ナギダイアリー


この場所で、私は「わたし」に出会う。
彫刻家の寄子と建築家の友梨。人生に刻まれる、9日間のスケッチ。

監督・脚本:深田晃司
撮影:四宮秀俊
編集:シルビー・ラジェ
助監督:鹿川裕史
彫刻:吉田愛美
美術:大月由香里
衣装:渡部祥子
ヘアメイク:菅原美和子
スタイリスト:荒木里江
音楽:李沛芩
エンディングテーマ:イーノ・チェン


すごく良かったんだけど、期待しすぎてしまった気もする。『LOVE LIFE』、『恋愛裁判』に続いて深田監督が何を見せてくれるのかー、『燃ゆる女の肖像』的なシチュエーションに、松たか子×石橋静河というケミストリー。


今作で深田監督は濱口竜介監督(『急に具合が悪くなる』)と同じ話をしていると思った。中央(=東京)と周縁(=奈義)の話。それを象徴する二人の女性。建築と彫刻の違いから建築物における排除の仕組みについてかなり直接的に説明しているあたりも、濱口みを感じた。


そこに絡んでくるLGBTQ+ひいては「生き方」にまつわる意識や切実さのギャップ。場所や時代によってゆるやかに進化している構図に、希望が感じられるラスト。


深田監督印の「境界」描写は今作でも光っていたけれど、わたしは深田作品にいつも「生理的な衝動」や「映画的な飛躍」を期待してしまうので……。あと、松ケンの役のパーソナリティがよくわからなかった(結論、キモいでいいのかな…?)。


★★★★

Unique Motion Japan @ 新国立劇場 小劇場


世界各国で活躍する若きバレエダンサーたちを招聘するガラ公演「Bright Step」のコンテ版を、という試みのようです。ありがたい。とにかく宝満直也さんがマルコ・ゲッケ作品を踊るのが観たくて行ってきました。鬼才×鬼才~!


主催の西島勇人さんの企画説明のあと、本公演スタート。小劇場ということで、ダンサーとの距離がとても近く、細かい表現や呼吸までしっかり感じられる。チューリッヒ・ダンス・アカデミーの生徒二人によるイーサン・ルステム作品『After Glass』を幕開けに、さわやかなジュニアの小品が続く。第一部を〆るのは福田圭吾さんの振付作品『After the Show』。SFノワールといった感じの世界観でスリリングだった。


第二部も福田圭吾さん振付の『SHIKI』でスタート。当初キャスティングされていた飯島望未さんが直前に怪我で降板。吉田早織さんに変更になったのですが、これがとても良かったです。コンテはあまり踊られたことがないそうなのですが、演技や存在感が立っていて。SHIKIは「四季」と「死期」にかかっているのだろうか?季節の移ろいと共に男女の愛のかたちが変化していくのがうつくしかったです。


目に新しいrikubouzの『Martial “ARTS” Tricking』をはさんで、いよいよゲッケ振付の『Äffi』。

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ウワァァァ!すごかった!ゲッケ印の「Fluttering」が丁寧かつ高速すぎて、虫の羽のように見えた。こんなに高速でシェイクしているのに、手首から先しか動かないのどうして……。

肉体の説得力もすさまじく、一人の男のもがきや哀愁や決意が伝わってきて、映画を観ているようだった。ジョーカーみたいな存在感。

宝満さんのダンサーとしての気迫や覚悟が作品によく乗っていたと思う。すばらしかったです!


