トップガン マーヴェリック


誇りをかけて、飛ぶ。

原題:TOP GUN MAVERICK
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本・プロデューサー:クリストファー・マッカリー
脚本:アーレン・クルーガー
撮影監督:クラウディオ・ミランダ
編集:エディ・ハミルトン
プロダクションデザイン:ジェレミー・ヒンデル
衣装:マーリーン・スチュワート
原案:ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス
音楽:ハロルド・フォルターメイヤー、ハンス・ジマー
主題歌:レディー・ガガ


ここ15年くらいわたしの心の中の「亡くなったら一番悲しい俳優」はずっとトム・クルーズなので、IMAXでこんなん観せられたらさ……。トムの生きざまに全力でぶん殴られて泣きました。

まずは、1986年の『トップガン』を復習したのですが、これも相当感慨深かった。「あぁ…この時代ってこれが『イケてる』だったんだな…」とすさまじい郷愁が。その中でもビッカビカに色褪せないトムの魅力!とくにルッキズム全盛の時代に、170cmというアメリカ人にしてはかなり恵まれない身長で、ここまでスター/ヒーローを体現できるのは改めてすごいと感じた。

たかだか約35年で激変してしまった「イケてる男」像にトムとトップガンがどう挑むのか…と思っていたら、思った以上のストレート豪速球でトムそのもので勝負してきてて、制作陣の自信と信頼にまた泣いた。

マーヴェリック(=トム)は問題の有る無しで言ったらめちゃくちゃ問題あると思うし、自分の好みとも違うタイプの人間なんだけど、その溢れんばかりの才能と実力とスター性、ゆるぎない信念に向かっての狂気的な努力、ここでしか生きられないという切実さが、モブ(=わたし)を黙らせ深く感動させる。ただ彼のミッションの奇跡を心から祈るしかなくなる。もうトム自身が奇跡すぎて、神々しいまでの映画的説得力がある。

クリード』型の継承そしてバディへ…という展開、「戦闘機」「トム」「ハリウッド映画」が三位一体となったメタファーはもう胸熱すぎて……。続編としても完璧で、細かなアップデートに感心しつつ、丁寧すぎるオマージュには笑ってしまった。*1

久しぶりに感じた原始的で圧倒的な昂揚感!若い世代がどう感じるのか気になるけど、「ハリウッド魂は死せず!」"Not Today!"*2という心意気を感じました。とにかくもう一度観たい!


★★★★★

*1:裸ビーチとかおじになってもずっと怒られてるトムとかはさwww

*2:LOTR』といい『バトルシップ』といい、このせりふ映画映えしすぎるよな……

ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス


禁断の世界<マルチバース>が、開かれる

原題:DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERSE OF MADNESS
監督:サム・ライミ
製作:ケビン・ファイギ
脚本:マイケル・ウォルドロン
撮影:ジョン・マシソン
編集:ボブ・ムラウスキー、ティア・ノーラン
美術:チャールズ・ウッド
衣装:グレアム・チャーチヤード
音楽:ダニー・エルフマン


サム・ライミも魔術も大好きなので、ダークなファンタジアみたいな映像は楽しかった……けどストーリーは無理すぎて、正直ずっとワンダ勝て!こんな世界は滅びろ!と思いながら観てしまった。That Doesn’t Seem Fair.

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カモン カモン


君の話を聞かせて
突然始まった甥っ子との共同生活。
戸惑いと衝突、想定外から生まれた奇跡の日々。
ホアキン・フェニックス主演×マイク・ミルズ監督×A24製作
アカデミー賞常連チームが贈る最高に愛おしい物語


原題:C’MON C’MON
監督・脚本:マイク・ミルズ
撮影監督:ロビー・ライアン
編集:ジェニファー・ベッキアレッロ
美術:ケイティ・バイロン
衣装:カティナ・ダナバシス
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー


