ジョーカー

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本当の悪は笑顔の中にある
笑いの仮面をかぶれ
DCコミックのキャラクターに基づく
2019年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞

原題:JOKER
監督・製作・共同脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
製作:ブラッドリー・クーパーエマ、・ティリンジャー・コスコフ
撮影:ローレンス・シャー
美術:マーク・フリードバーグ
編集:ジェフ・グロス
衣装:マーク・ブリッジス
音楽:ヒルドゥル・グーナドッティル


危惧していたとおり過ぎる映画。
ホアキン・フェニックスはチャーミングでうつくしく、ゴッサム・シティは現実で、アンビバレントな想いに心を引き裂かれる映画。

大変に良くできた映画だと思うし、世評の高さにも納得だけど、個人的に好きか嫌いかで言ったら、嫌いがやや勝る。『ジョーカー』の下敷きになっている、『キング・オブ・コメディ』も『タクシー・ドライバー』も名作とは思うけれど、大好きな映画というわけではないので、もう好みの問題だと思う。*1

とはいえ、まずはホアキン・フェニックスがすばらしかった。あの画面支配力。あのダンスの求心力。小児科病棟で拳銃を落としてしまったあとの、一拍おいての「シー」。


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そして映画自体も中盤までは乗れたのだけれど……。


とくに、アーサーの出自が明らかになるくだりで、「母親が虐げられているならまだマシだった」という地獄。予想はしていても、アーサーと共に観客の心の糸もプッツリと切る描写で、ある種のカタルシスすらあった。折りしも、日本では「目黒女児虐待事件」の裁判が行われていて、胸がえぐられる思いだった。

ただ、わたしはそれ以降どんどん気持ちが離れていってしまった。なにしろ今までていねいに描いてきた「アーサー」の人となりと、「ジョーカー」としての開花という既定路線との、乖離が甚だしすぎる。急にキレキレになっちまって……、どうしちまったんだよ、琥珀さん!

それを埋めようとしてか、とにかく言い訳がましさと「誰でもこのひとになり得るし、責められませんよね?」という圧がすごい。裁判で言うと、弁護側の主張だけを聞かされているような気持ちになってくる。スカムな親だから。狭量な同僚だから。対する、小人症の同僚と黒人のシングルマザーの配置がえげつなさすぎる。「このひとを責められようか」圧については、『万引き家族』を思い出したり、キャラクターの感情の流れと乖離した既定路線については、奇しくもマーベルの『エンドゲーム』を思い出したり。
別に、スカムな親じゃなくたって、子は自由になっていいんだし、端的に言うと、この話が『ジョーカー』である必要はないのではないか、と。

sabot-house.com


テーマと結論ありきで、食い合わせの悪い題材をかけ合わせた結果、ストーリーが上滑りしていく感じについては、『アラジン』が頭をよぎったりもした。*2

ことほど左様に、こちらはアーサーさんに膝詰めで談判したいのに、観客代表デ・ニーロはまったく芯を食った質問をしてくれず、フラストレーションがつのる。
己の受容を叫ぶなら、逆にブルース・ウェインの心情を考えたことがあるのか、とデ・ニーロからジョーカーに問うて欲しかった。
トーマス・ウェインはどうすればよかった?きみは相手に敬意をもって対話しようとしてきたかい?世界に拒絶されたから、きみは世界を拒絶する権利があるけど、自分がして欲しいこと、自分は世界にしてきたかい?きみはほんとうに「コメディ」に真摯に向き合ってきたかい?犬飼え!よく寝ろ!ハードコアバンドやれ!

ジョーカーに感情移入できる描写は山ほどあるのに、ジョーカーになるのを阻害するような因子や逆方向の視点、それを喚起するようなフックが一切ないので、想像力の欠如に気づかないまま対話が断絶してしまう怖さがあった。

つまり、これはどこからが妄想かわからないし、全部ジョークなんですよ、とも取れるけど、そうは解さない観客もたくさんいると思う*3。銃乱射事件遺族の懸念は決して大げさではない、という気持ちになってしまった。分断を深めかねないことは否定できない、怖い映画だと思った。

タクシードライバー』大好きで、『ジョーカー』支持派の夫も「結局おしゃれかよーと思った」と述べており、わたしも「それなー」と思った。ジョーカーは字も読めるし、おしゃれなスーツを着まわして、TVの司会者をスマートに撃って、悪のカリスマになる。

追記:
後日、思わぬ方向から飛んできた矢に、ひとり勝手に溜飲を下げたのでした。

miyearnzzlabo.com

梶原の言い分に対する、西野の問いかけ!全体をひっくるめてをきちんと「コメディ」にする3人の手腕と信頼関係!説明なしでも伝わる梶原の闇と、それを自らブーストさせつつ、でもやっぱりまじめさや本音ものぞき見えるようなバランス!さすが ドリームエンタメラジオ!

★★★

*1:しかし、パプキンやトラヴィスには親しみが感じられるのに、アーサーには言語化できない違和感を感じる……。その理由をずっと考えててずっとモヤってます。自己憐憫とか自発的な思考力とかそのへんかな、と思っています。

*2:しかし、どれも世界的に高い評価の作品なので、わたしがずれてるんだよなー、と思うと憂鬱なきもちになる

*3:アーサー母の妄想さえ鵜呑みにしたままの感想もいくつか見かけてウッとなった