ラストを飾るのは同じくゲッケ作品『Le Spectre de la Rose(薔薇の精)』。とてもチャーミングな作品で見応えがあったのだけれど、直前の宝満さんの動きが繊細かつ緻密すぎて、ちょっと粗さを感じる部分もあった。

これからもっと発展していってほしいプロジェクトです。

オデュッセイア


監督・脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・バン・ホイテマ
編集:ジェニファー・レイム
美術:ルース・デ・ヨンク
衣装:エレン・マイロニック
音楽:ルドウィグ・ゴランソン
視覚効果監修:アンドリュー・ジャクソン
特殊効果監修:スコット・R・フィッシャー
原作:ホメロス


ビーーーン!3時間を感じさせない 問答無用のおもしろさ!好きなシーンの話で 友だちとえんえん呑みたい。『指輪物語』や『300』、『怒りのデス・ロード』的なスペクタクル感を保ちながら、オデュッセウスはなぜ帰還できないのか、というテーマが徐々に明かされていくのが良かった。

凱旋できず、ずっと浮かない顔で悔恨と贖罪の気持ちを胸に秘めている英雄、マット・デイモンしか思いつかない。キャスティング、みんな最高だった。とくにシノン役をエリオット・ペイジが演じているのがとても良かった。

要所要所で詰めてくるゼンデイヤよ。スパイダーマンカップルは本当に八面六臂の活躍だなぁ。


そもそも、原作ホメロスつよい。あまりの地獄めぐりぶりに「こんな隊はいやだ」的な大喜利を感じずにはいられないのだけれど、「まぁ叙事詩だしな……」と正気を保って観られる。兵は全然言うこと聞かないし、オデュッセウスは「神の言葉は難しい」とか言って半分あきらめてるし。わたしは兵たちが穴掘ってナイショで牛パーティーしてるシーンが好きすぎました。わかるよ…ッ!一番共感したし、飢死より海で死ぬ方がまし、という気もする。

なんでそんなことするの……?


ラスト、尺を取ってじっくり盛り上げてくれるのも良かったです。トムホ役に立ってるのかよくわからなかったけど。弓のくだり、翌日学校でマネしたくなるやつだよね~。


あとは、ルドウィグ・ゴランソンの劇伴めちゃくちゃかっこよかった。コンテンポラリー・ダンス映えしそう。楽人役にトラヴィス・スコットは反則。


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★★★★

ピンポンダッシュってなにがおもしろいの?

「あぁ…やりそうですね……」
息子が通う保育園の担任T先生から、息子がクラスメイトの子の家にピンポンダッシュをしているかもしれない、と聞かされたときのわたしの反応だ。その日わたしはめずらしくママ友たちとの飲み会の約束があったのだが、どうやら遅れそうだ。あやまってあやまってあやまりたおさなければ。ちょうど家においしい梨があるからおわびに持っていこう。
犯行は複数回にわたり、走り去る姿はインターホンのカメラでばっちり確認されていたようだ。

息子が生まれて以来、「なんでそんなことするの?」と一万回くらい言ってきた。最初に最も脱力したのは、浴槽に米をまかれたときだ。お風呂をためようとしたときに気づいた、本来ここにあるはずのないものー。もはや怒りはなく、純然たる疑問だけがある。「なぜ?」(そして、これは「掃除機で吸う」でOK?)
友だちにこの話をしたら「ごはんが炊けると思ったんじゃない?」と言われた。たしかに。今はそれで納得している。

2才になる前。突然目の前で床に向かってダイブされた。息子の頭はパックリと割れ、血が止まらなくなった。さいわいかかりつけの病院にその日たまたま小児外科の先生が来ていて、すぐに処置をしてもらえた。本当はホチキスで縫合するんですが、針の在庫がないので糸で縫っちゃいますね。自身が大きな怪我をしたことのないわたしはうろたえを通り越してボンヤリとしていた。へえ、ひとの頭ってホチキスで留められるんだ。縫うって今ここで?呆然とするわたしを尻目に息子の頭はさくさくと縫われ、まっしろなネットをかけられた。はい、これで大丈夫。今から保育園にも登園できますよ。息子はアンパンマンのジュースをもらってうれしそうにしていた。

