君たちはどう生きるか


原作・脚本・監督:宮崎駿
主題歌:米津玄師


ネタバレ?なのか???




アニメーションの神による、半自伝的かつセルフオマージュにあふれた作品。スピルバーグ『フェイブルマンズ』であり、村上春樹の『街とその不確かな壁』だと感じた。

どの巨匠の作品も「わしの業はこれじゃい!!!」という凄みを呈しており、受け取り手はその作家性を把握していて当然、というストロング・スタイル。とくに本作についてはなにか「怒り」のようなものが感じ取れて、戦慄しました。

相反する要素がパンパンに詰まっていて、宮崎駿の脳内に直接触れているような錯覚でくらくらした。観ているこちらのエネルギーが搾り取られるかのよう。(マジで観客のエネルギーを吸い取って創作に変成する錬金術使ってるんじゃないかと疑ってしまう…。)後進への遺言でありつつ、自分のためだけに創られたようでもあり……。「個人」の話でありつつ、「創作」そのものの話でもあり。スクラップ&ビルド。

とくに今作は「産」と「死」の、とりわけ「死」の気配が濃く、異世界センス・オブ・ワンダーの描き方についても、美しさ/気持ち良さ/楽しさ以上に、こわさ/不気味さ/奇妙さを感じさせるものだった。御大史上最も容赦無い狂気(ビーストモード)を感じ、小1の娘は「こわい…」と途中退席してしまうほどだった。*1
駿…、あんたの本気が幼女を泣かせてしまったよ……。

娘はジブリをほぼ履修済だし、今作は駿のフィルモグラフィーの中で言うと、異世界タイムリープの扱い的に『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』に近いんじゃないかな?とも思ったのだけれど、だめでした。何度か「ほら!違う世界へ行ったらもっとわくわくするしたのしいきれい……」となだめてみたけれど完全に嘘だった。なんかちいかわなやつきたぞ!(ガタッ)となったのにペリカンに食われたし燃えた。もはや異世界というか、完全に彼岸だし地獄。しかもいま、娘が恐れているものは、肉親の死、出産、戦争、火事、津波地震なので、駿はがっつり突いてきた。駿はアニミズムを司る神だから、どうしても人間の根源的な恐怖を表現してしまうんだろう。

それにしてもあんなこわい産屋シーンある??完全にホラーだったし、何なら少子化に拍車をかけかねない。それでいて、「死んでしまう」と止める真人に「いい子だから産む」とさくっとヒミを戻らせるの、めちゃくちゃむかつきました。

どのモチーフや登場人物もはっきり一つを示唆しているわけではなく、何層にもメタファーが折り重なっているように思えた。大叔父は駿自身のようでも高畑勲のようでもあり。大叔父の言葉は駿から吾朗に語りかけているようにも思えたけれど、作品全体を通して伝わってくる「現実と物語との関係性」は、やはり強く庵野秀明を思い起こさせるところがあって、また天才の業を感じた。
あと、大叔父のシーンに出てくる、創作の源泉のような巨大な浮遊する石は、モノリス『メッセージ』ばかうけのようで、SF者としての宮崎駿にもわくわくさせられてしまった。
ちなみにわたしはアオサギ鈴木敏夫a.k.a. ゲッペルスの末裔、東小金井のジェルジンスキー)だと思ったのだけれど、インコ王派が多くて笑ってしまった。

最後、エンドロールで作画の人員の少なさにまたふるえた。レジェンドたちをどれだけ稼働させたんだよ……。総務・経理の方が人数多かったよ!


★★★★

*1:夫が付き添ってくれました