ラビット・ホール

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大きな岩のような悲しみは やがてポケットの中の小石に変わる。
ニコール・キッドマン製作・主演の勝負作。第83回アカデミー主演女優賞ノミニー。
原作はピュリッツァー賞トニー賞を受賞したデビッド・リンゼイ=アベアーの戯曲。
不慮の事故で息子を亡くした夫婦の8ヶ月後を描く。

原題:RABBIT HOLE
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』)
脚本・原作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー『Rabbit Hole』
製作:ニコール・キッドマン
撮影:フランク・G・デマルコ
編集:ジョー・クロッツ
音楽:アントン・サンコー


よかったですね。ニコールがハマり役。良いニコール。この作品のちょっと気むずかしいとも言えるキャラ造形がすきだなあ、と。だいじなひとを亡くしたときの反応や心情はひとそれぞれなので、感じかたもちがうと思うけれど、わたしはおおむねニコールに共感。かなりのシンクロ率。だからすごく泣けてしまうところもあった。

夫は陽型で、グループセラピーにできれば妻といっしょに通いたいと考えるようなひとで、息子の思い出に積極的にひたりにいくタイプ。一方の妻は、ほぼ真逆かつ、加害者の青年に接近していく、というあゆみでこれが夫にはまったく理解できない。あぁ、たぶんわたしには痛いほどよくわかる。神に祈るよりも、被害者家族と傷をなめあうよりも加害者の青年に接近するのが、息子に一番近いことだから。夫には妻が息子を忘れたがっているように見えるけど、たぶん妻はやっと息子の死を実感しはじめて、自分でも戸惑っている時期なのだ。
どちらの哀しみが深いかなんてはかれないし、どちらもが正しい。そんななか、ニコールが、加害者の青年との交流のなかで、彼の書いたコミックに「失われた可能性の世界」をみるシーンは、涙なしには観られない。
おかあさんとの「ポケットの中の小石」の話のシーンも泣けたなあ。なにかが重大に損なわれることがあっても、時間をかけて対処していくしかないっていうことの、希望と絶望。

どかんと重い話に聞こえるけど、描きかたもウェットじゃなく、かつていねいなので、好感がもてる。なにしろ情報の出しかたと、出すタイミングがうまい。ニコールの生い立ちやキャリアひとつとっても、はっきり明示せずに、あとから「なるほど」と気づくようなさりげなさで、ちりばめられている。

あとはだいじな存在を亡くして、ボロボロに傷ついたひとに、周りの人間がどう接するか、っていうのも興味深いテーマで、個人的にかなり身に染みました。自分があのときどれだけ正しく扱われていたか、それがどれだけ奇跡的なことか、改めて思い知ったね。感謝の念で胸がいっぱいになりましたことよ。

しかしこんな繊細な手つき(しかも男性的な繊細さ)なのに、扱いづらい妻を必死で受け止めようと努力する夫(なんて都合のいい話!)を活写するとは、いったい監督は誰なんだ、と上映中から気になっていたけれど、ジョン・キャメロン・ミッチェルか・・・!とっても腑に落ちました。


★★★