桐島、部活やめるってよ

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全員、他人事じゃない。
スクールカーストの頂点に存在する「桐島」が部活を辞めたことから、学校内の人間関係がゆらいでいく様子を 複数の視点から描いた青春群像劇。

監督・脚本:吉田大八
脚本:喜安浩平
撮影:近藤龍人
編集:日下部元孝
美術:樫山智恵子
衣装:遠藤良樹
音楽:近藤達郎
主題歌:高橋優『陽はまた昇る』
原作:朝井リョウ桐島、部活やめるってよ』(第22回小説すばる新人賞


学校ってなんて自由で不自由な場所なんだろ。暗黙の了解によって決められた、上下・強弱関係やクラスタにがんじがらめにされてしまうのなんで。ヤマシタトモコの『HER CASE.3』を思い出しながら観ていました。

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・・・その5年後 16歳の自分が大切なものを
ドブに捨ててきたことに気づく
人類にあまねくふりかかる呪い 世界の決まり


そしてついに日本にも、と思ってふるえた。

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ひよわなアイデンティティを胸に、自分が拠れる最大限の「クール」「イケてる」の落としどころを考える帰宅部の空気もわかるし、片思いの相手のラブシーンに胸がひしゃげたあと、部活でなにかが「降りてくる」奇跡もわかる。すきなものと「つながってる」と思える瞬間に訪れる多幸感とすきなものに土砂降りのような愛と情熱をそそげる時間のぜいたくさも。


吉田大八監督のインタビュー

学校に40人子供がいたら40人分のパラレルな物語があるはずだっていう。それぞれの視線や思いが交わる場所で起こる小さい反応や大きな爆発を丁寧に拾っていけば、物語の世界が強くなるはずだと信じてやってました。

この考え方は映画を観ていてすごく伝わってきたし、すきだな、と思いました。


そのわりに女子に対する視線がちょっといじわるかな、とも思うけど。だってこの映画に出てくる女子って みんな美形で男子中心で、女子同士でウヒヒみたいなぼんくらがいないんだもの。あと学校で一番モテるのって梨紗みたいなタイプじゃないと思う。誰あろうわたしが、中・高時代、「校内で一番モテる女子の親友」というポジションだったので、なんかむーーーん……と。(とはいえそのポジションにあたる沙奈は嫌いじゃないけど。)わたしはもし男だったらやっぱりその親友と結婚したいし、もし武将だったら背中を預けるのはその子だと思ってるよ!

脱線したけど、すばらしいな と思ったのはキャスティング。600人規模のワークショップ形式でオーディション東出昌大の起用がハマったな、と。くそー、この高校もっと見てたいぜ!

あとは原作からの改変。わたしは映画のほうがすき。原作はキャラ造形や相関図なんかもかなりちがうし、もっと汗くさくて、青くさくて、原作なりの良さがあるんだけど。例えば桐島が部活を辞めたことによって、レギュラーを獲得した子に投げかけられるせりふなんかは、言うキャラも文脈も全然変わってるんだけど、よく効いてる。

とくに、桐島が部活を辞めた理由*1やラストの宏樹の電話について、観客に解釈が委ねられているのがおもしろい。
白眉なのはラスト。宏樹は桐島になにを伝えたいのか―。激励なのか理解なのか共感なのか追求なのか依存なのかSOSなのか衝動なのか―。わたしは、村上春樹的「どこにもつながらない電話」がしっくりくるかも。「桐島の喪失」=「二度と戻らない青春/王国の終わり」が、どことなくフィッツジェラルド感を醸していて。

わたし自身6年間寮生活の一期生という、奇妙な中・高時代を過ごしていて、卒業するとき「いつまでもこの楽園でぬくぬくしていられないなんて!」とちらりと思ったクチで。(だから大学以降の友だちに中・高のクラスメイトを紹介すると、「このメンバーが一堂に会していたなんて、なんたる温室!」と思われる。。。)*2

常々、映画について「批評」よりもっぱら「感想」に興味があるのだけど、この映画ではとくに。桐島的存在の子いた?とか、あの中だったら誰タイプが彼氏/彼女だった?とか、一番すきなキャラは?とか 益体もないこと聞いてみたい。「スポーツ万能」で「かっこいいね」なんて最も有無を言わせぬカードなんだから、からっぽなことなんて気にすんなよ とか身も蓋もないこと言いたい。

追記:
桐島、おかわりした。2回目のほうが細かいところまで目がいって、1回目はイマイチだったキャラも隅々まで好きになれた。(わたしの場合は吹奏楽部部長。)神木くんとフィールするシーンぐっときた!


★★★★★

*1:原作では、桐島が部活を辞めた理由はほぼ明かされている。うちの学校でもこんなかんじでバスケ部のキャプテンを辞めた子がいたので、たぶんリアルなんだろう。

*2:例えば、自分の誕生日には 「1.みんながHBの歌をうたってくれる 2.クラスメイト全員が寄せ書きしたバースデーカードがもらえる 3.カードをハグ付で渡してくれるひとを指名できる」なんて行事が執り行われていて、それをふつうにフヒャフヒャたのしめてたんだから、みんなとてつもなく素直でおっとりしたぼんくらとしか言いようがない。