マリッジ・ストーリー


第92回アカデミー助演女優賞

原題:MARRIAGE STORY
監督:ノア・バームバック


現代版『クレイマー、クレイマー』+『ブルーバレンタイン』な題材に唸るノア・バームバック節。でも過去作に比べて、皮肉な目線抑えめで、全体的にあたたかいまなざしを感じる。

冒頭だけで泣きそうになってしまう。主演2人のチャームが爆発し、このカップルを好きにならざるを得ないことがわかる。

「ずっと愛するだろう」とわかっていても、過ぎてしまった時間や投げつけてしまった言葉は取り返しがつかず、もう一緒にはいられないこと。
とくに、アダム・ドライバーがくずおれるシーンは、目を覆いたくなる。本心からの言葉ではない、でも絶対に取り返しがつかない、という衝撃。皮肉にもその瞬間の2人の感情は完全に一致し、お互いが世界で唯一の理解者になっているように見える。

「相手に寄り添うこと」と「自分らしく生きること」のバランスの難しさ。別居している住居のインテリアや選んだハロウィンの仮装が雄弁に語る、お互いの趣味嗜好やライフスタイルの違い。NYとLAという土地柄の違いの楽しさと残酷さ。

『ブルー・バレンタイン』の時と同様再確認したけれど、わたしはもともと結婚や家庭にそれほど幻想を抱いていない。他人と暮らすのに向いている人間ではないし、結婚して子どもができてからも、いつまでこの関係が続くのかずっと懐疑的だ。取捨選択や妥協は不可避だし、捨てるのは少なからず自分のコアに近い部分かもしれない。少し距離のある関係の方が快適だし、お互いに敬意を払い続けられるかもしれない。それでも、いっしょにいて現実に塗れることを選ぶのが結婚なのかな、と思っている。なので、関係性は変わってしまっても愛は残る結末が、しあわせでやっぱり切ない。


★★★★