ある女流作家の罪と罰

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原題:CAN YOU EVER FORGIVE ME?
監督:マリエル・ヘラー
撮影:ブランドン・トゥロスト
編集:アン・マッケイブ
音楽:ネイト・ヘラー
原作:リー・イスラエル
Based on a True Story.


この作品がDVDスルーとは……。
個人的にはしみじみ好きな映画です。

まず、著名人の手紙の捏造、という犯罪。わたしも犯罪に手を染めるとしたら、これは楽しそうだと思ってしまった。そのひとになりきって、ある意味そのひと以上に個性が出た手紙を書く、というのは一種の創作行為ではあり、やはり才能が必要だろう。オリジナルの便箋を発注したり、紙を焼いて劣化させたりする作業も楽しい。

それゆえ、後半、この行為がどんどんエスカレートし、最終的にただの精巧な複製に堕ちる時の哀しさには、自分でもハッとするほど胸が痛くなる。もともと犯罪なんだけれど、矜持をうしなった瞬間の自分への裏切りが一番の罰であるように描かれていたように思う。

偏屈で高慢で不潔。現実の知り合いなら敬遠してしまうような、欠点だらけのアウトローをチャーミングに描いているところも映画らしくて好き。

性的マイノリティ同士の老いらくの友情は妙にまぶしくさわやかで、うまくいっているときの無敵感とそれでも必ず終わりがくる夏休み感は、やはり一種の青春映画だと言えるような気がする。そのモラトリアムの終わりのあとの余韻にもぐっとくる。

NYのたくさんの本屋/図書館/バーが、入れ替わり立ち替わりでてくるだけで、本当にわくわくするので、DVDで持っておきたい作品。

原題『Can you ever forgive me?』のウィットが示す通りの映画なので、邦題もその雰囲気を汲んでほしかったな。


★★★★