息もできない

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二人でいる時だけ、泣けた。
家を抵当に入れてまで撮りきった、ヤン・イクチュンの長編監督デビュー作。びっくりするほどエンドクレジットが短い。
父への怒りに苦しみながら、暴力にまみれて汚れ仕事に生きる男サンフンと、勝気な女子高生ヨニ。傷ついた二つの魂の邂逅。
世界中の映画祭で賞をとりまくっています。

原題:똥파리(クソバエ)
英題:BREATHLESS
監督・脚本・製作:ヤン・イクチュン
音楽:インビジブル・フィッシュ


まずは、だいすきな北野映画のような空気のチンピラマナーの描きかたにもっていかれる。くわえてそこからどうしようもなくにじみでてくる監督自身。「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままでは、この先生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」というインタビューを読むまでもなく、監督自身が注入されてしまっていることは明らかで、すごく主観的で個人的な作品であるけれど、やっぱりそういう映画にはこころを動かされてしまうものだと思う。

暴力の連鎖、家族の愛憎。おかげでサンフンはほんとはいいやつなのに、愛情すら悪態と金でしか表現できない。わたしは家族と暴力がまったく結びつかない家庭に育ったし、こういうの観てるとあわわーとか思うのだけど、それでもやっぱり胸にささるのは、家族が負わせた傷がひとにとって最も根深いからなのかなと思います。(あたりまえだけど)家族&暴力がモチーフになると、必ずごはんがだいなしになるのが興味深い。『心臓を貫かれて』で七面鳥が床の上にぺしゃっと投げ捨てられ、『煙か土か食い物』で石狩鍋がひっくりかえされたように。



とか言いつつ、この作品でわたしに刺さったのはやっぱりヨニのほうでした。女だからだろうかねえ。サンフン絡みでヨニが泣くシーンが2回あるのですが、両方ともヨニは声を殺して泣いていて、それがこの世のものとは思えないほどかなしい。そういう泣きかたしかできなくなってしまった女の子がふびんでしかたなかったです。暴力の軛から逃れきれないヨニを救ってあげたいなあと思いました。


★★★★