その時代、暴力で世界は変えられると信じていた―
1960年代後半の学生運動のさなか、理想に燃える若手ジャーナリスト・沢田は、革命を目指す学生活動家・梅山に接近し、のめりこんでいく。
監督:山下敦弘
脚本:向井康介(『リンダリンダリンダ』)
撮影:近藤龍人
編集:佐藤崇
スタイリスト:伊賀大介
音楽:ミト(fromクラムボン) / きだしゅんすけ
主題歌:真心ブラザーズ + 奥田民生『My Back Pages』
原作:川本三郎『マイ・バック・ページ ある60年代の物語』
青春映画として、とてもおもしろく観ました。自分のなかにもこの2人と同じようなこじらせがたぶんあるから。ランニングタイムを確認していなかったので、終わってみて驚き。141分。全く長さを感じなかった。
まず『リンダ リンダ リンダ』といい、山下監督の松ケンづかいはばつぐんだなあ、と。わたしは松ケンがかっこいい役をやっているといつも首をひねってしまうたちなので、あのTHE・俗物感、チャラペラ感はすばらしかったです。革命に燃える野心家と言ってしまえば聞こえはいいけど、梅山にあるのは思想というより名誉欲。自分は「オンリーワンのなにものかである」という青春のこじらせ。たいして弁がたつわけでもなく、論破されて逆ギレ、それでもこりずにドヤ顔と雰囲気ひとつで詭弁をくりかえすようなやつなのに、オーラも魅力もカリスマ性もないわけじゃない。彼女を言いくるめる欺瞞セックスとか最高でしたね。松ケンが出てくるシーンは基本笑ってしまいました。
対する妻夫木くんは甘ちゃんで、青くさい理想を追い求めるジャーナリスト。東大卒の彼が冷静に考えれば、松ケンの詭弁にのめりこむはずもないのにひとはコンプレックスとシンパシーによってこんなにも相手に対して盲目になってしまう。彼にとっての梅山は自分の合わせ鏡で、梅山の革命によって自己実現がなされるかのような希望を見てしまう。そのこじらせ感も見事でした。高校生モデルの彼女が妙に神格化されていて、言うことがいちいち真理っぽかったりするのも、やっぱりそれは彼女が沢田の思い出の中に生きているから。多くを失いながら、その青春こじらせトンネルを抜ける、もしくは青春の洗脳が解けるかのようなラストのあの表情はちょっとびっくりするくらい良くて、わたしはようやく『悪人』を観てみる気になりました。
役者はみんなすごく良くて、山下監督は役者の使い方が上手いと改めて思いました。
あと音楽が出すぎていないけどすごく良いなーと思って観ていたら、クラムボンのミトさんときだしゅんすけさんという方でした。エンドロールの奥田民生×真心ブラザーズの主題歌がまさにこの映画を象徴していて、最後までぬかりないなーと感じ入ったりも。
★★★