フェアウェル

f:id:tally:20210520105630j:plain


愛する祖母に最後に伝えるのは<真実>?
それとも<優しい嘘>?
『ムーンライト』『レディ・バード』のA24が贈る感動実話

監督・脚本・製作:ルル・ワン
撮影:アンナ・フランケスカ・ソラーノ
編集:マイケル・テイラー、マット・フリードマン
美術:ヨン・オク・リー
衣装:アテナ・ワン
音楽:アレックス・ウェストン


新鮮で多層的で、とてもおもしろかった。
難病告知系人情モノかと思っていたが、そこが主眼ではない。東西の価値観やカルチャーギャップを超えて、もっと広く個人の価値観や異邦人そのものを捉えるような映画だと思った。

異国からの移住者、国際結婚、家に嫁いでくる嫁。彼らは「外からやってくる者」だし、関係を反転させれば誰しもそうなる。ホームとアウェイで立ち振る舞いも変わってくるし、帰属意識があいまいな人もいる。その描き方がとても軽やかで良かった。

お墓参りのシーンは、もはやそれが中国特有でも家特有でもなく、個人のルールで行われているのに爆笑したし、自分と所属(国籍、年齢、職業など)がちがう人との関係性に肩肘を張らずに「この人はこういう人」と肩の力を抜き、個人の価値観を尊重できたらいいのかな、などと思った。オークワフィナの佇まいはぴったり。

あとは、アイコ役を演じた水原碧衣さんがなにげにすごくよかったなと。中国文化がわからずアウェーでニコニコするしかない、ナイナイからはバカ呼ばわりの日本人役……で、基本的にはその路線で演じていると思うのだけれど。全然主張がない一方、ずっと上品な笑顔で居続けてえらいな…ってバランスも感じ取れて。なにしろご本人は京大卒・北京電影学院首席卒業、Mensa会員の超才媛。もちろん中国語もペラペラ。このギャップ込みでキャスティングされているのかもしれないけど、やはり漏れ出る何かがアイコのキャラクターに深みを与えていた気がするし、わたしは「日本でのアイコはきっと違う表情だし、ハオハオも日本での生活ではアウェーの顔なんだろうな」というところまで思いをはせることができた。

長年ハリウッド映画を観ていると、アメリカの価値観に慣れ、"This is America"とチューニングしながら観られるようになっていると思うけれど、今後は中国の価値観に触れる機会も多くなっていくのかなと思った。
学生時代、映画館でバイトしていた時分は、よく「外国産のコメディは笑いのツボがちがいすぎて笑えないんだよねぇ」と雑談しにくるお客さんが一定数いたけれど、中国産コメディもそんな感想を経てだんだん浸透していくのかもしれない。

あと関係ないけど、ルル・ワン監督と『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督のカップル、非常に納得度と好感度が高いです!

f:id:tally:20210520110555j:plain


★★★★