NOPE/ノープ


最悪の奇跡が起こる。

監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール
撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
視覚効果スーパーバイザー:ギョーム・ロシェロン
編集:ニコラス・モンスール
プロダクションデザイナー:ルース・デ・ヨンク
衣装デザイン:アレックス・ボーヴェアード
音楽:マイケル・エイブル


『サイン』ガチ勢のわたしとしては、快哉を叫ぶしかない!サイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!前2作で称賛された批評性やアート性を極力抑えて、こんなケレン味たっぷりの超娯楽大作へと飛躍させてくるなんて……!さすがコメディアンだけあって、自らの前作をフリにしている感すらあるし、「スペクタクル依存」を描いたというこの映画にまんまと狂喜乱舞している観客というアイロニーも計算ずくな気がする。


ジョーダン・ピールらしい各地に散りばめられたモチーフはいくらでも読み解き可能だと思うし、画としての強度もすばらしい。(ホイテ・ヴァン・ホイテマーーー!)白馬に乗った黒人→黒馬に乗った黒人→白人が乗ってきたバイクで疾走する黒人、という流れの見事さなど挙げ出したらきりがない。

映画史への視線や、消費される対象(マイノリティ、動物、UAPまで)にまつわる搾取の連鎖、反転あるいは逆襲、という意味合いも強く感じられる。


その中で個人的に一番強く響いたのは「恐怖に立ち向かうにはどうすればいいのか?」というシンプルなテーマだった。そしてそれが「見る/撮る」ことだということ。前2作で被差別の恐怖を描いてきたジョーダン・ピール監督が、3作目にしてそれに「撮る」ことで立ち向かうと決意表明しているようで、胸が熱くなった。

キャラクターの配置も良かった。
冒頭のOJはいわゆる「映画における黒人」像とはかけ離れた寡黙なキャラクターで、他人と目を合わせることがない。その彼が「見る」という行為に一番敏感だし、並はずれた覚悟を持って彼が「見る」時こそがクライマックスになるというのがまた……!
ティーヴン・ユァンの存在感も完璧。克服できそうだった恐怖をずっと引きずっているジュープは、ショーに貶めることで恐怖を飼い馴らそうとしているように見える。ジュープ(イエロー)とゴーディ(モンキー)は見世物としての侮蔑やフラストレーションを心の奥底では共有していたようにも見えるし、「ある時を境に空っぽになってしまった」感が『バーニング』を踏まえているようで最高。


少し薄味だけど、父親やカウボーイ的な価値観から疎外されてきた娘が偉業をカマす(そしてまたその偉業が盗まれそうになるかもしれないが、彼女ならそれに立ち向かうであろう)ラストで〆ているところもぬかりない。

あと、地球を救うような大きな話がとても個人的な選択の話に集束する物語が大好きなので、兄ちゃんが妹の目を見ながら"JEAN JACKET"*1命名する瞬間、ブチ上がった!!!そうこなくっちゃな!

★★★★

*1:またヤツの造形が使徒だしアート性ここに振ったのかよ!と思ったしやたらもったいぶって開口していくので、めちゃくちゃ笑ってしまった