ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから

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原題:The Half of It
監督・脚本:アリス・ウー
撮影:グレタ・ゾズラ
編集:イアン・ブラム、リー・パーシー
音楽:アントン・サンコー


信頼の佐久間船長が「上半期ベストかも……」と絶賛していて、わたしの好みを知り尽くした友も「絶対好きなやつ!」と太鼓判を押してくれたので即!結果、ア゛ーーー 最高!すばらしく瑞々しくて、胸をわしづかみにされました。

少し前に『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』を観て「A24の青春映画」という俺得案件であったにも関わらず、あまり刺さらなかった*1のを地味に引きずっていたのだけれど、この映画がきれいさっぱり払拭してくれた。

コロナ禍による自粛生活で配信にはとてもお世話になっているけれど、やっぱり映画館が恋しい。家のテレビだと集中力や没入感が足りない……と思うことも多かった。そんな中、久しぶりに心の底から「やっぱり…映画…大好き……!」と思えた、年間ベスト級の作品でした。

まず、主要キャラクターがみんな愛おしすぎる。
おそらく監督自身が最も色濃く反映されている、主人公のエリー・チューを筆頭に、想い人であるアスター、野暮天アメフト部のポール、エリーの父など、どのキャラクターの魅力も葛藤も成長も、スタートからラストまでていねいに活写されていて、観ていて本当に気持ちが良い。アスターの婚約者ですらヌケの良いバカさがにくめず、しかもエリーを「セクシー」と評したりもして、うんうん!とニコニコしてしまった。おかげで自分とかけ離れたキャラクターであっても、きちんと思い入れられるし、すっと心の中に入ってくる。
この監督は人間に対して敬意や誠実さがある人で、一面だけを見ようとしていないんだなと思う。

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そして、文系に対するくすぐりが過ぎる、数々の文学や映画の引用。『日の名残り』、『ベルリン・天使の詩』、『フィラデルフィア物語』に『出口なし』!

ew.com

列車を追いかける映画、気になりすぎて調べてしまった。
(『Ek Villain』というボリウッド映画でした。)

監督が知性や芸術へ圧倒的な信頼を寄せているのが伝わった上で、さらにエリーをそこから飛躍させるクライマックスにはガッツポーズしかないし、ラストでの伏線回収には「わたしの涙腺ぜんぶしぼりとっちゃって〜」と清々しいまでに全面降伏。そこから未来へつながる余韻も、希望と昂揚感にあふれていた。(つまり技ありすぎるタイトルが示す通りの鑑後感。どこまで気が利いてるんだよ!)

あとは、フード描写も最高でした。ヤクルト!タコス!餃子!フライドポテトをミルクシェイクにひたして食べるのが正義に思えてくる!


★★★★★

*1:よかったとは思うものの、主人公ケイラにもお父さんにも自分が思い入れる要素が少なかった。綿密に取材したという現代のティーン像はリアルだったものの、「最初から子を全肯定している親」というのは自分にとってはファンタジーで、ありていに言えば「自分の映画ではない」と思ってしまった。