ラストナイト・イン・ソーホー

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夢と恐怖が、シンクロする
魅惑的で恐ろしい、60年代ロンドンへようこそ

原題:LAST NIGHT IN SOHO
監督・脚本・製作:エドガー・ライト
脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
編集:ポール・マクリス
撮影監督:チョン・ジョンフン
衣装:オディール・ディックス=ミロー
美術:マーカス・ローランド
音楽:スティーヴン・プライス


キワキワのキワを進みながらものすごくぐっと刺さるのが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』と同じ今を映す傑作。

以下、ネタバレ




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とにかく理屈を超えて、まずはガラスを突き破ってのハグに号泣してしまった。この映画にこの後どんなにまずい展開があろうとも、このシーンのエモさだけは褪せない!とその瞬間に認定してしまった。

華やかな世界の闇や幻影は『マルホランド・ドライブ』『ブラック・スワン』を思わせ、とくに女性にとってかなりつらい描写が多く、しっかりホラーでこわくもある。正直、性暴力シーンのきつさや神経症的描写のくどさは過剰な気もするし、「女性の性的搾取をエンタメ的に消費している」という批判も一理あると思う。それでも男たちの亡霊を「Help〜〜〜」「Kill her〜〜〜」で最低の負け犬に貶めたり、家系ホラーとしての秀逸さや、『スペル』『ヴィジット』的なタフババアホラーのアゲ感もたしかにあったりして、細心の注意と配慮でもって、この緻密なバランスを成り立たせているように感じた。

燃えさかる記憶の城の顛末を憐れんだり憤ったりする気持ちもわかるけれど、わたしはそれでもサンディをそこから連れ出さず自分で幕引きさせることにぐっときた。連帯はできるけれど、自分を救えるのも処せるのも自分しかいない。結局のところ、鏡像としてのエロイーズが成長し羽ばたいていくことでしかこの物語は救えないと思う。また、ホラー映画らしくサンディが完全に消滅したかどうかはわからないという余韻も残してあると思う。

この映画は女性に対して何かメッセージを発しているというより、自分が好きなカルチャーが女性消費や女性蔑視を内包しているという、未だ解決できない矛盾や葛藤や戸惑いがそのままにじみ出ているように感じられる。(ヒップホップ好きとしても刺さる。)それゆえいびつな印象もあり、男性監督が撮るのは勇気が要ったと思うけど、元警官の顛末にエドガー・ライトの覚悟を感じた。


★★★★