フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊


原題:THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN
監督・脚本・ストーリー・製作:ウェス・アンダーソン
ストーリー:ロマン・コッポラ、ヒューゴ・ギネス、ジェイソン・シュワルツマン
撮影監督:ロバート・イェーマン
編集:アンドリュー・ワイスブラム
美術:アダム・ストックハウゼン
衣裳:ミレーナ・カノネロ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
音楽監修:ランドール・ポスター


映画…なの……?鑑賞後の体感は、映画館というより美術館や資料館の方が近い。とても豊かでぜいたくな展示を観たあとのような。情報が詰まっているからかとても長く感じる108分だった。絵本と親和性が高いウェス・アンダーソンの作品だが、今回は「雑誌」(しかもニューヨーカー)がモチーフということで、ぐっとおとなっぽく、格調高く、対象との距離が遠く温度が低い印象で、消えゆく雑誌文化への郷愁が感じられた。


とくに新鮮に感じたのは、STORY 1「確固たる名作」で、ウェス・アンダーソンにしてはめずらしく「こども」的な要素が排除されていて、一番好きなパートだった。レア・セドゥのポーズを付けるのにフィリップ・ドゥクフレを起用したりと、くらくらするようなぜいたくさ。


逆に一番今までのウェス・アンダーソンの作風に近いと思ったのは、STORY 3「警察署長の食事室」。アニメーションも効果的に使われいて、楽しく奇想天外な冒険活劇になっている。シェフ役のスティーヴン・パークがいい味出しててすき。ここでも、シアーシャ・ローナンの瞳使いのぜいたくさよ。


シャラメは…シャラメだよ。無双…人類の彼氏……。

全編を通して曲者記者たちの取材はギリギリだが、STORY 2「宣言書の改訂」にいたっては、記者が取材対象に完全にコミットしてしまう。ウェス・アンダーソンはこの「記者」という危ういバランスの職業を「映画監督」と重ね合わせて見ているような気がした。

しかし、映画全体として見ると、この形式が成功しているのかはよくわからない。ウェス・アンダーソンとして新境地を見せてくれた気はするし、体験としては楽しかったけれど、この形式が効果的に機能し映画を高めてくれているという気は正直しなかった。
以前は「父性との確執」「ピーターパン・シンドロームからの脱却」「家族の再生」という物語を描きたい監督だと思っていたけれど、ここのところの近作は、自分の好きなカルチャーへのラブレター的な作品が多くて、撮りたい画はあるけれど、撮りたい物語はもうそんなにないのかな?という印象を受けた。


★★★★