恋人たち

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それでも人は、生きていく

監督・脚本・編集:橋口亮輔
撮影:上野彰吾
音楽:Akeboshi


妻を通り魔に殺された橋梁点検者・アツシ、
生活に倦んだパート主婦・瞳子、ビジネスライクなゲイ弁護士・四ノ宮、それぞれ立場も性格もまったくちがう登場人物なのに、そのどれにも自分がなり得るという可能性が、圧倒的な現実感をともなって提示されるのは、さすが橋口監督だし、背筋がひやりとするようなこわさがあった。笑える場面も多いんだけど、気づくと息を止めてしまっている映画でした。

自分が手にしている幸せのもろさ、徐々に絶望に蝕まれ、虚無に満ちていく生活、息が詰まりそうな日常から飛び出してしまった瞬間、どんなに時間と情熱をかけても決して報われない想い、気づかないうちに他人に向けている無関心や理不尽や毒―。きっと誰の中にも潜在している要素が次々に取り出され、並べられていく。

神は細部に宿るとでも言いたくなるような、繊細かつフレッシュに切り取られた日常風景の積み重ねがそれを裏打ちする。スーパーの商品にかけられたラップを乾かして再利用する姑、顧客のカーストによって通す部屋を分ける事務所、外でしゃがんで用を足した小水で消す煙草―。*1挙げだしたらきりがない。

印象深かった点など。自身がマイノリティだからといってマイノリティに優しいわけではない、四ノ宮の描写。監督自身もゲイだからこそ容赦なく描ける、非情な真実だなーと思った。ハッとさせられた、アツシのバカップルへの視点。境遇が変わると世界はこんなにもちがって見えるのか、と驚いた。*2
一点どうしても違和感を覚えたのは、瞳子の着地。「夫婦だから避妊しなくてもいい」という提案がなんとなく希望のあるものとして撮られている気配を感じたのだけど、瞳子の年齢を考えても、それは無責任・無関心の延長にも見えて、どちらの意図で置かれたものなのか、釈然としない気もちが残った。

理不尽な世の中で、どんなにやるせなくよるべなくとも、それでも生きていくしかない、という回答は、是枝監督の『誰も知らない』を思い出したりもしました。


★★★★

*1:ってなんだかやだ味描写ばっかりになってしまったけれど

*2:もっともわたしの場合は、境遇が変わっても殺意が増す一方のような気もするけど