夜明けのすべて


思うようにいかない毎日。
それでも私たちは救いあえる。

監督・脚本:三宅唱
脚本:和田清人
撮影:月永雄太
編集:大川景子
助監督:山下久義
美術:禪洲幸久
衣装:篠塚奈美
音楽:Hi'Spec
原作:瀬尾まいこ


原作既読だったので、三宅唱監督が映画化すると知った瞬間から「絶対に良い!」という確信があった。

原作の感想↓

ちょうど朝井リョウさんの『正欲』の次に読んだので、不思議とリンクしている部分を感じた。
自分でコントロールできないことについて、自分以外についてはあまりに無知、というところからの理解や前進について、あちらは性欲、こちらを持病をモチーフに語られている。

瀬尾まいこさんの作品はかなりヘビーな事柄をとても自然に風通し良く描くさまにいつも感動する。今作もこんな風に人同士が関わって変わっていけたらなという絶妙な希望の提示がされていて、世界がやさしい。現実的にこんな踏み込み方はなかなかできないけれど、そうでないと突破できないこと。


すべての描写が上品で、すべての距離感が適切だった。ふたりの、その周りのおとなたちの、原作との、観客との。原作のエッセンスや作風に誠実に向き合った上に、三宅監督のメッセージが乗せられているすばらしい映画化だった。

「他者への思いやり」。本作ではおせっかいや重荷と紙一重の親切も描かれる。母親からの定期便や藤沢さんの差し入れや突然の訪問。しかし、都度母親にお礼の電話を入れる藤沢さんや、確実に変わっていく山添くんの姿を観ていると、ひとの親切をジャッジすることはひとの持病をランク付けすることくらい傲慢なことなのかもしれないと思えてくる。「(たとえ苦手な相手であっても)助けられることはある」という真理。

栗田科学のひとたちのさりげない心遣いや厚いまなざしはお手本にしたい、と本当に感動した。また、離れてしまったように見えても、元部下や元パートナー、喪った家族に対する想いは在りつづける、という描写も、星の話と併せて効いていた。

全編を通して光の描写がすばらしかった。山添くんが自転車を走らせる陽光、夜の会社をあたためるストーブ、移動式プラネタリウムの中に広がる満天の星、はるかかなたの遠くの星から時間差で届く光、ふたりの心を映し出すかのようなトンネルの明暗、夜を過ごすすべての人々を見守るような街の灯り。そこに寄り添うHi'Specの音楽。

「病気になって良かったことある?」という藤沢さんの質問に対して、山添くんといっしょに観客も変わっていく映画だったし、ヨガに通いつづけいつもきちんと暖かくしている藤沢さんの姿が、PMSを抱えながらも自分をいたわりつづけているように見えてとても良かった。
「明けない夜はない」「ひとはより善く変わっていける」というまっすぐすぎるメッセージが、そっと、しんしんと心に降り積もっていく。観終わった後には髪を切った後のような晴れやかさが残った。


★★★★

哀れなるものたち


2023年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞


原題:POOR THINGS
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
撮影:ロビー・ライアン
編集:ヨルゴス・モブロプサリディス
美術:ジェームズ・プライス ショーナ・ヒース
衣装:ホリー・ワディントン
音楽:イェルスキン・フェンドリックス
原作:アラスター・グレイ


以下、ネタバレ

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ナイアド その決意は海を越える


心揺さぶる感動の実話

原題:NYAD
監督:エリザベス・チャイ・バサルヘリィ、ジミー・チン
脚本:ジュリア・コックス
撮影:クラウディオ・ミランダ
編集:クリストファー・テレフセン
美術:カーラ・リンドストロム
衣装:ケリ・ジョーンズ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
原作:ダイアナ・ナイアド

なるほど!監督は『フリーソロ』の夫婦コンビなのかー!常人ならざるアスリートを題材にする確かな手腕に加えて、今作は監督初の劇映画ということで、ドキュメンタリー以上にド直球の感動と勇気がもらえるドラマになっていた。

偏執的にすら見える情熱と野生動物のようなエネルギーで、過去の自分を乗り越えようとするダイアナ・ナイアドの姿が美しいのはもちろん、なにしろサポートチームのキャラや距離感の描写がすばらしかった。無償でサポートする葛藤を抱えつつ、「退屈させない」「冒険」を選んでしまう姿にもまた元気をもらえる。
MVPはなんと言ってもジョディ・フォスター!「あんたが誰よりナイアドよ」には泣いた。スターの脇で人生を狂わされてしまう人間はごまんといるだろうけど、「自分の人生の主人公は自分」と決めたうえでそれでもナイアドのそばにいることを選ぶのが本当にすてきだ。最高のバディ!

