ザ・マスター

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男はただ、信じようとした。
第2次世界大戦後、精神に傷を負った帰還兵
フレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)と新興宗教の教祖ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)の関係を描く。
サイエントロジー創始者をモデルに人間の本質に迫る力作。*1
2012年ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子最優秀監督賞

原題:THE MASTER
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ミハイ・マライメア・Jr
編集:レスリー・ジョーンズ / ピーター・マクナルティ
音楽:ジョニー・グリーンウッド


どんどん豊かで深遠になるPTAの作品よ。毎度映画というものの底力を感じさせられます。観ているあいだ「PTAはどこまで行ってしまうのか」とたびたびそらおそろしくなりました。それだけで心をゆらし、打ちのめすような映像の連なりに、自分でも触ることができないような心の奥底をつかまれて、涙が出てしまうシーンが何度もありました。とにかくものすごい強度の映画。

とはいえ、ストーリーは至ってシンプル。シンプルゆえに観客によって解釈や鑑後感はさまざまだと思うけれど、初見でのわたしの感想は、なんともせつないラブ・ストーリーだなあ、と。言葉にすると陳腐になってしまうのだけど。

「マスター」と呼ばれるドッドはカリスマ性を備えながらも、根本は凡人で常識人。著作の記述を”Memory"から"Imagine"に変更するなど、実は教義が眉唾物だと当人が一番わかっている。フレディに対しても「支配欲」「独占欲」を見せる。対するフレディは実は誰よりも真理に近づいているし、人がブレーキをかけるところでアクセルを踏める超越者。ドッドに対しても「全肯定」「全開示」の姿勢を取り、ドッドよりもむしろ真実の愛に近づいているように見える。

この2人が関係を深めていく描写はスリリング。まるでフレディがドッドにヤマとタニを
明け渡してしまうかのような接近のし方は、三宅乱丈の『ペット』を思い出したりしました。

ペット リマスター・エディション 1 (BEAM COMIX)

ペット リマスター・エディション 1 (BEAM COMIX)

  • 作者:三宅 乱丈
  • 発売日: 2009/10/26
  • メディア: コミック


魂の半身とも言える2人が痛いくらいにお互いを必要とし、フレディが夢で気持ちを確かめ、ドッドが歌で想いを告白したとしても、2人は袂を分かつ宿命にあるというのがせつなすぎる。これだけ濃くて骨太な別離映画だとオチてもおかしくないんだけど、基本に達観があるからか、わたしにはふしぎと清涼感が残りました。
PTA たのむから長生きしてくれ!


★★★★★

*1:早い段階でトムちんに観せたらしいけど、伝えたいことがあったのかな……。