脱走と徘徊もすさまじかった。二重鍵もチャイルドロックもすぐに攻略されてしまった。下町住まいなので、何度も近所のお年寄りに確保してもらった。娘の小学校の面談のため、小一時間ほど子ども2人で留守番をしてもらっていた際には、帰ってくると家の前にパトカーが停まっていた。親でも気づけない彼の脱出を娘が阻止できるわけなかったのだ。息子は間近で見るあこがれのパトカーに目をきらきらさせながらも、「けいさつにたいほされる?」とびくびくしていた。

去年の大みそか。旅先の宿で息子は消火器を噴射した。消火器の粉が目の覚めるようなピンク色であることをわたしははじめて知った。息子は宿のスタッフに「しょうかしてごめんなさい」とあやまっていた。かわいいけどぜんぜん正しくない。そして「どうしてこんなことに…」というわたしのつぶやきに対し、「きいろいせんをぬいた…」と返していた。それを問うてるわけじゃない。

こんな息子だが、保育園では「ハカセ」と呼ばれている。永遠に虫や深海生物やキノコの話をするから。わたしが思い描いていた「ハカセ」呼びされるキャラクターは、やせぎすで眼鏡。ものしずかで思慮深くかしこい。息子は世界一おにぎりが似合う男。まちがって里に下りてきてしまった子熊のよう。どうしても息子と「ハカセ」はむすびつかない。

たぶんわたしが息子に対して思う「なぜ?」以上に、息子が世界に対して思う「なぜ?」はつよいのだろう。最近の彼は質問魔だ。ハッピーアワーって?ハイドロポンプってなに?ひかりのかべってどういうもの?せんきょってどうやるの?にくいってどういういみ*1?
わけても「ふつうってなに?」はよく聞かれる質問なのだが、いまだにうまく答えられたためしがない。うーん、へんじゃないこと、とくべつじゃないこと、と答えながら、「ふつう」なのに否定で説明するってへんだなぁと思う。そしてついついあの歌を口ずさんでしまう。ふつうってなに じょうしきってなに んなもんガソリンぶっかけ火つけちまえ


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*1:ちなみに一生懸命「憎い」の説明をしたが、息子が聞きたいのは「食べにくい」とか「すべりにくい」の「にくい」だった

東京バレエ団『海賊』@ 新国立劇場

今回もどの回のチケットを取るか本当に悩みました…。ファースト・キャストである伝田陽美さんと柄本弾さんの同期ペア+池本祥真さんアリは絶対に熱くてすばらしいだろう……。


ただ、本公演は宮川新大さんの芸術選奨舞踊部門文部科学大臣賞 受賞記念公演ということもあり、さらにわたしは秋山瑛さんの主演舞台を観たことがないので、今回は秋山・宮川ペアに決めました。なにより二山治雄アリが観たいんじゃーーー!


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結果、久しぶりに脳汁ブッシャァァァとなりました。というか、わたしだけでなく観客みんなが二山治雄アリで脳汁出しに来てた。登場時から客席がワッと沸き、ボルテージがガッと上がったのが肌で感じられました。

まずバレエの基本のキであるプリエがうつくしすぎる。そしてどんな時もくずれないターンアウト。決して恵まれてはいない体型でオペラ座までのぼりつめた所以を目の当たりにした思いでした。バレエを観たことがないひとにでも一発ですごさが伝わる特別なダンサーだと思う。明らかに着地している時間が短く、重力を感じさせないしなやかな伸び。ずっと観ていたくなり、出番を待ちわびてしまう中毒性。日本の団に所属してくれて 舞台を見る機会を与えてくれて 本当にありがとうございます。

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主演ペアもとても良かったです。まず、秋山瑛さん。今のバレエ界にこれほど「姫」が似合うプリンシパルっているだろうか?とにかく華奢でキラッキラで、少女漫画のような星や花が飛んでくる。洗練されたお顔立ちなんかも含め飯島望未さんのようなポジションにもいけると思うのですが、ご本人はインスタもやっていないというところが良いんですよね……。

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パートナーを務める宮川新大さんは、確かな技術の清々しい踊り。パ・ド・ドゥも安定感があって、頼もしいお頭感が伝わってきました。


あとは、いつ観てもお芝居の上手さに感じ入ってしまう池本祥真さん。池本さんがノリノリで奴隷商人ランケデムを演じてくれたおかげで、序盤から舞台が温まり、観客を『海賊』の世界に惹き込んでくれたなぁと感じました*1。役によってちがった魅力と別人のような踊りを見せてくださるので、アリも観たかったなぁ……。


他に好きだったのは、アメイを演じた加藤くるみさん。ひとりだけキレが別次元の粋な踊り。かっこよかった!