誰もが警戒を解いてしまうようなカラッと明るいオーラを常に放っていて、演技でこの佇まいの説得力を出せるのすごいなと思いました。アネット・ベニングとの掛け合いも阿吽の呼吸で小気味よかった。

60代になっても友だちをだいじに元気でがんばろうと思えました。(小並感)わたしも中年になってから始めた勉強やスポーツがあって、運動神経や記憶力の衰えに悲しくなったり、「もっと早く始めていれば…」と悔やんだりすることもあるのだけれど、理解力や向き合い方、なにより切実さは若いときよりアドバンテージがあったりする。この年になると、才能がなくてもあきらめずに続けていけば多少なりとも上達はするということがわかる。若いときは成果を焦って、人と比べたり、思うように結果が出ないと嫌になってしまったりするけれど、中年になると自己満足だと割り切って立ち向かえるなーと思ったりします。ナイアドが60代にして精神面でも大きく成長するという描き方になっていたのもとても良かったな。「個人競技だと思っていたけれどチームスポーツよ」にはやられた!


★★★★

カラオケ行こ!


青春も延長できたらいいのに。
歌がどうしてもうまくならないといけないヤクザは、変声期に悩む合唱部の中学生に歌のレッスンを頼んだ。

監督:山下敦弘
脚本:野木亜紀子
撮影:柳島克己
編集:佐藤崇
美術:倉本愛子
装飾:山田智也
衣装:江口久美子
音楽:世武裕子
主題歌:Little Glee Monster
原作:和山やま


原作既読。座組が発表されたときは正直「監督&脚本は間違いなさそうだけど、綾野剛が狂児かー⤵」と温度低めの反応だったのですが……。冒頭の雨に濡れそぼった白シャツはりつき綾野剛見た瞬間なぜか村上春樹になったよね。「やれやれ」と。え?こう来る?こういうこと?野木亜紀子先生こっわ!
蓋を開けてみたら、山下敦弘監督の一曲を爆発させる力も、綾野剛の色気も、齋藤潤の和山やま顔っぷりも、ずるすぎてサイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!でした!

まず、映画として秀逸な山下敦弘監督印の青春/モラトリアム映画になっていたのが良かった。原作に足されたピースがことごとく成功している。紅の訳詞。虎柄の音叉。お父さんが選んでくれた傘。ほかほかごはんの上に放られる鮭の皮。和田くんの厨二っぷり。映画を見る部の巻き戻せないVHS。

ポスターかわいすぎる。ビジュアルイメージが最高なのはもちろん、『バック・トゥ〜』は青春感や時空を超えて助けに行く感、『E.T.』は異星人との邂逅、『ラ・ラ・ランド』はまぼろしのように過ぎ去った恋、というように映画のテーマとばっちりリンクしているのが良い!


原作ファンが憂慮していた「ここをこうされたらきついかも」という部分も丁寧に調整されている。和山やま先生の笑いの感覚やBL要素がきちんと映画に翻訳されている感じ。聡実くんが家にも学校にもきちんと居場所がある上で狂児に惹かれていく、という描写になっていたのも精神衛生上良かった。さらに、実写化したらこんなに楽しいんだ!というヤクザのカラオケ講習会、合唱部のゆるい感じ。極めつけに、ここがエモくなけりゃどうしようもないという聡実くんの熱唱シーン!笑いと涙が同時にこみあげてくる超カタルシスをいただきました。

あとは、とにかく老若男女人類すべてをたらせる綾野狂児の魅力よー!あの「聡実くぅ~ん」は忘れられないよ。わたしもあんなまんがみたいな足に生まれたかった!あの狂児を浴びたいがためにDVD買ってしまいそうな自分がいます。もはや中毒。

ファミレスも行こ!


