あのこは貴族

f:id:tally:20211209135518j:plain


同じ空の下、私たちは違う階層を生きているー。

監督・脚本:岨手由貴子
撮影:佐々木靖
編集:堀善介
美術:安宅紀史
スタイリスト:丸山晃
衣装:大森茂雄
ヘアメイク:橋本申二
音楽:渡辺琢磨
原作:山内マリコ


すばらしい原作の、すばらしい映画化。
地方の輩も都心の貴族もせまい世界を出ないという点では同じ生き物、人には人の地獄がある、という視点。性別や家柄や地域の呪縛に苦しみながら、女たちが連帯して自由になろうとする姿を清々しく描く。これだけでもうすでに意義深いし尊いな、と思います。とにかくこういう作品が日本に増えてほしいな、と。

トランスジェンダーとハリウッド』を観て、やはりメディアを通して、自分のポジションやロールモデルを形成する人が多いと感じたので、どんどんこういうあり方を見せてもらえるとありがたい。わたしももう少し自由になれたかもしれない、という思いと、これからのわたしと娘のあり方に勇気をもらえた。

そして個人的には、自分の中の回路1,2本を切らないと観られないレベルで……。外部生、かつ美紀が最初につきあう相手が所属するサークルにいたわたしですので…。*1
原作を読んだ時点でもうあるあるが過ぎて、刺さるを通り越して笑ってしまっていたのですが、映像化されるとより強烈でうまく頭が回らず。なんだかんだで「みんながあこがれる幻の東京」が好きで、「好奇心は猫を殺す」型の青年だったわたしは、行ったことのある場所、やったことのあることが多すぎて…。水原希子の美貌が過度な感情移入のストッパーとして常に働いてくれてはいたけれど。

良かったシーンはたくさんあるのだけれど、①石橋静河カロンタワー ②幸一郎との中華屋別れ話 ③華子の「全て美紀さんのものだから」がとくにわかりみが深すぎて嗚咽しました。
①わたしはヘテロだけれど、どうにも男性より女性への解像度と衝動が強いので、この石橋静河を見かけたらまちがいなく全力ダッシュで連絡先交換しにいく。好きー!
②言葉にすると陳腐になる関係性の中に宿る、言葉にできないなにか。つきあっているわけではないのにせざるを得ない別れ話。経験則から言っても長く続いた絆にはそれなりの理由があると思っている。高良健吾の深みよー!シスターフッドもので男性キャラクターの解像度が低いと、かえってそれがノイズになって本来のメッセージが刺さりづらく感じるのだけれど、幸一郎の描き方は原作以上の解像度ですばらしかった。
③一気に華子に気持ちを持っていかれるキラーワード。これなー!これが一切ないのなら誰が為の人生よ!

f:id:tally:20211209145657j:plain


ラストの余韻もすばらしかった。全編を通して言えることだけれど、階層を表すかのような立ち位置やロケーション、ファッションやメイクや所作まで考え抜かれていて、本当にていねいに描かれた映画だった。


★★★★

*1:名前も同じなんて!