おおかみこどもの雨と雪

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私は、この子たちと生きていく。
おおかみおとこと恋に落ち、おおかみこどもを産んだ19歳の大学生花が、女手ひとつで姉弟を育て上げていく13年間の物語。

監督・脚本・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡
編集:西山茂
キャラクターデザイン:貞本義行
作画監督山下高明
美術監督:大野広司
衣装:伊賀大介
音楽:高木正勝
主題歌:アン・サリー『おかあさんの唄』


実験的な映画で、とても興味深かったです。なにしろすごいなと思ったのは、原作・細田守ってこと。大胆な設定、メタファーと含蓄に満ちあふれたストーリーは、非常に古典童話的でどきどきさせられました。

第一印象は、映像で語る映画とはいえ、全体的に良くも悪くもあっさりした映画だな、と。細田守監督の時間描写はいつもおもしろいな、と思うのだけど、回想という形で語られる今作の空気は、「否応なしに、時間は誰しもに平等に降るもの」という感触で、それが作品の静けさや淡々とした感じとあいまってよかったです。

すこし物足りないな、と感じたのは2つ。
1つめは、親子・姉弟の絆。
雪の回想という形なので、花の聖母感はわかるにしても、こどもにとって全能の母親だからこそ、ふと見せた狂気とか失言をつよく覚えているものなので、一ヶ所だけそんなシーンが欲しかったな、と。

雨との関係はもっとそう。本来、世界でふたりきりのおおかみこどものはずなのに、すごく結びつきが弱い。「病弱な弟にかかりっきりの母親」という図式はあるのに、そのへんの姉弟の葛藤を全然見せないのもちょっと不自然なくらい。家族以外の他者との関わりがとてもいきいきと描かれているだけに、家族間の描写にも強烈なフックが何ヶ所か欲しかったかも。

2つめは、動物界の描写。
おおかみかにんげんかを選ぶにあたって、母親が人間で、人間寄りの生活をしていることを考えると、もっと動物的な魅力の描写が欲しい気がする。人間の魅力が人と人とのつながりやふとした心のふれあいなど、「精神的」な豊かさを描いているのに対して、動物の魅力が「身体的」な躍動感を描いているのは納得。雪山を疾走するシーンとかすばらしいんだけど、人間が見得ない景色を見て息をのむ、とか全体的にちょっと神格化しすぎかな、と。

観客は動物の感性については、想像力を使うしかないのだけど、もっと「血のしたたる生肉うめー」とか弱肉強食の本能とか、血なまぐさい・泥臭い部分は必要だと思った。にんげんの描写がフレッシュでていねいなだけに、おおかみの描写も向こうを張れるくらいのものが欲しかったかも。

まあ、その物足りなく感じた部分を足すことで、この作品のトーンがうしなわれたら、本末転倒なのだけど。なにしろ13年間を2時間で描くってはなれわざをさらっとやってのけてるのだから、やっぱりすごいんだよなー。


★★★