★★★★

ザ・ホエール


僕は信じたかった。
異色の室内劇×壮絶な心震わすヒューマンドラマ
第95回アカデミー主演男優賞

原題:THE WHALE
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:サム・D・ハンター
撮影:マシュー・リバティーク
編集:アンドリュー・ワイスブラム
美術:マーク・フリードバーグ、ロバート・ピゾーチャ
衣装:ダニー・グリッカー
音楽:ロブ・シモンセン
原作:サム・D・ハンター

ブレンダン・フレイザーをはじめ役者陣の演技はすばらしかったと思うのですが。
ごめんねぇぇぇ!チャーリーすっっっごく嫌い!!このキャラをブレンダン・フレイザーのチャームで糖衣してるの本当に腹立つ!!!

そもそもチャーリーの言動は今後も続く関係を想定していなくて…。元妻、娘、生徒、すべて言い逃げ。彼らはチャーリー劇場の舞台装置じゃないから。リズとの関係性の複雑さ(まぁお互いをアランごと真空パックしたい共依存だけど)はとても味わい深かったのに、この一番濃い絆に対する仕打ちよ……。"Sorry"と口では言うけれど本当に思ってたらそんなことしないよね?という行動ばかりが目につく。自分をだいじにできないひとは他人もだいじにできないってこと??

そんな人にいくら「きみはすばらしい」と言われても響くわけないよ。(自分が言ってほしい言葉を並べてるだけのようにも見えたし、そもそも娘のこと「作品」と呼ばわる親なんて全く信用できない。)てかなにちゃっかり二度目の超弩級のトラウマ負わせようとしてんだよ。邪悪な娘よ、やつが死ぬのを後悔するくらいキレッキレの返ししてやんなと思えば、あっさり牙を抜かれて舞台装置になり下がる始末。がっかり。(もう最後はチャーリーの願望というか射精に見えたし、もしかしてオナニーに始まりオナニーに終わる映画だった?)

わたしはトーマスも全く救われていないと思うし、結局この映画の「人は人を救えない」ということはいやというほどわかりました。「人は人を気にかけるからすばらしい」とか言ってたけど、こんな関わり方されるのなんてお断りだよ。ただ密室劇としてとてもおもしろくはあったし、人の意見が聞きたくなる映画だとは思う。*1


★★

*1:いろいろな人の感想を読んでみたけれど、だいたいの人が感動したり泣いたりしていて、またわたし一人が怒ってるのか!もうイヤー!となりました。わたしやっぱり怒りっぽいのかな?

枯れ葉


愛を、信じる
第76回カンヌ国際映画祭審査員賞

原題:KUOLLEET LEHDET
英題:FALLEN LEAVES
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
編集:サム・ヘイッキラ
美術:ビレ・グロンルース
衣装:ティーナ・カウカネン
音楽:マウステテュトット


映画初めにぴったりの、ミニマムでこころに染み入る良作でした。

news.yahoo.co.jp

まず、6年ぶりに、引退を撤回してまでカウリスマキは何を撮りたかったのか、というところにぐっときてしまった。インタビューの「愛を、もう一度勝たせてやろう。主役のふたりはとにかくいい人たちだ。殺してしまうなんてできない」という言葉に集約されると思う。
くり返しラジオで流れるウクライナのニュースに、主役のふたりは、カウリスマキは、心を痛めている。しかし、自分が直接的に何か状況を変えることなどできない。今を生きる全世界の人々が抱える憂いと無力感。そもそも映画のふたりは職を失ったり、アル中を患っていたり、と自身の日々の生活にも深刻な問題を抱えている。現実に起きている他国の戦争も、映画の中の個人の生活も、ままならないし世知辛い。
でも、せめて映画の中で、自分たちの意思でどうにかできることについては、カウリスマキはなんとかしてくれようとしたのではないか、と感じた。同僚が職場をいっしょにクビになってくれること、その彼女と手をつなぐこと、連絡先をなくしてしまった相手と再会すること、犬を拾うこと、酒をトイレに流し彼女に会いに行ける自分になることー。

クスッと笑ってしまうようなユーモアのセンスも、犬描写も、あいかわらず最高だった。犬に「(電話)出て」と言う女、好きにならずにいられようか!そして病院出たら、このふたりが待ってるって…!世の中捨てたもんじゃないって絶対みんな思っちゃうじゃん!

