怪物


怪物だーれだ

監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
撮影:近藤龍人
照明:尾下栄治
録音:冨田和
音響効果:岡瀬晶彦
美術:三ツ松けいこ
セットデザイン:徐賢先
装飾:佐原敦史、山本信毅
衣装デザイン:黒澤和子
衣装:伊藤美恵子
音楽:坂本龍一


きちんとサインは出してくれていたのに、久しぶりにきれいに地雷を踏み抜いてしまった。

hitocinema.mainichi.jp

カンヌで脚本賞クィア・パルム賞も獲っているのだから、たぶんわたしの感覚がずれているのだと思うのですが、とにかく合わなかった……。そもそもりんご発言や「社会的責任と思いやりを足した」発言から強烈な違和感を感じていたのですが、それをそのまま映画からも受け取った印象。奇しくも湊役の黒川想矢くんが「ぼくの周りでは聞いたことがない」と発言していましたが、実在するものの話をしようとしているのかすら疑わしい。

以下、ネタバレ




鑑賞しながら何度も「いゃぃゃぃゃぃゃ……」と言いそうになってしまった。「当事者でない」「意識の高い」「大人」が現代的なピースだけをつまんで不穏に利用した感がつよく、構成ありきでキャラクターが破綻していると感じた。
なんで痛い目みてるのに家族を善きものと?なんで保護者との面談で飴なめだすの?なんで先生を悪者に?あのおおっぴらにBL本読んでる美少女は同じ世界線の人間?キャバクラの噂は広まるのに星川家が噂されない地域なんてある?星川くんの家誰が掃除してるの?前半の不快感や疑問は後半裏返ってはいないと思うし、ただただちぐはぐな印象だけが残った。後半で「実はこうでした!」が明らかになっても、「この人があんな言動するか??」とますますわからなくなり、作り手の意図とは別の意味でこわくなる。あの校長先生、写真の角度計算したりスーパーで子どもに足ひっかけたりしてた人ですよね?

LGBTQに対する問題意識も2023年の話?と感じた。今の小学生はもうTVを見ていないし、いじめも保護者のクレームも学校の対応も違う次元に進んでいて、違った種類の問題を抱えていると思う。*1祖父母世代ならともかく、今親や教育現場が「男らしく 女らしく」なんて言ったら即アウトという空気がある。むしろ建前的には「誰を好きになっても好きにならなくてもどんな家族をつくってもつくらなくてもよい」とはされているが、意識がそこまで追いついていないことによる差別や歪みが噴出しているフェーズで、映画にはその先を見せてほしかった。

奇しくも上に挙げた問題を露呈してしまっているのが、この映画という気がした。誰しも「怪物」になり得るし「理解」しますよ。ただしわたしたちが決めた文脈と美意識の範囲内でなら。あの廃バスの内装のおしゃれさに象徴される、この映画の気持ち悪さよ。


★★

*1:例えば、劇で歌って踊るだけの妖精役に女子だけが配役されたらクレームになる。そしてそのクレームの内容もあっという間に広まる。夏でも長袖長ずぼんの子はすぐに親の思想や虐待を疑われる。子どもが少しすり傷をつくっただけでも先生に陳謝される。保利先生も怪我させてしまった時点で親に連絡するようマニュアル化されているはずだ。内心どう思っていようととにかくクレームを避けるために。とくに意識が高いわけでもない地域の情弱な一保護者ですらそう感じるのだから、必死に現場でがんばっている教育者がこの映画を観たら卒倒すると思う。