とにかく撮影がうつくしかった。世にもうつくしいホームビデオのようなモノクロの映像は、ちょっとこちらに思い出補正すら意識させるほど全編やさしくて愛おしい。
「そのひとのすべてを理解する」ことをあきらめるということ、そのうえで「対話する」ことをあきらめないということ。内容がblah…blah…blah…であっても、第三者や台本に頼ったとしても。これは映画内のインタビューが示唆するように、家族にとってはもちろん、世界全体にとっても良い方向へ向かっていくために必要なメッセージだなぁとしみじみ尊かった。

しかしマイク・ミルズの目線のせいもあるけれど、わたしにとっては出てくる人々がみんなもれなくりっぱすぎて、ちょっと「生きててすみません…」という気持ちが顔を出したのも事実。
とくにわたしはやはり母ヴィヴに思い入れて観てしまったのだけれど、「9才でまだこんな感じなのか…?おまけにパートナーも……?しかもこのおじしか頼れない感じ………??」と胃が悲鳴をあげそうになってしまった。それであのネット台本みたいな会話日常的にできるの神すぎんか?「クソ人生へようこそ」は笑ったけども。

ジョニーも確執があった妹の子に対してこんなにジェントルな対応ができるなんて……。親でなくておじさん、という設定が良かったし、わたしは親戚に自分に似ているひとやこんな関係値のひとがいないので、とてもうらやましかった。まぁ、わたしならあの歯ブラシ大喜びで買っちゃうけどね!


★★★★

TITANE/チタン


頭蓋骨に埋め込まれたチタンプレートが引き起こす「突然変異」。
常識を逸脱した先にある<映画>の未来を受け止められるか。
第94回カンヌ国際映画祭パルム・ドール

原題:TITANE
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
撮影監督:ルーベン・インペンス
編集:ジャン=クリストフ・ブージィ
プロダクションデザイン:
ローリー・コールソン、リ ス・ピウ
衣装:アン=ソフィ・グレッドヒル
音楽:ジム・ウィリアムズ


ボディ・ホラーや身体損傷描写が苦手なので、「これは無理そうだな……」とあきらめていたのですが、信頼の某店主評が送られてきて、「観ないとだめそうだな……」へ方向転換。

結果、逃さないで本当に良かった。観客の好き嫌いを超越するようなすさまじさと「観たことなさ」。頭の中は「!?!?!?」、心の中は「これなんの感情!?」となっており、よくわからんがすごいものを観せられていることだけはわかる…という感じ。正直最初は「痛…つら…これは途中退出あるかも…」と脱落しそうだったけれど、終わってみれば涙を流しており、もう一度観たいとすら思っている自分がいた。


このお方が撮ってるんか……
クローネンバーグ、塚本晋也ポランスキー、個人的にはヴァーホーヴェンのメンタリティなんかが頭をよぎりつつも、圧倒的なオリジナリティ。

とにかくメタファーがブッ飛びすぎてて、逆に観客がどのようにでも引き寄せられる度量を持った、とても普遍的なことが描かれているようでもある映画。頭にチタンプレートを埋め込まれた少女、車とのセックス、マチズモの中に潜伏する抑圧された母体、爆発で退場する「良心」、老消防士が母となって取り上げる異形の子、全編にわたって効果的に使われる様々な金属―これらがなんのメタファーなのか考えるのはもちろん、考えなくてもおもしろいのがすごい。

性/愛/善悪/家族/生死の垣根を超えた描写を観つづけていると、逆にその核みたいなものに触れるような、言葉にならない感覚がある。ラストの狂気しかないけど全力で信じてしまう「俺がついてる」、モーターショーとの対比がすばらしい消防車の上でのダンスなどは、ほんとうに様々な感情の濁流にのみこまれるようだった。


www.youtube.com


この様々な感情の中には笑いも多分に含まれていて。上記のうつくしく神々しささえ感じられるようなシーンですら笑いが感じられるのが、この映画の味わいだなぁ、と。
マカレナで心臓マッサージ、エンジンオイル母乳、屈強な消防士たちのモッシュ、きわどすぎるステロイド注射芸あたりは、なんかもう笑ってしまった。

