スキャンダル

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ニュースをお伝えします。
世界騒然!全米最大TV局の、あの騒動の真実。
ハリウッド至高の3大女優が放つ、衝撃の実話。

原題:BOMBSHELL
監督:ジェイ・ローチ
脚本:チャールズ・ランドルフ
撮影:バリー・アクロイド
編集:ジョン・ポール
特殊メイク:カズ・ヒロ
衣装:コリーン・アトウッド
美術:マーク・リッカー
音楽:セオドア・シャピロ
Inspired by actual event.


自粛ムードの中、楽しげな映画に心惹かれるものの、信頼できる友たちが「ヘトヘトになるけど…」と前置きしつつ絶賛していたので、観ておくべきやつなんだな、と。トランプ当選という「現実」がある以上、爽快な勧善懲悪モノにはなり得ないとわかってはいたけれど、ほろ苦---!注意通りにどちゃくそしんどい映画だった…109分とは思えないほど消耗した。
ものすごい情報量をさりげなく的確に配置し、スピード感を落とさず押し切るのは『マネー・ショート』の脚本家 チャールズ・ランドルフの色が濃く出ているのかもしれない。

ライフ/キャリアステージやクラスタ、理念や守るべきもの、の違いからくる女性の連帯のしにくさ、各個弧戦状態に陥った時の心細さ、が痛々しいほど鮮やかに描かれている。
それでいて、結局チームを組まずに、個々で戦い切る物語にしたことに胸が熱くなる。服装やメイクのパッと見だけでも、彼女らがお互い相容れないと思っているのがわかる。「いけ好かない相手だけど、共通の目的のために今だけは手を組もう」という展開は、映画の定番だしわかりやすく盛り上がるかもしれないけれど、そうはしない動き方、そうはさせない環境の苛酷さが、リアルでとても良かった。女性を孤立させ自身を責めるように仕向けられる構造が問題なのだから。グレッチェンの「私が全部引き受ける」という覚悟がないと、打開なんてできない。

レッチェンにもメーガンにも娘がいて、揺らいだ時にさりげなくその存在が示唆される。ケイラがメーガンを責める「下の世代の声」は、つまり娘たちの代弁でもある。自分の尊厳や立場だけを守って逃げ切れば、ツケを払わされるのは下の世代なのだ。下の世代に対する責任の重さよ!

メイン3人を取り巻くキャストも相当緻密に配置されていると思う。同じ女性であっても、クローゼット民主党支持&ゲイ(ケイト・マッキノン!)もいれば、「チーム・ロジャー」をアピールする社員、さらにはロジャーの妻もいる。映画のテーマ的に女性の観客の方が共感しやすいとは思うが、同じチームの中にも性別/政治的スペクトル/国籍が違う人間が配置されていたり、メーガンの夫やマードック父子、スタッフから一視聴者まで、男性キャストのスペックも決して一様にはなっておらず、バラエティに富んでいるのに感心した。「魚は頭から腐る」の「頭」ロジャーですらも、完全な悪人としては描かれていないと思う。

この映画に対する感想を読み漁ってしまうわたしは性格が悪い。「もしこの人がFOXニュースの社員だったらどういう立場を取っただろう」「配偶者/友人/同僚がこのような目に合ったら、この人はどういう動き方をするだろうか」という目線で読んでしまう。もしくは「自身がこのような目に合うまで他人事なのだろうか」と。

ことほど左様に、弱者や他者に対する想像力を問われることになる作品だと思う。下の世代に対する責任という点では、フェミニズムに限ったことではないし、射程の広さに恐れ入りました。日々自分の意識をアップデートしていかないと、簡単にロジャーのように時代に取り残された人間になってしまうな…と襟を正されまくりでした。


★★★★