さかなのこ


ずっと大好き。それだけで人生はミラクル。

監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎
撮影:佐々木靖
編集:山崎梓
美術:安宅紀史
装飾:三ツ松けいこ
衣装:纐纈春樹
ヘアメイク:宮内三千代
助監督:玉澤恭平
音楽:パスカルズ
主題歌:CHAI
原作・魚類監修:さかなクン


沖田修一監督らしい、優しくファンタジックな人生讃歌でありながら、全編を通して孤独と狂気が通底する映画でもあった。周りの人間がみな優しく、ミー坊もまたポジティブを波及させていく物語なので、基本はほっこりあたたかい気持ちになるんだけど、『こちらあみ子』に通じるようなこわさもずっとあった。

「変わらないこと」「好きなことを貫くこと」はどうしてこんなに孤独でハードコアな作業になってしまうのか。映画で観るミー坊はキラキラと輝いて愛おしくて応援したい存在なのだが、自分が母親だったらやっぱり信じ切れないだろうなと思う。水族館の先輩のように困惑し、モモコのように自分たちを邪魔者のように感じてしまうような気がする。ギョギョおじさんのことだって通報してしまうだろう。

しかし、のんさんって本当に唯一無二の女優さんだなぁと思う。この人にしかできない!と毎度思わされるし、目の輝きを自在に操れるのすごい!そしていつも鑑賞後「能年玲奈 スキンケア」で検索してしまう…。(暴飲暴食や間食はしないんだってさ……。)


★★★★

LOVE LIFE


孤独を抱いて、自由になる。

監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:山本英夫
編集:シルビー・ラジェ
美術:渡辺大
音楽:オリビエ・ゴワナール
主題歌:矢野顕子


人生絶望予行演習映画を撮る深田晃司監督。今回も冒頭から異様な手際の良さで日常に潜む不穏や地獄を描いていく。不意に訪れる思わず悲鳴がもれてしまうような悲劇。そこから、理屈や正しさやモラルでははかれない、人間の生理的な感情や衝動が噴出していく。韓国が出てくるのを抜きにしても、イ・チャンドン的な韓国映画のバランスや味わいを感じた。

「ないわー」と思ったキャラが「意外とこういうところは好きかも」に転じたり、観客も主観を開放される気がする。人によって好き/嫌い、理解できる/できないキャラは全然ちがうと思う。例えば、わたしは義母がベランダで煙草をふかしながら語った話が好き。妙子やシンジは自分にあまり似たところはないのだけれど、なんとなく行動原理はわかるし、ある死に対して近いテンションでいてくれる存在を求めてしまう気持ちもわかる。夫の二郎が一番嫌いなのだけれど、それはどうしてか…と突き詰めていくと、おそらく自分に二郎的なところがあるからだと思う。それを突きつけられるのはけっこう気まずい。ただ、わりとどの登場人物にも寄り添える余地があり、どの登場人物もすぐに非を認めて謝れるところが良かった。

中でもやはり主人公を演じた木村文乃さんの実在感はすばらしかった。なぜか雨のなか韓国歌謡で踊るに至ってしまった彼女の後ろ姿にどうしても好感を持ってしまう。飛び方や着地も含めて『寝ても覚めても』にとても近いと感じた。行くところまで行き着いてしまった男女二人を見守る目線の優しさが、余韻として深く残る映画だった。


★★★★

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン


赤い月の夜、カノジョは突然覚醒した。

原題:MONA LISA AND THE BLOOD MOON
監督・脚本:アナ・リリー・アミールポアー
撮影:パベウ・ポゴジェルスキ
編集:テイラー・レビ
美術:ブランドン・トナー=コノリー
衣装:ナタリー・オブライエン
音楽:ダニエル・ルピ


うわー!この監督のセンスすごくすごく好き!!!メインビジュアルや「次世代のタランティーノ」という煽りから想像されるよりはるかに地味で小ぢんまりとした作品なのだけれど。

まず、「おれが考えた最強の女の子!」をチョン・ジョンソに演じさせてるの最高最高最高!『バーニング』でも圧倒的だった存在感と佇まいを堪能できる。

チョン・ジョンソはオファーを受けた後、自費で監督に会いに行きそのまま一週間合宿したそうで、二人ともダンス・ミュージックが好きで意気投合したとのこと。その様子遠くから見守らせてほしい…。そんなエピソードが本当にしっくりくる、音楽が最高な映画でもあった。めちゃくちゃ踊りたくなった映画、久しぶりに観たなー。

監督イケてる!