今まで出演してきた愛犬とまたちがう犬だなぁと思ったら、新たな犬(アルマ)迎えてるじゃん。好き。

kareha-movie.com

しかしどうしてカウリスマキの愛犬は、こんなにもTHE・カウリスマキの愛犬なの?こういう犬がカウリスマキの元に集まってくるの??

『ル・アーヴルの靴みがき』のライカ

希望のかなた』のヴァルプ


クセになる音楽もとても良かった。フィンランドスパイスガールズww

news.kingrecords.co.jp


アンサ役のアルマ・ポウスティさんがトーベ・ヤンソンを演じた『TOVE/トーベ』は、たしか妹がその年のベストに挙げていたので、改めて観てみようと思いました。


★★★★

2023年の音楽をふりかえる

ecrn awardに投稿しました!
https://ecrn.web.fc2.com/tally23.html



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今年はなんといってもはじめて経験する推しのソロ活!久しぶりに目がバッキバキになりましたが、寝不足をアドレナリンが上回る楽しくて幸せな日々でした。リリース前は「音楽的に推せなかったらどうしよう…」と不安でしたが、届いたアルバムはアーバンでメロウでちょっとメランコリックでレイジー。The WeekndとかRHYEみがあって、推しの個性と合ってて大正解でした!ありがたい!


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タイトル曲の前にきた先行シングルはアルバムの中ではちょっと異色なんだけど、バッチバチに踊ってくれていて本当に感謝でした。わたしは推しのダンスを愛しているので。リルケの詩を纏う推しという概念〜!


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#ThisIsJiminというダンスコンテンツも始めてくれて…。とくにこの"Stuck With U"のダンスは、推しの好きなところが詰まっていてごはん何杯でもいける…。


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首の切り方が神……!このターンだけでごはん何杯でも(略)


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推し以外ならこれ。とてもパーソナルで物語性があって心の奥にそっとしまっておきたくなる作品。飽きない。ずっと聴いてられる。


今年はK-POP(ていうかHYBE…)はもちろん、それ以外の韓国発のアーティストもよく聴いていました。

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韓国以外だとこのへん。

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夫に教えてもらったハードコアバンドTurnstileは、すごく気に入って元アルバムの『Glow On』もよく聴いた。ライブ行ってみたい!

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曲単位で言うと、今年一番聴いたのはまちがいなくこの曲*1で、すごくパワーをもらったし助けられたんだけど…。まだLizzoの件があいまいなままなのですごくかなしい。


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その他よかった曲。

  • Mura Masa feat. Daniela Lalita / Drugs


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  • Jimin / Like Crazy


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  • Jung Kook feat. Latto / Seven


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  • So!YoON! feat. RM of BTS / Smoke Sprite


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  • So!YoON! / Bad


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  • Sunset Rollercoaster feat. 鳳小岳 / Levia


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  • Hojean / Easily


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  • タイムマシーンにのって/家族の風景 / PUNPEE


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  • EVISBEATS feat. 田我流 / Shooting Star


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あと、このMVズルすぎない?わたしにとってNewJeansはどうしてもモヤる存在ではあるのですが、これにはさすがに映画好き界隈もざわついてたよ!トニー・レオン召喚はチートすぎる…(しかもチョン・ホヨンまで!)


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子どもお気に入り枠
  • YOASOBI / アイドル


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  • Perfume / すみっこディスコ


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さて、今年の肉体事情ですが、また太っちゃった…。おやつを食べすぎている。自分はおやつと気分転換が直結していて、気分転換が必要なことが多すぎる。かるく依存症だなぁと自分でも思う。自己嫌悪にならないように来年は体重を戻したいです。バレエは一生無理だと思っていたポワント(トゥシューズ)でのピケターンができたので、次は連続、もしくはピルエットWをがんばりたい。推しが帰ってくるまでにできるように!

*1:子に吐きそうになるほど聴かされたのは『アイドル』ですが……