*1:正直『海賊』の物語は「なんこれ……」と思わなくもないので余計に

スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ


世界が僕を忘れても。
いま、大いなる力が、目覚める。

原題:SPIDER-MAN: BRAND NEW DAY
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
脚本:クリス・マッケンナ、エリック・ソマーズ、ジャスティン・クリツケス
撮影:ブレット・ポウラク
編集:ナット・サンダーズ ジーナ・サンソム ハリー・ユーン
美術:チャールズ・ウッド
衣装:サーニャ・ミルコビック・ヘイズ
音楽:マイケル・ジアッキノ
原作:スタン・リー、スティーブ・ディッコ


よかった……!『エンドゲーム』や『ノー・ウェイ・ホーム』でモヤり続けていた、ヒーロー個人の幸福という問題が大幅にアップデートされていた!みんなの心にメイおばさんの部屋を!そして敵対している相手であってもその部屋に迎え入れてあげられるやさしさを!


序盤、青春を捨てて利他に生きるスパイディを見て、心底アイドルだなぁと思った。プライベートを消し、強大すぎる特性を抑制し、みんなを幸せにする。そんな姿を見ているのが身を切られるようにつらい…。トムホは人類の孫……。


そんなスパイディがいい意味であきらめを知り、自己受容する。MJとのキスは失敗だったけれど、ネッドとのハンドシェイクは成功する。パニッシャーおじさんやヴィランとの友情。新しい関係性のはじまり。ラスト、スパイディが守るNYの日常が残す余韻よ……!


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★★★★

映画ちいかわ 人魚の島のひみつ


監督:及川啓
脚本・原作:ナガノ
キャラクターデザイン:辻智子
美術監督:眞﨑萌
CG監督:中野祥典
撮影監督:岡﨑正春
編集:髙橋歩
音響監督:土屋雅紀
音響効果:倉橋裕宗
音楽:トクマルシューゴ、上水樽力


夫と娘(小4)がちいかわ好きなので、いっしょに観てきました。うっうっ…こわかったよ……。

なんか定期的にぞっとするシーンが来るんだよね…。

  • オリに入れて~ なんかずっとくらいとこ~
  • 「討伐……でいいんだよね?」
  • 大きなものが無自覚にふるった力によって命を落とす小さきもの
  • 煮つけ(!)相方にも食べさせるとか(!!)
  • 「わかった!!わかった!!」
  • ヒトハとフタバはあのまま島に住み続けていたら島民にもバレてしまうんや


いろんな見方ができる作品だと思うのですが、わたしには戦争や侵略の根源、みたいな話だなと思いました。どちら側にも言い分があるし、恩恵も被害も被っている。真相にたどりついたちいかわですら、すべての事情を把握しているわけではない。犯人を裁くことをしない、という決断が好きでした。

娘の感想は、「本がなければよかったと思う」。「人魚の肉を食べれば永遠のいのちが手に入るって知らなければ、死を受け容れられたから」とのこと。たしかにちいかわの世界観って「知らない方がいいのかもね…」的なところがあるかも……。ふだんは目を背けてやり過ごしている世界の闇を感じさせられる。夫はもともとセイレーン編が好きなので、忠実な映画化に満足したもよう。ちなみに好きなキャラは、娘がうさぎ、夫がくりまんじゅう先輩、わたしはハチワレです。娘は完全にうさぎキャラなので深く納得しました。


★★★