闇の列車、光の旅

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この出会いが、私を強くした。
ホンデュラス、メキシコからアメリカへ向かう貨物列車の上でボーイ・ミーツ・ガールというお話。不法移民の少女とギャングの少年が組織に追われながらも手に手をとって国境越えを目指す。
2009年サンダンス映画祭監督賞・撮影監督賞受賞。

原題:SIN NOMBRE
監督・脚本:ケイリー・ジョージ・フクナガ
撮影監督:アドリアーノ・ゴールドマン
音楽:マルセロ・サルボス


うーん、よかった。ストーリーにはなにひとつ目新しいところはなく、王道中の王道、ヘタすりゃメロドラマな展開なのに、圧倒されました。とにかく画がつよくて、説得力がある。北野武を思わせました。新人監督とは思えないほど無駄のないつくりに舌を巻きました。

ネタ的に『息もできない』に通じるところもあるのですが、ヤン・イクチュンの個の妄執とは対照的に原題「Sin Nombre」(スペイン語で「名無し」の意)に象徴されるようなフクナガ監督の目線はあくまでフラットで、手つきは落ち着いている。それでいて南米独特の生気はもうむせかえるくらいに生々しくて、うわーってなる。クーラーのきいた映画館でこの作品を観てるのがふしぎに思えたくらい。

ギャングに対するチビっ子の目線なんかももう言葉にならない。からだにうねる墨、ハンドサインの応酬、結束の固さとファミリー感。はじめてたまり場に連れていかれたときのあのチビっ子の目線。そらなるよギャング。他に選択肢なんかないし。同年代の友だちに拳銃を自慢するシーン、胸が痛かった。
あと弱者の完全に無力な瞬間がきちんと描かれているのもよかった。父より叔父より大事な存在ができる瞬間の切りとり方のあざやかさとその説得力といったら。

だんだんこの作品の記憶が薄れていっても、きっと思い出すであろうシーンがいくつもあった。
次回作がたのしみです。


★★★★