寝ても覚めても

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愛に逆らえない。
違う名前、違うぬくもり、でも同じ顔。
運命の人は二人いた。

監督・脚本:濱口竜介
脚本:田中幸子
撮影:佐々木靖
編集:山崎梓
美術:布部雅人
衣装:清水寿美子
音楽:tofubeats
原作:柴崎友香


ウワー!邦画2連続で大当たり。東出さん見たさで行きましたが、ものすごい曲者映画でした。

理屈や正しさやモラルでははかれない愛、最果てからようやくスタートするかのような関係は、『ファントム・スレッド』を、夢から覚めて現実を走り出すラスト、東出さんをイチと二(もしくは彼岸と此岸)に分割、という点で、『勝手にふるえてろ』を思い出したりもしました。*1

朝子という人が実際に自分の周りにいたらきついと思うし、*2現実には自分はマヤさんの役回りを演じる側で、全力で亮平に味方するけれど。でもなぜだか、彼女のやってしまったこと、すごくわかるのである。彼女が真剣な話に入る際に水道を止めてしまい、皿洗いで泡だらけの手をもてあました亮平が困っている、というとても印象的なシーンがあるのだけれど、ことほど左様に、朝子というひとは不器用で思い詰めてしまうひとなのである。みんながふつうに通り過ぎてしまうことに立ち止まってしまうひと。*3また唐田えりかさんがものすごくぎこちない動きをするのもあいまって*4、その愚直さがすっと伝わってくる。本能で動くひとと観る人もいるかもしれないが、わたしにはむしろ自分の感情を信頼していないひと、のように映った。麦とのキスの瞬間にこそ本能が目覚めて、越えてはいけない地に線を引くことができた。

亮平は「いつかこんな日が来るんじゃないかとずっとこわかった」と言っていたけれど、おそらく朝子のほうがそれを恐れていたと思う。実際彼女のやってしまったことは、取り返しのつかない一発退場の案件であり、彼女自身も「決して許されることではない」とわかっている。そこから「だから謝らない」「だいじなものをだいじにする」と自分の意思をひたすらに貫き通す姿勢に、呆れる観客もいるとは思うが、わたしは勇気がわいた。強くてシンプルで感情的でいいじゃん、と。
走る彼女を晴れ間が渡っていくようなシーンは鳥肌モノでした。

行くところまで行き着いた男女二人がただただ川を見ている、というラストは、大好きな小説か漫画で同じものがあったはずなんだけど、どうしても思い出せない。「汚い川」「でも綺麗」というやり取りは、頭ではちがうことを考えていても、とりあえずはとなりで同じものを見続けているのが、限りなく「夫婦だよなー」と思ったりしました。

他にも、tofubeatsの主題歌の歌詞がすばらしかったり、最低で最高な合コンのシーンが、わたしの大好きな「侮って甘く見ていたひとが、頭をかち割ってくれる」件のミルフィーユになっていたりで、心に残るシーンがたくさんありました。数多の合コンをセッティングしてきたわたし的には、朝子×クッシー、亮平×マヤさんもだいぶアリだよ!

あと、このブログの解説、とてもわかりやすかった。
www.club-typhoon.com

原作も読んでみたいし、この監督の次作が早く観たい!


★★★★


*1:ニも出てるしな

*2:マヤさんの早産は朝子のせいだと思う笑

*3:だから逆にみんながふつうに立ち止まることに飛び込んでしまうひと

*4:これが演技ならすごいなぁと思いながら観ていました