル・バウケット
編集:ミッケル・E・G・ニルソン
美術:ジェレミー・ウッドワード
衣装:メーガン・スターク・エバンズ
音楽:エイブラハム・マーダー ニコラス・ベッカー
原案:ダリウス・マーダー 、デレク・シアンフランス


すっと心の芯に届くような映画。要所に心に残るせりふを配置しながらも、基本的には繊細な描写、そして圧倒的に豊かな音が自然と染み入ってくる。
夫がハードコアバンドをやっていて、やはり耳を悪くした経験があるので、思い入れずに観ることができなかった。

まず冒頭のトレーラー暮らしの描写だけで、このカップルの人となりや抱えている問題、チャーミングさが端的に伝わり、引き込まれてしまった。見てくれややっている音楽がハードコアな男が、恋人と聴く音楽はスイートなのはよくあることで、かわいらしい。問題を抱えながらも、つつましくもおだやかな朝を迎えている様子は、なんだか泣けてくるほど愛しくしあわせな描写になっている。

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そこから、ルーベンが聴力を失い、自助グループに入ることになる。生々しい音質で表現される、耳が聞こえなくなっていく焦燥感・恐怖感。ふだん気にしていなかった日常や自然のささやかでうつくしい音々。音のない世界に見出す新しく豊かなコミュニケーション。すべり台を叩く振動を使ったコミュニケーションのシーンは、真新しい喜びにあふれている。

恋人ルーとの将来を焦ったルーベンは、インプラント手術を受けることでまた居場所をなくしてしまう。ここで示されるルーベンとルー、自助グループリーダーのジョーの選択は、自分が彼らの立場だったらもしかしたら違う選択をするかもしれないものだが、それでもとても自然で筋が通ったものに感じられる。このキャラクターならこうするだろうな、という説得力がある。

全編を通して語られている、喪失の痛み、新しい世界の中にある豊かさ、新しい生き方へ向かう希望とせつなさ。それらが「聴力」に限られたものではなく、「恋愛」や「若さ」にも射程を広げた物語になっているところが、とても味わい深かった。若いときに観ていたら、こんなに感動しなかったかもしれない。
ラスト、ルーベンの耳に響く鐘の音は、インプラントを通すと耳障りであると同時にメタルのドラムのようで妙に格好良くもあり、「はずす」先に訪れる静寂の安寧と共に、「はずさない」という選択肢にもかすかに光を当てているようで、忘れがたい着地になっていると感じた。
とても静かな映画なのに、おそろしく胸を揺さぶられた。


★★★★★