二郎は鮨の夢を見る

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シンプルを極めると、ピュアになる。
ミシュランガイド」5年連続三ツ星獲得の銀座の名店「すきやばし次郎」の店主・小野二郎に密着したドキュメンタリー。
監督はメトロポリタンオペラの総帥、ピーター・ゲルブの息子デヴィッド・ゲルブ。

原題:JIRO DREAMS OF SUSHI
監督・製作・撮影:デヴィッド・ゲルブ


まずは名匠の凄みとうつくしさに息をのむ。どんな世界であれ、その道を極めるひとというのは、心・技・体がそろっていなければいけないんだなあ。哲学・精神・所作すべてが有機的に連動していて、その根本に「お客様のため」という水商売の基本がどっしりと鎮座しているのが、すごく勉強になった。
それは小野二郎さんはもちろんのこと、店に食材を供給する築地の仲買人(鮪のプロとか海老のプロとか!)やわさびの目利き、お米屋さんに至ってもそうで、「寝ても覚めても」修練がつづく食の世界の奥深さをかいまみた感じでした。もうスタンドとかジェダイの域。歌舞伎とか落語の世界もこんな感じなんだろうな。


おせんさんで描かれているのと同じ。

正直ドキュメンタリーとしての監督の手腕は微妙なんだけど、とにかくエピソードがおもしろいから、興味が持続する。銀座のビルの地下にあるカウンター10席ほどの小さなお店。お任せの握りのコースしかなくて、20貫で3万円から。タコは40分ほど手で揉んでやわらかく。鰹は藁で、海苔は七輪で炙る。シャリは羽釜の上にさらに重しで圧をかけて炊く。修行して10年でようやく卵を焼かせてもらって失敗すること200回でようやく合格点。ミシュランの調査では息子が握っていた・・・etc 二郎さんの「握るときには(お寿司は)9割5分完成している」という言葉が神々しかったです。

この監督ならでは良さと言えば、小野二郎コンマスに例えるような撮りかた。クラシックの旋律に乗せて、次々に繰り出されるお寿司の芸術作品のようなうつくしさと言ったら。
あとは築地市場をお祭りのようにトランシーに撮ってる外国人監督ならではの目線や、父の背中を追う二世ならではの目線が印象的でした。


★★★