エンパイア・オブ・ライト


人生を照らす光は、きっとある。

原題:EMPIRE OF LIGHT
監督・脚本・製作:サム・メンデス
撮影監督:ロジャー・ディーキンス
編集:リー・スミス
美術:マーク・ティルデスリー
衣装デザイン:アレクサンドラ・バーン
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス


信頼の友の感想が良すぎたので、優先順位を上げて鑑賞。友だちは「これは自分の映画…」と感じて薦めてくれたのだけれど、これを「自分の映画」だと感じた友だちがとてもすてきだと思った。

さて、コロナ禍におけるロックダウンを経て、名監督たちによる自身の集大成的な作品や映画/映画館へのラブレター的な作品が続々と封切られているなか、この作品も!サム・メンデスの自伝的な作品で、ヒラリーのモデルは母親とのこと。
サム・メンデスは好きな監督で、知的で端正な映画を撮る印象なのだが、自伝的な作品を撮るとしたらもっと隙の無いものものしい映画になると思っていた。この映画を観ながら、サム・メンデスはこんなに優しいひとだったのかと正直びっくりした。傷があるからこそひとに優しくできるということ。

さりげないショットの一つ一つがその人物のひととなりや感情をていねいに示していく。冒頭のモーニング・ルーティンからもうぐっときてしまった。マイケル・ウォードがインタビューで「サム・メンデスオリヴィア・コールマンロジャー・ディーキンス、その中の一人と仕事できるだけでもとんでもないことなのに、3人同時だなんて…」と話していたが、そこにトレント・レズナーアッティカス・ロスの音楽が乗ってくるのだから、もううつくしすぎてぜいたくすぎてぼうっとなってしまった。

ヒラリーには途中までどう寄り添えるか迷った部分もあったが、そこは名優オリヴィア・コールマン!気持ちをきっちり持っていってくれた。観客の中の偏見をあぶり出すような役でもあると思うので、「なぜこんないかれた中年女が?」「若くて美しい青年と不釣り合いだ」という差別意識が頭をもたげそうになるが、スティーヴンのみずみずしいまっすぐな善性と、ヒラリーの繊細なシャイネスと子どものような直情が同居するふしぎな魅力が、それを許さない。映画全体も心を制御できなくなったひとのこわさを描きつつも、ヒラリーに対する心ない声があるとしたら、それを断固阻むつくりになっていると思う。

まったくちがう属性のふたりが愛し合うことは意外と簡単で、しかしきちんと向き合うことはとてもむずかしい。その痛みを経て成長したふたりの別れが胸にしみた。


「人生とは心のあり方」ー決して善い人間ではなくメンタルも弱い自分は、まさに映画に支えられて都度心を立て直してきたので、終盤は涙なしには観られなかった。大学生時代は映画館でバイトをしていたこともあり、映画館という空間自体の尊さやスタッフたちの慎み深いやさしさも、胸に迫るものがあった。「映画を好きでいて良かった」と思える、ごほうびみたいな映画。




★★★★★