レスラー

f:id:tally:20181228183813j:plain


人生は過酷である、ゆえに美しい。
かつての人気レスラー・ランディは、今では落ちぶれて肉体的にも金銭的にもギリギリの生活。それでもアルバイトをしながらも、プロレスを続ける日々。心臓発作を契機に、自分の人生をかえりみるが・・・というお話。
2008年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞

原題:THE WRESTLER
監督・製作:ダーレン・アロノフスキー
脚本:ロバート・シーゲル
音楽:クリント・マンセル
主題歌:ブルース・スプリングスティーン


各地で絶賛評を聞いており、LiLiCo姐さんも絶賛!とのことでしたが、『グラン・トリノ』を観る前と同じく、「これは男子がぐっとくる映画なのでは?」という危惧もありつつ。「この役をミッキー・ロークにやらせるか・・・」とびくびくしながらの鑑賞。

いやー。なんというか言葉が出ない。粗い粒子のドキュメンタリータッチの撮影に、109分というタイトな上映時間。プロレスの「虚と実」と映画のテーマのかみあい方。つかんだかのように見えた、手の平からこぼれおちていくものたち。盛りをとうにすぎても自分の持ち場から離れられないひとたちの痛々しさとちょっと信じられないくらいの神々しさ。

その同じような境遇にいるはずのランディとランディが好意を寄せるストリッパーとでは、経過が全然ちがうのもおもしろかったです。同じような孤独と悲哀(とおかしみ)を抱えていても、ストリッパーは現実的に生きている。守りたい子どもがいるし、臨機応変にプランBに移る器用さがある。男女のちがいが興味深かったです。

しかし、そういうものを超えてとにかく切に感じたやりきれなさ。それはわたしが的外れにランディの娘に感情移入してしまったためで。ランディのだめさとかチャーミングなところとか人望があるところは憎めないんだけど、それでもこのひとがごく近しいひとだったらしんどいな、っていう。
ラストのくだりも「こいつまだわたしを苦しめるのかー」「結局こいつにとってわたしの存在価値って・・・」と。こんなのって鬼ごっこのオニヤメだよ!と。なんだかとてもかなしいきもちになってしまいました。エンドロールの曲でようやくちょっとニュートラルなきもちで泣けた。

それにしても『グラン・トリノ』といい、自身の結着をつける、男の花道・幕引き映画が今年の潮流なのかしら。『ノーカントリー』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の年にブラックホール的虚無映画の流れが見えたように、映画と時代の空気のことをぼんやり思いました。


★★★