そして、厨二設定ぶちかましておきながら、起こるできごとは妙にほっこり。不穏な雰囲気を漂わせてたむろするパンクスやDJはみな面倒見が良くて親切。最強能力を使っておこなう犯罪やいじめっ子への制裁のしょぼさ。捜査はなぜかずっと怪我人が担当している。スーパーハイヒールを履いたストリッパーと杖をついた警察のスローすぎるチェイスシーンの腰砕け感。無色透明なモナ・リザが相対する人間の映し鏡のように変わるのがおもしろかった。

ケイト・ハドソンが演じたボニー・ベルのキャラクターもとても良かった。筋が通ってるところと小ずるいところが並存していて、血が通っている。この手のキャラクターは過度に神聖視されたりしがちだけど、息子にひどいこと言われたり、モナに一旦嫌われたり、手痛すぎるしっぺ返しを食らったりするのもリアルだった。*1

ぐっとくるシーンも光っていた。モナとチャーリーのハッシングのシーンは忘れられない。子どもながらに音楽で感情を解放することを知っていて、その術をアウトサイダーに授けることの尊さよ。ファズがくれたTシャツ、目玉焼き、餞別も。監督は「うっかりわたしの理想の男性を作ってしまったのかもしれない(笑)」と語っているけれど、そんな監督が好きだよ!

niewmedia.com

またひとり、次回作がとても楽しみな監督と出会ってしまった!


★★★★

*1:キャットファイトで相手がピアスはずすシーンも良かったな~

ジュリア(s)


あの時あの場所で違う選択をしていたらー?
パリ・アムステルダム・ベルリン・NY
名曲の数々で彩られる並行世界の4つの人生


原題:LE TOURBILLON DE LA VIE
監督:オリビエ・トレイナー
脚本:カミーユ・トレイナー、オリビエ・トレイナー
撮影:ロラン・タニー
編集:バレリー・ドゥセーヌ
美術:フィリップ・シフル
衣装:マリ=ロール・ラッソン
音楽:ラファエル・トレイナー


公開当時、「アナザー『エブエブ』」的な評をちらほら見かけて、ずっと気になっていた作品。タイムリープパラレルワールドものはどうしても見逃せない!

とても丁寧で、よく練られた佳作だった。異なる可能性を同時並行で描いていくのだけれど、ジュリアの衣装やヘアメイク、表情などで、置かれている状況がスッと入ってくるよう巧みに演出されている。分岐の見せ方やキーアイテムを駆使した構成など、観客の興味を引っぱりながら混乱は避けるような工夫も上手い。

新しいなと思ったのは、『エブエブ』『アバウト・タイム』きみがぼくを見つけた日』など、タイムリープパラレルワールドものはだいたい主要人物を固定してドラマを描くと思うのだが、この作品は容赦なくパートナーが(子どもも!)変わるところ。「人生は偶然と選択の積み重ね」ということの基本は「個人」であり、ジュリアの根本に変わらずにあるのは「音楽への情熱」だと示されるのは、いかにもフランスっぽい!!!と思いました。

そして、分岐点で「うまくいかなかった」ことが長い目で見ると良い結果に転じているのもおもしろかった。『アバウト・タイム』であれば修正されてしまうであろう「ベルリン行き」や「コンクール」といったイベントが、後々のジュリアに及ぼす影響が味わい深い。ジェーン・スーさんが言う「自分が選んだ道を正解にしていくしかない」を、ジュリアたちの姿から感じる。

ものすごく平たく言ってしまうと、人生なにかを得たり失ったり!良いことも悪いことも起こる!けど、人間の根本が変わらない限り結果はトントン!至極真っ当な「人生」についての映画だったと思う。ただ、やはりエモーショナルというよりテクニカルな印象が残った。タイムリープパラレルワールドものでは、正論を飛び越えるなにかを観たいと思っているのかも…という気は少ししました。
あと、個人的には親権取られた世界線のジュリアが気の毒すぎて…。ジュリアならもうちょいやれるだろ!がんばれ!あとジュリアの友人の育児愚痴が解像度高すぎて……www


★★★★

ゴジラ−1.0


戦後、日本。
無から負へ。

監督・脚本・VFX山崎貴
製作:市川南
撮影:柴崎幸三
編集:宮島竜治
美術:上條安里
衣装:水島愛
音楽:佐藤直紀


すでに観た友だちから「『やったか……!?』の天丼」「明るくないバトルシップ」というキラーフレーズをもらっていたので、それも含めて楽しく観ることができました。

まず、ゴジラパートが総じてとても良かった。登場する度きっちり味わわせてくれる絶望感は、歴代ゴジラの中でもトップクラスだと思う。みんなの「ゴジラに絶望させられたい」を満たしてくれる、最高なゴジラ。あー……高雄がー……日劇がー……!!!熱線放射のワクワク感ハンパないし、震電につられて湾に出ちゃうゴジラ先輩かわいい。

