イニシェリン島の精霊


すべてがうまく行っていた、昨日までは。

原題:THE BANSHEES OF INISHERIN
監督・脚本・製作:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイビス
編集:ミッケル・E・G・ニルソン
美術:マーク・ティルデスリー
衣装:イマー・ニー・バルドウニグ
音楽:カーター・バーウェル

劇場で観たかったのに、どうしても都合がつかなかったやつ。あーーー!やっぱり劇場で観たかったなあ!めちゃくちゃおもしろかったです。『スリー・ビルボード』と同じく、本当に隅々まで抜かりない作品。

アイルランド内戦のメタファーや寓話として興味深いのはもちろんのこと、人間ドラマが歯ごたえありすぎる。男性/女性、職業(警官、神父、接客業、司書など)、動物、色彩などの、配置の的確さよ。

そして「友だち」という関係の難しさ。もし2人が「恋人」であったなら、「別れ話」が飲み込みやすくなるんだろうけど、それって不思議だ。距離を取ることも難しい小さな孤島での人間関係に決着をつけるため、2人は行くところまで行くしかなくなってしまう。
その過程で発露する暴力のかたち。相手の心情を慮ることなく自己中な欲望を通すのも、自傷で自らの要求を通そうとするのも、ひどい暴力だ。でもたまに2人のあいだで交わされる言葉や行動に、たしかに愛や誠実さも感じられるような気がして切なかった。

妹のシボーンやドミニクの知性や感性がきらっと光る瞬間に希望が見えた。バリー・キオガンの「すげぇ意地悪だな」って感想、満点すぎて笑った。


わたしもどのような形であれこの島を出るしかない側の人間だと思うけど、絶景を眺めながらのギネスはちょっといいなと思ってしまった。


★★★★