奇跡

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あなたもきっと、誰かの奇跡。
九州新幹線の一番列車がすれ違う瞬間を目撃すれば、奇跡が起きる。
両親の離婚で鹿児島と福岡に離れて暮らす兄弟が、願いをかける。
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:山崎裕
音楽:くるり
主題歌:くるり『奇跡』


ああ、いつも通りに、是枝監督の映画はかんたんには飲み下せないさじかげん。「夏休みのこどもの冒険譚」というモチーフなので、さすがにいつもよりストレートにイイ話風味だけど。やっぱり基本はあつさとつめたさ、リアルとファンタジーのあわいが複雑で、わたしはいつもあれ?という間に泣いててびっくりしたりするのだ。

わたしのだいすきな「夏休みはいつか終わる」ノスタルジー感が全編にわたってたまらない。この作品では、夏休み=こどもでいられること、ということで、こどもたちは一夜の冒険を経て、おとなへの階段をのぼる。

是枝監督のこども描写はいつも秀逸で、今回にこにこしながら観たけど、同時にこどもを全体で捉えているのが気になったりも。ひとつひとつのこどもエピソードには目を見張るけど、それが個に収束していかないかんじ。キャラクターに肩入れさせない目線。例えば、夜眠るっていう描写だけでも、子どもひとりひとりの設定によってそれぞれの眠りかたがあると思うのだけど、それはごった煮。とくに犬飼いの身としては、あの子の夜の越しかたは不自然にみえた。

かと思うと兄弟がかるかんを食べる描写は的確で、弟が即がっつく一方、兄はボソッと「いただきます」って言う。ものの食べかたからふたりの日常生活が透けてみえるってこと、その生活がもうこんなにもかけ離れてしまってるってことが、冴え冴えしくておそろしくすらあった。

とはいえ、兄弟が自分自身や日々の生活のために祈ることをあきらめて、それ以外のもののために祈る場面には号泣。こどもたちや当人のあずかりしらぬところでひそかに起きた奇跡。フラッシュバックする夏の思い出のかけらたち。
くるりは「来年も会いましょう」とうたうけど、わたしはやっぱり来年はないんじゃないかと思ってしまうし、あの兄弟もそれを知っている気がする。それがすれちがう新幹線の画とかさなって、盛大に泣いてしまいました。

でもこどもの繊細さを描きつつも、しなやかさ・しぶとさが頼もしかったから、きもちよく観れました。いい映画。


★★★