AMY

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わたしは、ただ歌いたいだけ。
彼女は、音楽と愛に生きた―
27歳でこの世を去った歌姫
エイミー・ワインハウスの生涯を描いた、傑作ドキュメンタリー

原題:AMY
監督:アシフ・カパディア
編集:クリス・キング
音楽:アントニオ・ピント


128分とドキュメンタリーにしては長尺で、時系列通りの編集にもかかわらず、あっという間だった。濃密に駆けぬけたエイミーの人生を、静かな愛情をもって淡々と写しとるような映画。誰もが結末を知っているだけに、親友との交流やモス・デフ/クエストラヴとの企画、トニー・ベネットとのレコーディングなどのいくつかの岐路で、「時間止まれー!」と痛切に願わずにはいられない。

「実体験しか歌にできない」と本人が語る通り、見事なまでにリンクした実体験と楽曲が交互に立ち表れてくるさまは、愚直すぎて胸が痛くなるし、後期、アルコール/ドラッグ中毒や過食に蝕まれていくエイミーの映像(声の劣化、肌荒れ、激痩せなど)はリアルすぎて、どんな反薬メッセージよりも刺さる。とくにグラミー受賞の際、親友にもらす「ドラッグがなければ退屈なだけ」という言葉は、彼女のキャリアと人生のグラフ曲線がどれだけずれてしまっているかを感じて、うすら寒くなる。

エイミーの元カレが「性的虐待受けてないの!?」と驚いたように、自分や他人を壊してしまうひとたちが、それを社会や環境のせいにできるのはどこまでなんだろう、と考えてもしようのないことをぼんやり思ったりした。
『イミテーション・ゲーム』を観た時も感じたけど、学者やアーティストみたいな偉大すぎる才能を持つ人間は、素人がレーシングカーを運転しているようなもので、それを制御するメンタルやテクニックを獲得できなかったら、事故はまぬがれるには幸運に頼るしかないのかもしれない、とやるせない気持ちになりました。


★★★