ノマドランド

f:id:tally:20210423101020j:plain


2020年ヴェネツィア国際映画賞金獅子賞
第93回アカデミー賞作品賞/監督賞

原題:NOMADLAND
監督・脚色・編集・製作:クロエ・ジャオ
撮影監督:ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
音楽:ルドヴィコ・エイナウディ
原作:ジェシカ・ブルーダー


風の時代……と感じた。ものすごくしずかで、ありえないほど没入感が高い映画。

没入感の高さから『燃ゆる女の肖像』を思い出したりしたものの、エモやドラマ性の強さはなく、ドキュメンタリーとフィクションの間を縫うような淡々とした語り口。最初は「わたしにも高齢になってからのノマドできるだろうか……」という気持ちで観ていた。中学生からの寮暮らしの影響か、物を多く所有するのが苦手。ひとりでいるのも好き。気質的には向いている気もする。からだもつよい。ただ、DIY精神や人間関係のフラットさに難があるかも…。あとやっぱりお風呂は入りたいし、こんなごはんを食べていたら健康は維持できないな、など。

放浪の民という道を選び取って生きていても(だからこそ?)、過去や思い出は後生大事に抱えて生きていくしかない。思い出のお皿が割れてしまうシーンや車中生活よりもよほど緊張して見える訪宅のシーンなど放浪者の心を映しとる繊細な描写。そして、観る者を圧倒する雄大な自然描写、ふつうに生活していたらついぞ観ることのない風景。この2つがていねいに織り紡がれているのが印象的だった。

ここのところ、多様性の受容やダイバーシティがトレンドだっただけに、開拓の時代に回帰するような在り方は自由で心強く感じる一方、すこしおそろしくもあった。もう国家や社会は本当に崩壊しかけているのかもしれない。自分の身を守ること、自分の人生を生きること、と同時に次代のことが頭をよぎる。「姉にお金を借りる」という選択肢はとても重かった。経済や家族という資本。

劇伴がとても良くて、正直音楽と撮影がそのまま映画の印象になっているような気がしなくもなかった。クロエ・ジャオ監督のMCU、どんな感じになるんだろう?


★★★★