偶然と想像

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驚きと戸惑いの映画体験が、いま始まるー

監督・脚本:濱口竜介
撮影:飯岡幸子
助監督:高野徹、深田隆之
美術:布部雅人、徐賢先
スタイリスト:碓井章訓
メイク:須見有樹子


今年の濱口監督すごすぎる!今日本で一番好きな監督かもしれない。そして『街の上で』今泉力哉監督の時も思ったけど、このやり方ならずっと撮りつづけられるし無敵じゃん。
偶然のつみかさねが、ひとを思いがけない場所に飛躍させ、良くも悪くも未練や呪縛から解放してしまう。どの話も悲喜こもごもで、軽やかな味わい深さと奇妙な晴れやかさがある。テーマからしてそうだけど、村上春樹短編を思わせる味わいがあって、もともと親和性が高いのかも…と思ったりした。


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◆「魔法(よりもっと不確か)」
この話が一番楽しかった。わたしは完全にカズを応援する体制に入っており、彼がゆれるたびに心の中でワーキャーしてしまった。『浅草キッド』でも「なんて色気のあるたたずまいなんだ!」と感心した中島歩さんがまたいいんだ…。
『寝ても覚めても』の時も思ったけれど、実際に友だちだったらちょっときついかもしれない芽衣子というキャラクターの行動がこんなにも腑に落ちてしまうのはなんでだろう?衝動で生きているように見えてしっかり想像力を働かせている人として描かれているのがとても良かった。


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◆「扉は開けたままで」
これが一番複雑な味わい。3篇とも女性に寄り添っていて、1篇が進むごとにだんだん主人公の女性の年代が上がっていく(20代~40代?)つくりになっているのだけれど、この物語の主人公が一番惑っているように見えた。そのせいか一番失ったり得たり解放されたりの振り幅が大きくて、笑ったりドキドキしたりした。
教授のキャラクターもおもしろくて、「扉は開けたままで」に固執するさまに彼の世慣れなさ、不器用さ、誠実さが感じ取れるようだし、またオープンに見えるその行為が逆に彼を縛っているようにも見える。彼の顛末は気の毒にも思えるけれど、「扉を開けたままにする」ことから解放されたようにも思える余白があった。なんとなく彼女のことうらんでない気がする。
若い男には本当に腹が立つけど、最後のキスでだいぶ呪われた気はする。


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◆「もう一度」
三篇ともとてもおもしろかったけれど、とくに自分にはこの第三話が刺さった。こんなにささやかな物語にパラレルワールドタイムリープシスターフッドを込められるなんて!登場人物と年代が近いので、自分の気持ちを代弁されてもいるようで、『ドライブ・マイ・カー』に続き勝手に救われた思い。
「幸せじゃないなんて言ったら怒られる」という生活をしながらも、「心燃え立つものがない」「時間にゆっくり殺される」と感じている人が映画の中に生きている。「幸せじゃないよ〜!」と即答できる人と答えられない人、どっちがしあわせなんだろう?などと考えてしまった。


★★★★