ファースト・マン

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月への不可能な旅路を体験せよ。
人類史上、最も危険なミッション

原題:FIRST MAN
監督・製作:デイミアン・チャゼル
脚本・製作総指揮:ジョシュ・シンガー
撮影:リヌス・サンドグレン
編集:トム・クロス
プロダクションデザイン:ネイサン・クロウリー
衣装デザイン:メアリー・ゾフレス
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
原作:ジェイムズ・R・ハンセン


物語的にはデイミアン・チャゼル作品の中で最も好きかもしれない。
抑制されたしずかな描写の中に充満する、死のにおいとリリシズム。淡々と描かれる偉業が非常に個人的な物語に帰結する構造は、『スポットライト』『ペンタゴン・ペーパーズ』の脚本家ジョシュ・シンガーの影響が大きいのかな、と思いました。


不在の存在を感じさせるうつくしいホームビデオ、という点では、『レイチェルの結婚』を、長い時間をかけてついに喪失と向きあう、という点では『永い言い訳』を、多くの屍の上に成した夢と狂気と覚悟がたどりついた最果ての地、という点では『風立ちぬ』を、彼岸から此岸への帰還、という点では『ハート・ロッカー』を思い出したりしました。

ただ、『ハート・ロッカー』が彼岸に囚われ、此岸に対する強烈な違和感を残したままラストを迎えるのに対し、『ファースト・マン』はいまだ隔たりはあるにせよ、ようやく帰還した、というニュアンスが強く、こころにほのかな灯りをともすような描写になっている、と思います。


それにしても、月と死というモチーフの親和性には改めて感じ入るものが。
ロケットは完全に棺桶に見えたし、月は黄泉の国だった。『メリー・ポピンズ リターンズ』の"The Place Where Lost Things Go"でも、失くしたものが行く場所は「behind the moon」や「on the moon」かも、とくり返し歌われていたことを思い出しました。

わたしも含め女性は、共感や共有を求めがちで、孤独や哀しみを分かち合えないことに一抹のさびしさを感じてしまったりする。
しかし、こと死については、たとえ同じ家族であっても、愛するひとの死に面してその背景や文脈はそれぞれちがう。そのパーソナルで不可侵な部分が、月の神秘性とあいまって改めて自分の中に染みこんだ気がしてよかったです。わたしはそれをときどき忘れてしまうから。

淡々としすぎて退屈だ、という感想も散見されるけれど、背景に流れるものが非常にリリカルでロマンティックでエモーショナル、そしてデイミアン・チャゼル印の「息苦しいほどの、当事者同士以外を寄せつけない閉鎖性」なので、これくらいのバランスでないと困る、と思いました。

その背景を下支えする音楽がとてもすばらしかった。「ルナ・ラプソディ」のレコード欲しい…。

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★★★★