一命

f:id:tally:20181227115214j:plain


いのちを懸けて、問う―
名門・井伊家の門前で切腹を願いでた侍・津雲半四郎(海老蔵)VS 家老・斎藤勘解由(役所広司)。勘解由は数ヶ月前に起こった若浪人・千々岩求女(瑛太)の狂言切腹の顛末を話して聞かせるが、それこそが半四郎の真の目的だった・・・!
ほーぉ、承りましょう!!

監督:三池崇史
脚本:山岸きくみ
撮影:北信康
編集:山下健治
音楽:坂本龍一
原作:滝口康彦『異聞浪人記』


いやー、おもしろかったです。ちょう見応えありました。海老蔵の光りかたがパないす。三池監督作品では一番すきかも。言ってしまえば、テーマは「義理人情や思いやりを忘れて、形骸化した武士の面目を守って、なんの意味があるんだ(ないだろ)」という海老蔵による問題提起なのですが、これが絶妙なバランスで提示されていてよかったです。キャストの配置もバッチリだったと思う。

まず海老蔵サイドはもう一から十までキツい不幸描写。「貧乏」と「病気」という最もひとの希望を奪う不幸が吹き荒れるなか、懸命にささやかなしあわせを守ろうとする海老蔵たち。


「孫」―、どうしてこんなにかわいいのかよ。道に落ちた卵をはいつくばってすする瑛太、竹光グロ切腹させられる瑛太、もうまんじゅうしか見えない満島ひかり、やぶれ障子を必死で繕う海老蔵。あーキツい。キツいわあ。今気づいたけど、わたしってばしあわせだったわあ。家族のいるひとはこの時点で相当海老蔵サイドに肩入れしてしまうのではないか。(いっしょに観に行ったマイメンもしかり。)

でもこの作品がおもしろいのは、じゃあ役所広司サイドが悪者なのか?っていうとこちらの主張も至極まっとうなところ。わたしは小役人マインドの持ち主なので、断然こっちに肩入れ。役所広司はあの立場でできる限りの礼を尽くしたと思うし、海老蔵が「世が世なら立場が逆転していたと考えて」と役所広司に訴えるんだけど、海老蔵役所広司の立場ならやっぱり同じことすると思うんだよね。あとは、父親の心情として、虚弱な娘に苦労させたくないと思えば、絶対に瑛太に嫁に出すべきじゃなかった、っていう。


金持ちのオファーを断って、本人同士の気持ちを優先させたわけだから、そこは絶対に己の責任と覚悟が必要で、おそらく気持ちを優先させずに立場で妻を選んだであろう役所広司に自分たちの苦境をおもんぱかれというのはお門違いかな、と。もちろんド不幸だから同情するのはあたりまえなんだけど、それで選んだ方法が狂言切腹って、それこそ礼を欠く手管かなあ、と。と、ここまで書くと不幸を笠にきた大迷惑ってかんじがするんだけど、そこは前述のド不幸描写と海老蔵の熱でなんとか離れ業を成立させてる。だからこれだけお涙頂戴をやられても、最後までブレない役所広司が逆にアツくて、わたしは断然井伊家派。

ドS・沢潟も一番最初に切腹するし、筋が通ってて、わたしはだいすきだよ。やっぱりわたしはMなんでしょうかね。


ちなみに観客は年配のかたばかりだったけど、おもしろいから、若者も観たらいいんじゃないかしら?


★★★