★★★★

ベルファスト


明日に向かって笑え!
1969年、激動の時代に揺れる北アイルランド ベルファスト
故郷を想う、家族を想うー大切な想いを持つすべてのあなたに贈る人生讃歌
第94回アカデミー脚本賞

原題:BELFAST
製作・監督・脚本:ケネス・ブラナー
撮影監督:ハリス・ザンバーラウコス
編集:ウナ・ニ・ドンガイル
美術:ジム・クレイ
衣装:シャーロット・ウォルター
ヘアメイク:吉原若菜
音楽:ヴァン・モリソン


徹底的な子ども目線の 狭い範囲で描かれる世界、にぎゅっと詰まっているもの。世の中の不条理や分断や暴力。でもたしかにある日々のかけがえなさや生きる喜び。そして故郷への愛。半自伝的な作品だけあって、とてもちいさくごくごく個人的な物語に神が宿る典型の映画だと思ったし、わたしはオスカーが似合う映画だな、と思った。(個人的に町の話に弱いってのもありますが……。)

『ジョジョ・ラビット』にとても近い手法だと思ったけれど、起伏やドラマ性は極端に少ない。起こっている事態の深刻さに対して、『ジョジョ・ラビット』は「リアル」と「ファンタジー」でバランスを取っていたように思うが、『ベルファスト』は「現実」と「日常」ー本来同じものを目線や緩急の違いで描き切っていたように感じる。だからこそ子どもの感性のみずみずしさと、その目の端にうつる不穏分子が強調される。

何よりこのカトリーナ・バルフはものすごい名演だと思う。親の苦悩や葛藤、それを子どもに隠している、という前提で演じるだけでも難しいのに、さらにそれを「子どもから見える母」として演じている。

バディの記憶の中で輝きつづけるであろう"Everlasting Love"には思わず涙してしまった。

あとは、ラストのジュディ・デンチ。ラストの"Go. Go now. Don't look back."の強さには本当にしびれるし、この映画の後味を決定づける最高の仕事だったと思います。


★★★★

ガンパウダー・ミルクシェイク

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甘さひかえめ。
新世代をブチ抜く、シスター・ハード・ボイルド・アクション!

原題:GUNPOWDER MILKSHAKE
監督・脚本:ナヴォット・パプシャド
脚本:エフード・ラフスキ
撮影監督:マイケル・セレシン
編集:ニコラス・デ・トス
美術デザイン:デヴィッド・ショイネマン
衣装デザイン:ルイーズ・フログリー
音楽:フランク・イルフマン
スタント&ファイトコーディネーター:ローラン・デミアノフ


シンプルすぎる物語で、ストーリー運びもちょっとちぐはぐだったりするんだけど、それでも最高ポイントだらけで加点してもしきれないくらいだった。正直、ド頭の母娘が向かい合ってミルクシェイクを飲むシーンからもう感極まってしまった。

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fnmnl.tv


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父子だと殺したり乗り越えたりしなければいけないのが「物語」だけど、この映画は母娘を相棒にしてしまう。

180cmの女殺し屋、中年女性主体のキャスト、ゆとりあるパンツルックでもかっこいい衣装(スカートや制服は偽装!)、民主主義による動議可決、家父長制や復讐の連鎖を次の世代に残さない、力技でも男に勝つ、そしてミシェル・ヨーのうつくしい斜め後ろ顔ーーー!