対するドラマパートは、好きじゃなかった。名優たちがへたくそに見える説明せりふの数々。統一感のない言葉遣い。湿っぽいけど強運すぎる神木くん。人形かよ?っていうアキコの扱い。ただ、新生丸チームはキャラでせりふを制圧してたし(マッド・サイエンティスト吉岡の怪演!ハイロー村山!)、橘役の青木崇高さん良かったなーと思いました。

でも、艇長の「誰かが貧乏くじを引かなくちゃなんねえんだよ」とか「戦争を生き残ってしまった者の責任」という思考回路やそこに漂うヒロイズムは、やはり危険だと感じたし、自分は絶対に賛同できない。(「こりゃだめだ」ってなるシーンがあって良かったけど。)最近、シャマランの『KNOCK 終末の訪問者』を観たときも思ったのですが、誰も親しい人に「命を犠牲にして世界を救ってほしい」なんて思わないのではないだろうか?その死を感謝すべき尊いものとして受け容れるだろうか?少なくともわたしは「何もしなくて良いから生きていてほしい」と思うし、ひと一人の死が与える影響、残された者にかかる負荷なめないでほしい、と思う。(もちろんその一人一人が集まって世界ができているわけだけれど。)
今年、一番仲が良かったパパ友が亡くなってしまったのですが、以降、創作物における死の描き方にはだいぶ過敏になってしまっている気がする。まだ、わたしはめちゃくちゃ悲しんでるし、めちゃくちゃ傷ついているんだと思う。

そもそも、この映画に限ったことではないけれど、日本製作の映画における戦争の被害者意識の強さには、鼻白んでしまうところがある。自国がおこなった加害を透明にして反戦を叫んでも、説得力がないし、空々しさを感じてしまう。唯一の戦争被爆国である日本が原爆のおそろしさを語り継いでいくことはもちろん大切なことだけれど、そもそもなぜそうなるに至ったかー、その点を省みることこそが「戦争をした国に生まれてしまった者の責任」であるような気がします。


★★★

K-BALLET TOKYO『熊川版 新制作 眠れる森の美女』


結婚してから移り住んだ町には、なぜかバレエ教室が多いのです。度々看板を目にしていると、『羊たちの沈黙』ばりにむくむくと欲望が発動し、思い切って近所の教室でバレエを習いはじめました。2度の妊娠/出産でちょいちょいブランクをつくりながらも、下手の横好きで細く続けています。

そんなわたしですが、今まで全然バレエを観に行っていなかったんですよねー。ダンスを観るのは大好きだけれど、バレエを観に行くのって色々と敷居が高い。チケットも高いし、みんなどうやって情報収集しているんだろう?バレエ仲間はそもそも鑑賞するのが好きで習いはじめた方も多く、感想を教えてくれたりするのだけれど、わたしはダンサーやバレエ団の知識が全くなく、とっかかりがありませんでした。

そんな中、プロモーションが上手いKバレエは、こんなわたしにも情報が入ってきた…!プリンシパルの面々も、正統派!というよりちょい癖強かつスタイリッシュな顔ぶれのように感じて、「わぁ~!生で観てみたい~!」とミーハー心が爆発!
上背のある日髙世菜さんのカラボスが絶対に観たくて、あとはおしゃれ番長・飯島望未さんのオーロラ!この組み合わせが観たいよ絶対絶対!で、即チケットを取りました。(その後、さらなるプロモーションがかかり、チケットが全公演完売・天皇皇后両陛下鑑賞となったので、早めに取っておいて本当によかった。)

TPOとかよくわからないけど、なぜかイキったおしゃれをしたくなるのがバレエ鑑賞。自分が持っている中で一番じゃらじゃらしたピアスとマルジェラのブーツで出かけます。会場に到着すると、やはりイキったおしゃれをしている人が多く、和装の方もちらほら。わたしの隣の席の女性は、蒼井優のような雰囲気で、黒のマキシワンピ(イメージ、ヨウジヤマモトとかイッセイミヤケ)。これこれこれ~~~!