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図書館でのアクションがピークで、ダイナーでの決闘は蛇足という感想もちらほら見かけたんだけど、絶対に要ると思います!今までパンツルックだった女たちが「見くびられ」の象徴であるウェイトレスの衣装や男たちが決めたルールを逆手に取って勝つ、男たちの後始末に送り込まれてきた女たちが女の後始末を引き受ける、という意味がある。なおかつ自分のケツを拭こうとして力が及ばない若者を助ける(おそらく彼女たちの時代には与えられなかったであろう救いの手。f**k自助!)という描写で、レジェンドたちへのリスペクトも示していると思う。

「女こども」で括られなめられてきた「子ども」をめちゃくちゃ対等に扱っているのも良かった。働いている女にとって子どもはあたりまえに戦闘要員だ。子どもを助手席に乗せない。2人でポルシェの運転席に座る。メタファーつよ!
それでいて見せたくない/聞かせたくないものから子どもを守る描写も効いている。エミリーにヘッドホンをつけるよう促すカーラ・グギーノの"Can you do that for me?"という頼み方には思わず泣いてしまった。命令調でも「for you」でもない。最大限子どもの意思を尊重しようとする姿勢。


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なにしろ図書館が女たちのセーフスペースかつ武器庫で、ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』に銃が隠されているなんて!実際にスクリーンに映し出されているのを観たら、その何重もの意味にぶん殴られて泣いた。
なんと監督は「脚本に特定のメッセージを込めたつもりはない」と言っているんだけど、そんなことある!?汲まざるを得ないでしょ!

今までアクション映画での「女こども」の描かれ方のどこにストレスを感じていたかがよくわかる映画なので、逆に男性が観たらストレスを感じるのでは…という気もしたけど。鑑賞中ずっと頭の片隅で「なぜこんなにストレスなく観られるのか」ということを考えてはまた泣いた。

というか、わたしが感じたこと、ここ↓にほぼ書いてあった…。すばらしい批評です!

www.cinra.net


★★★★★

THE BATMAN-ザ・バットマン-

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マスクに隠された「嘘」を暴け。
『ジョーカー』の衝撃を超える、最高危険度の謎解きサスペンスアクション

原題:THE BATMAN
監督・脚本:マット・リーブス
脚本:ピーター・クレイグ
撮影:グレイグ・フレイザー
編集:ウィリアム・ホイ、タイラー・ネルソン
美術:ジェームズ・チンランド
衣装:ジャクリーン・デュラン
バットスーツ衣装デザイン:グリン・ディロン、デビッド・クロスマン
音楽:マイケル・ジアッキノ


ずっと暗い!最高!ゴッサムシティのエルロイみ!
そしてこんなにかわいいバットマンいる!?2年目設定とキャスティングは絶対にオタクの所業!ポール・ダノバリー・コーガンがマブとか!?*1

以下、バットマンかわいかったポイント

  • だるだるスウェットで新鮮なベリーをつまむ
  • 観客に考えさせる前にクイズ全部答えちゃう
  • ルフレッドとのカフスのくだり(信頼関係の途中…)
  • ルフレッドの家族はおれだけ…ってエモくなってるとこ
  • マスクの耳、コウモリのやつ胸にカチッ(それを自分で考案…)
  • (おれの)バットモービルのエンジン…ドヤ!
  • 飛ぶの一瞬びびっちゃう(→そして盛大に着地失敗)


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白人大富豪としての特権を責められ、ペンギンに「くたばれサイコ野郎」と罵られ、リドラーに恐怖/暴力装置として評価され、一般市民にドン引かれ、実際ぶっちぎりの狂気を発揮しながらも、生身でなんとか善をなそうとする人間味にぐっときました。歴代バットマンの中で一番愛おしい……。
キャットウーマンがキスするの意味わかんない、という評よく見かけたけど、いやするだろ!?いわゆる男女の愛情でなくとも。なんか思わずしたくなっちゃう隙といとおしさがあるだろ!?わたしの周りには今までロバート・パティンソンなんとも思ってなかったけど死ぬほど愛した、という女子けっこういましたよ。
あとあのテーマ、ピアノで弾きたすぎるよね。


★★★★

*1:そもそもリドラーもジョーカーも誰が演じているか知らなかったので、ポール・ダノの顔出た瞬間ふいた