開演。まずは美術がすごい~~~!ヒグチユウコさん的な世界観を思わせるような美術で舞台が縁取られている。奥行きと立体感があるセット。さっそく双眼鏡を取り出し、月や太陽、カエルや赤ずきんなどをじっくり鑑賞。
衣装も美しい!今の日本のバレエが全体的にそうなのかもしれませんが、日本人に合った色味~~~!わたし自身、欧州の肌色基準の明るい色が全く似合わないので、レオタードやタイツですら「こんな色着れないよ…」と思うことが多々あるのですが、シックで美しい色が舞うのを観ているだけで楽しかったです。デザインも本当にすてき。


そして熊川哲也による大胆改変。熊哲が『眠り』のどこを嫌いなのかがわかりやすすぎる改変で、ちょっと笑ってしまいました。長いの儀礼的なの退屈、王子と姫にも人格を、戦いは思い切り盛り上げてー。運命、古典、豪華絢爛、といった要素は薄くなり、元々『眠り』が好きな人からは不満が出そうだな…とも思いつつも、王子と姫の恋がフレッシュに描かれていて良かったです。黒ずきんの役回りなども、あまりバレエに親しみがない人も楽しめるサービス精神満点の演出をしていたと思います。

ダンサーは比較対象のストックがないので何とも言えないのですが、やはりプリンシパルの方はオーラや輝きが違うな!とびっくりしました。発光して見える…というのは大げさではなく、おそらく顔や上半身へのライトの当て方も神業なんだろうな、と。飯島望未さんは一際華奢で「顔ちっっっちゃ!体うっっっす!」となったのですが、ハードワークなオーロラを可憐に演じていました。花束が似合う!日髙世菜さんは悪の魅力満載。カラボスの衣装が一番好きだったけど、まぁ似合うこと似合うこと。とにかく手足が長くて映える!かっこよ!カラボスが登場する度にワクワクしました。石橋奨也さんのデジレは上品かつ感情表現が豊かで、リフトなど安定感がすばらしかった。堀内將平さんの宝石は華があって目を奪われました。

これはいろんな組み合わせを観てみたいし、当たり役とか発見したいなー!となってしまい、やはり歴史の長い沼はこわいな…と思いました。あとは、あまりにもふつうの感想になってしまうけれど、才能と努力の結晶を観るのはすごくうれしいし楽しいし元気がもらえるな、と思いました。



キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン


原題:KILLERS OF THE FLOWER MOON
監督・脚本:マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス
撮影:ロドリゴ・プリエト
編集:セルマ・スクーンメイカー
美術:ジャック・フィスク
衣装:ジャクリーン・ウェスト
音楽:ロビー・ロバートソン
原作:デビッド・グラン


もう予告観た時点で、「どうせ長くてこってりしててめちゃくちゃおもしろいんでしょうよ!」と思っていましたが、その通りでした。冒頭からもう強固な「映画力」でがっちり観客をつかんで離さない巨匠の手腕!きもちよ~~~!スピルバーグ『フェイブルマンズ』と同年公開だなんてなんというぜいたく!

まず、最初からおもしろかったのが「金」の描写。国籍・人種問わず、金を持った人間がやることはなぜか定型になってしまう。車、宝石、豪邸、家事の外注、政治。そしてそこにまつわる利権にはたくさんの人間が「組織/家族」となって群がってくる。
しかし、登場人物は誰も「幸せ」には見えない。「金」を手に入れたはずのオセージは、自由に金を使うことができず、洋式の食生活による健康被害に苦しみ、命の危険に怯えている。オセージから奪おうとする白人側もキングに支配され、またそのキング自体も「支配」や「権謀」自体が目的になってしまっているように見え(演じたデニーロもキングの行動原理がわからず、トランプをイメージして演じたそう)、ずっと不穏で緊張を強いられる場面が続く。

事件自体がショッキングなので、当初の予定通りFBI捜査官トム・ホワイトを主役に据えてもおもしろくできたとは思うのですが、しょうもない甥アーネストを演じたいと言ったディカプリオ。好き。十八番である俗物芸。リアルな人間がこんな絵に描いたようなへの字口できるんだ!?という感動。アルピー平子りすら感じさせる演技、笑っちゃったよ……。
やはりアーネストを中心に持ってきたことで、より「幸せ」とは?と考えさせられたし、アーネストとモリ―の関係一つとっても、お互いがどこまで「わかっていた」かを明示しないの、本当に「映画」だよな~!としびれました。最後の解答もしっかり間違えるアーネスト*1は本当にダメだなぁと思いつつ、なぜか逆に彼の「嘘のつけなさ」と、たしかに「愛」があったことを確信でき、その上でのモリ―の選択はさらに重く感じさせられる。聡明なモリ―。

長尺をずっと下支えするロビー・ロバートソンによるすばらしいスコアも、『DUNE』を手がけたジャクリーン・ウェストによるおしゃれな衣装も最高でした!ディカプリオが着てたパジャマ欲しい!


★★★★

*1:その瞬間、となりの席のおじさんは「あちゃ〜…」と言っていました